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忘れられないあの試合〜2007年8月11日の出来事〜

最も悔しかった試合はなにかと問われ、すぐに思い出す試合がある。
14年も前の出来事だが、あの試合で味わったあの感情を一生忘れることはないだろう。

今から綴る私の人生で最も悔しかった試合は、Jリーグサポーターとしての立場で経験したことだ。
競技者としてスポーツに親しんできた中でも、数多くの試合で喜怒哀楽を感じてきた。ただ、最も強く悔しいという感情を抱いたのは、サポーターとして愛するチームを応援している中で経験した、とある試合だ。

2007年8月11日。


いまから14年前の2007年。
私の応援しているプロサッカークラブ・横浜FCがクラブ創設以来初めてのJ1でのシーズンを送っていた年のこと。

悲願だったJ1の舞台は、想像を遥かに超える苦しい場所だった。
順位表の一番下に愛するチームの名前があることも辛かったが、何よりも辛かったのは、選手たちの顔から笑顔が消えたことだった。

うまくいかないシーズンを送る中、迎えた2007年8月11日。
どんなに勝ち星に見放されても、大好きなクラブの試合を観ることが生き甲斐だった私はこの日もスタジアムに足を運んだ。

この日行われた試合は、J1第19節・横浜F・マリノス VS 横浜FC。
通称・横浜ダービーと呼ばれる一戦。

私にとってスタジアムで迎える初めての横浜ダービーだった。

当時小学生だった私も、横浜ダービーの雰囲気が普段のリーグ戦とは全く違うことを感じていた。
目には見えない両チームのプライドとプライドがぶつかり合うような。言葉に表すことが難しいが、とにかく独特な空気がスタジアムに流れていたことを思い出す。

横浜ダービーと普段の試合の雰囲気の違いは理解できたが、ダービーの重みや重要性などは小学生の私に理解できるわけもなく。

私はこの日の試合が純粋に楽しみで、ただただ横浜FCに勝ってほしくて。選手たちの笑顔が見たくて。その一心でキックオフを迎えた。

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試合が終わった。

試合結果は8-1の大敗。
正直なことを言うと、この日の試合内容を私はほとんど覚えていない。

自陣のゴールマウスが何度も何度も破られていく。
当時サッカー観戦歴2年目くらいだった私にとって、ここまでの大量失点を目撃したのは初めての経験で、あまりにも衝撃的な事実だった。


それでも、4失点目くらいまでは前を向いて応援していた。
まずは1点取ろう。1点取れば何か変わるかもしれない。
そんな気持ちでピッチ上の選手たちに声援を送っていた記憶がある。


ただそんな気持ちも虚しく、チームは5点,6点と次々に失点を重ねていく。
スタンドからピッチまでの距離が遠いことで有名?な日産スタジアムだが、そんな中でも選手たちの表情からどんどんと闘う気持ちが失われていく様子が鮮明にわかった。

チームが窮地に追い込まれたときこそ声援を送るのがサポーターの役割であるという認識を持っていた私は、試合終了の瞬間まで諦めずに応援し続けようと思っていた。

4失点目くらいまではそう思っていた。

だが、あまりにも次々と、淡々と失点していく姿を見ていると、気持ちの保ち方が難しくなってくる。

もう試合を見たくない


7失点目の瞬間、私は初めて試合から目を背けた。

サッカーは2年くらい見てきていたが、もう試合を見たくないと感じたのはこのときか初めてだった。
「もう嫌だよ、見たくない」
隣にいた父に対して、このように言った記憶がある。

確か試合終了間際だった8失点目の瞬間は、完全に放心状態で座り込んでいた。

試合が終わった後、何も考えることができなかった。試合のことを思い出したくもなかった。ただただやるせない、悔しい思いだけが残っていた。

悔しさの正体


この試合で感じた悔しさは、試合に負けた事実に対するものだけではなかった。
もちろん試合に負けたことはものすごく悔しい。ダービーという特別な試合で負けたことも悔しい。そんな試合で無惨にも大量失点したことも悔しい。

だがこの悔しさの本当の正体は、"目の前の試合から目を背けてしまったこと"だった。

サポーターは常に選手たちを鼓舞し、声援を送り続ける存在だと思っていたのに、いざチームが窮地に追い込まれると、自ら試合をシャットアウトしてしまった。現実から逃れたくて声援を送ることをやめてしまった。
どんなときも諦めないことがサポーターとしての役割だと思っていたのに、試合終了のホイッスルが鳴る前にこの試合を諦めてしまった自分。そんな自分に対する悔しさが色濃く残っていたのだ。

もしあのとき、もっと大きな声を出して応援していたらどうなっていただろう?下を向きかけている選手たちが少しでも前を向けるような応援ができていたら、試合の展開が変わっていたのではないだろうか?


この試合の経験から、私のサポーターとしての決意が固まった。
選手たちが前を向けるような声援を送ること。
どんな状況下でも、最後まで試合と向き合い続けること。


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あれから14年たった今年、横浜FCは再びJ1の舞台に帰ってきた。
14年前と同じように最下位に沈むチームの現状は、正直とても厳しい。

だが私は、この現実から逃げ出さないと決めている。
どんなに勝利が遠くても、どんなに失点を重ねても、今ある目の前のサッカーと向き合い続け、チームを鼓舞し続ける。結果がどうであろうと、チームを想うことを忘れない。

2007年8月11日、あのとき試合終了の瞬間まで送り続けることができなかった前向きな声援を、私は大好きなチームに送り続けていきたい。
だって試合終了のホイッスルが鳴る瞬間まで、結果はわからないのだから。

@smr1118


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