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フロリダの彼


窓を見たら今日は雨が降っている。ここ最近、遠距離恋愛中の、アメリカ人の睡眠障害を持つ彼の睡眠の状態が悪化している。あるときは24時間近く寝ていて連絡が丸一日来なかった。連絡がなくても、あっても彼とは会えないのに、連絡がないだけで心が塞ぐ。将来生活を共にする日は来るのだろうか。その時私たちはちゃんと過ごせるのだろうか。考えても仕方のない思いが胸中を駆け巡る。わたしはわたしで障害があるから、2人とも相当な自覚を持って生活を始めないと。共依存的関係だけは避けたいのだ。

駅まで父に車で送ってもらい電車にのる。車窓の外ももちろん雨だ。そういえば早朝彼と話した時、フロリダも雨と言っていた。夜中に強い雨が地面を叩くように降りしきっている動画を見せてくれた。なんだか地球のずっと反対でも、雨は同じように降るんだ、と当たり前のことを改めて実感した。

「電話ください。寝ちゃったの?」
そんなメッセージを英語で送った。本当なら電話した後電車に乗るはずが、よくあることで、時間内には電話は来なかった。だから、目的地で降りてから話したかった。堪らなく彼の声が聞きたくて、顔が見たかった。こんな大都会で、わたしはとてつもなく独りきりだった。

電車を降りる直前に彼からメッセージが入った。電話できるよ、という内容だった。知人があなたは時間があるから悩みが増えるのよ、と言っていたがその通りだ。わたしは現代では稀な時間を持て余した人間だ。彼は忙しい。ただ、些細なことで2人の間の温度差みたいなものを感じてしまう。彼はわたしをどれだけ愛してくれているだろう、と。

駅を降りると雨は止んでいた。彼に電話をする。なんでもないかのような素ぶりもできずに「アイミスユー」と開口一番つぶやいて会話が始まった。雑踏の中歩くわたしの心は空っぽだ。

電話を終えて道に出る。鳩が汚く可愛くパンのかけらを集団でついばんでいた。あからさまに愛を求めて飢えているようにー。

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