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プロのシナリオライターの視点から見る東京ディズニーシーの凝った世界観【アメリカンウォーターフロント編】

 久しぶりの更新になります。
 久しぶりにnoteを更新しようと考えたときに、そういえばディズニーに関しての記事は書いたことが無かったな、と思ったので、今回はディズニーパークの、特にディズニーシーについて、その異常なまでに凝った世界観を解説していこうと思います。
 ちなみに、筆者がDヲタであることもあり、ストーリーに明るくない方々に向けて説明していることもあり、そもそも大本の世界観設定が細かすぎてそれを全部一度に説明しようとしていることもあり、この記事はマジで長くなります
 一回で読み切るには大変な量だと思いますので、つらくない程度に小分けにして読んで、ぜひディズニーの世界にのめりこんでくださいね。

 また、「俺BGSには詳しいから」というDヲタの皆さんでも楽しめるような、ライターとしての視点からの話も含んでいますので、ぜひ一読下さい。
 (おそらく)ディズニー界隈でも触れている人がいないような、初めて触れるような内容の話は見出しに「☆」をつけておきますね。

 また、ディズニー初心者の方に向けた回り方講座も更新していますので、もし気になる方がいましたらそちらのチェックもよろしくお願いします。

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◇そもそもどんな人がパークを楽しめるのか

 さて、題にあるように、どんな人がディズニーを楽しめるのか?
 その点に関して、まずは解説していきましょう。

 ディズニーは、そもそもが「夢と魔法の王国」「冒険とイマジネーションの海」というコンセプトがあります。
 パークにいる間はゲストを夢から醒めさせないように、ゲストを冒険から返さないように、パーク内のいたるところに趣向が凝らされています。
 そのため、細かな部分に注目してみるとよりそのアトラクションやテーマポートの世界観に入り込むことが出来ます。

 これらのことから、ディズニーを楽しむことが出来る客層というのは、これまで皆さんが認識していた「キャッキャしているJK」「絶叫系に乗れない子供がいるファミリー」「陽キャカップル」といった客層ももちろんいますが、それとプラスで、「異世界転生モノが好きなオタク」や「ゲームの好きなオタク」までもが楽しむことが出来る場所となっています。
 もし、あなたが凝った物語の好きなオタクなら、ディズニーのパークそのものが、待ち時間の存在しない大きな一つのアトラクションだと感じれるようになると思いますよ。

 これまで待つのが嫌だからディズニーを控えていたオタクも、斜に構えてディズニーに行くなら富士急に行っていたオタクも、一度この記事を読んでみてください。
 読み終える頃には、ディズニーの新たな楽しみ方を知ることが出来ますよ。

◇練りに練られた世界観の、三つのテーマポート

 さて、ディズニーテーマパークの世界観をより深く楽しむためには、まずはディズニーランドよりもディズニーシーについて知った方がいいと思います。

 ディズニーシーで、最も凝っていると言えるテーマポートは三つあります。
 もちろん、天下のディズニーはどのテーマポートにも細かな演出を行っています。
 ですが、背景にあるストーリー(BGS:バックグラウンドストーリー)の細かさで言うと、最も凝っていると言えるのは

  • アメリカンウォーターフロント

  • ミステリアスアイランド

  • ロストリバーデルタ

 の三つだと言えるでしょう。
 これらにある背景のストーリーを知ることによって、次回ディズニーシーに行った際、さらに楽しむことができるのではないでしょうか?

◇アメリカンウォーターフロントの設定

 それでは、まずはじめにこの記事ではアメリカンウォーターフロントについて、BGSをより深く知っていくための解説を行っていきましょう。

 アメリカンウォーターフロントは、20世紀初頭のアメリカ、ニューヨークが舞台となっています。
 そのため、エリアのいたるところには20世紀初頭のアメリカを思わせるような仕組みがいくつもあります。
 例えば、ウォーターストリートを通っているとき、マンホールから白い湯気がたっているのを見たことがありませんか?
 これは、当時のニューヨークの暖房システムによるものです。
 当時の室内暖房はスチームが使用されており、そのため街中の地下にはありとあらゆるところにスチームパイプが張り巡らされています。
 そのために、マンホールからはパイプから漏れだした蒸気や地下水などが蒸発した蒸気が漏れている、ということなのですね。

◇ただのショップにもストーリーが?

 ポルトパラディーゾに面したニューヨーク港には多くの船が停泊していますが、これらの船が壊れた際、どこで修理するのでしょうか?
 その答えとして、パークフードを取り扱っている「リバティ・ランディング・ダイナー」が挙げられます。
 このお店、もともとは船を修理するお店として出店していたため、店舗の裏には船を修理するための様々な工具が並べられています。
 では、この「リバティ・ランディング・ダイナー」は、なぜ現在ポークライスロールなどを頂けるショップとなったのでしょうか。

 実はこのお店は、もともと店主の方が運営していた船の修理店でした。その日本人の嫁さんは、何か自分にも手伝えることは無いかと考えていたそうです。
 そして考え付いたのが、船乗りの方に食事を提供するというもの。彼女の作る食事はたちまち人気になり、今では通りで嫁さんが食事を提供し、海側では店主が修理を行う、という構図に変わったそうです。

◇トイマニにはモチーフがあった?

 ディズニーシーの中でも、出来てから待ち時間の減らないアトラクションとして「トイ・ストーリー・マニア!」があります。
 このトイ・ストーリー・マニア!、何気なく並んでいたり通り過ぎたりしているかもしれませんが、これは実際に存在していた遊園地、「ルナパーク」がモチーフとなっています。

 さて、トイマニの話に戻りましょう。
 もともと、アメリカンウォーターフロントには路面電車(トロリー)が走っていました。
 このトロリーは、平日は通勤ではとても利用されていましたが、休日の売り上げは芳しくなく、これを運営してる「トイビル・トロリーカンパニー」はとても悩んでいました。
 そのため、休日の利用者を増やすためにトイビル・トロリーカンパニーはトロリーの終点に「トイビル・トロリーパーク」を設置。
 見事にトロリーの利用者を増やした、というわけですね。

 ちなみに、トイマニの入り口にあるアーチ部分を確認すると、トイビル・トロリーパークのイニシャルである「TTP」の文字が確認できます。

◇パーク全体のBGSに関わる白髪のおっさん

 さて、続いて紹介するのは、皆さん言わずと知れたランドマーク、「タワー・オブ・テラー」とその周辺に関するお話です。
 おそらく、ディズニーシーで最もBGSが濃いのがこのタワー・オブ・テラーです。

 そもそも、タワー・オブ・テラーの基盤となるお話が頭に入っていないとこれ以降の話を楽しめないと思いますので、まずタワー・オブ・テラーの中で聞くことが出来る一般的な、共通認識の部分のお話について振り返っていきましょう。

 アトラクションに並ぶと、プレショーでは「ニューヨーク市保存協会が主催する、タワー・オブ・テラーのツアーにようこそ」という説明を受けます。ここでハイタワー三世の忠告を受けながらも、ゲストの皆さんはタワー・オブ・テラーの見学に向かうこととなりますね。

 まずこの段階で、タワー・オブ・テラーの、アトラクションに対するこだわりを見ることが出来ます。

ハイタワー3世が消えた夜、いったい何が起こったのか、真相は闇に包まれてます。しかし彼がエレベーターで最上階の部屋に行ったことは確かです。
これからみなさんを業務用エレベーターでその最上階の部屋へとご案内します。

 と説明があるように、ゲストは業務用のエレベーターに乗せられるわけですが、業務用とはつまり、当時ホテルだったときの、ホテルスタッフが使用していたエレベーターということになります。
 我々は一体、どのタイミングでゲスト向けのロビーから従業員向けのエリアに入ってしまったのでしょうか。

 この後の項目で、ハイタワー三世の性格については追っていきますが、簡単に説明すると彼の性格はかなり傲慢で、自分のことを大きく見せようとするクセがありました。
 ですので、ゲストには従業員が使用するみすぼらしいエリアを見て欲しくないはずです。
 ということは、みすぼらしいエリアと豪華なエリア、その境目が丁度従業員専用エリアとゲスト用エリアの境界ではないか、と推測ができるわけですね。
 この境界は、乗り場に向かう際はかなり見つけやすいと思います。
 蓄音機の部屋と倉庫の部屋、あの部分でエリアが切り替わっています。

 ですが、一度従業員専用エリアに入るということは再びゲスト用エリアに戻らなければ帰ることが出来ませんよね?
 この、二度目に通る際の従業員専用エリアとゲスト用エリアの境界線は、帰り際によく注意しておかなければ気付くことはできません。
 降りた後に見ることが出来る記念写真に気を取られていたり、恐怖体験で何となくアトラクションを出てしまうと見逃してしまうでしょう。

 この境界線を確認することは、実は注意しておくとかなり分かりやすいです。
 それはズバリショップとアトラクションの間です。
 ショップに入った瞬間からタイルが変わり、壁の雰囲気も変わるのでよくわかるでしょう。

 ちなみにこのショップはもともとホテルだった際はプールとして運営されていました。

公式(https://www.tokyodisneyresort.jp/tdrblog/detail/200824/)から引用
公式(https://www.tokyodisneyresort.jp/tdrblog/detail/200824/)から引用

 壁にかけられている写真を見ると元の状態がわかります。
 現在はもともと水槽だった部分は板張りになっていて、飛び込み台は商品棚として使用されているようですね。

 さて、タワー・オブ・テラーの基本の確認に戻りましょう。
 ハリソンハイタワー三世は、冒頭のプレショーやエレベーターで上層階に上った際に説明される通り、呪いの偶像「シリキ・ウトゥンドゥ」の呪いを受けることによってステンドグラスに閉じ込められてしまいます。
 このおっさんがシリキ・ウトゥンドゥの怒りに触れ呪いを受けたことは、まぁアトラクション内で体験することができるストーリーを追っていればわかるとは思いますが、この呪い、実際にどんな理由で呪いを受けていたのでしょうか?

◇シリキ・ウトゥンドゥの呪い

 なぜハイタワー三世が呪いを受けたのか。

 シリキ・ウトゥンドゥを管理するためには厳格な掟を守る必要があります。
 が、皆さん勘違いしているかもしれませんが、そもそもとして、この偶像は手にした瞬間に所有者に災いを振りまくものです。
どれだけ丁寧に扱ったとしても、どれだけ掟を破らないように注意をしたとしても、この偶像はもとより災いを振りまくように設計されているので、いつか必ずハイタワー三世はステンドグラスの中からゲストに忠告するおじさんになっていたことでしょう。
 不幸なことに、おっさんは早いか遅いかの違いだけで、呪いを受けることはシリキ・ウトゥンドゥを手にしたときに既に決まってしまったわけですね。

 では、シリキ・ウトゥンドゥにはどういった掟があるのか、それを確認していきましょう。

・火に近づけない
・ひたすら敬い、怖れる
・おろそかにしない
・放置してはいけない
・完全に覆ってはいけない
・埋葬したり、譲渡したり、捨てたりしてはいけない

 シリキ・ウトゥンドゥには、上述した六つの掟があります。
 おじさんはこの中で、一体どの掟を犯してしまったのでしょうか?




 正解は、

・火に近づけない
→葉巻を押し付ける
・ひたすら敬い、怖れる
→「呪いの偶像だと? ばかばかしい」と嘲笑う
・おろそかにしない
→掟を守ろうとしない姿勢
・放置してはいけない
→ホテルの中で管理している
・完全に覆ってはいけない
→持ち帰る際に箱に仕舞って強奪で一回目
→エレベーターは密閉空間判定で二回目
・埋葬したり、譲渡したり、捨てたりしてはいけない
→強奪の際に譲渡に関わる

 と、すべての掟を破っていたのです。
 そりゃ当然シリキ様も怒りますよね。

☆魔術的な視点での「呪い」

 さて、このシリキ様。
 ここまででBGSだけ解説するおじさんだったので、この項目ではライターらしい視点から解説をしていきたいと思います。

 このシリキ・ウトゥンドゥは、「呪術師シリキ」の遺骨(若しくは遺灰)が込められていると言われており、その影響か、シリキ・ウトゥンドゥには呪術師シリキの魂が乗り移っています。

 この「体の一部に呪いを込める」という行為は、『金枝篇(ジェームズフレイザー著)』という魔術書の分類では「感染魔術(Contagious Magic)」というものに分類されています。

 また、部族をたらいまわしにされた(=様々な部族間でシリキ・ウトゥンドゥの呪いが共通認識となった)、偶像に呪術師本人が釘を刺したなどから、同様に金枝篇の分類で「共感呪術(Sympethetic Magic)」、「類感呪術 (Homeopathic Magic)」に分けることも出来そうです。

 そもそも、過去における魔術というのは現代科学を応用したものがほとんどで、この類感呪術についてもプラシーボ効果やノーシーボ効果だといわれています。

 ここで、ノーシーボ効果について、少しだけ解説しておきましょう。
 簡単にいうと、ノーシーボ効果とは、プラシーボ効果の逆のことを言います。
 プラシーボ効果とは、別名偽薬効果というように、思い込みによってプラスの作用が体に働くことを言います。
 それとは逆にノーシーボ効果というと、思い込みによって体にマイナスの影響が働いてしまうことを言うのです。

 よく映画なんかで見かけるような「丑の刻参り」も、ノーシーボ効果を利用していますね。
 この丑の刻参りとは、深夜に頭にろうそくをつけて、神社の御神木に憎い相手に見立てた藁人形を釘で打ち込むアレです。

 丑の刻参りは呪いをかけたことを他人に見られてはいけないというルールがありますが、これはおそらく近代になって捻じ曲げられて伝えられた可能性が高いと言われています。
 呪いたい相手が藁人形を見つけ、自分が呪われていることを知って初めて呪いが成就するとされているため、丑の刻参りをする場合は本人に知られなければならないのです。

 以上のことを踏まえて、これらの類感呪術の特徴として、「呪いの対象に呪われていることを悟らせなくてはならない」ということが必要です。

 コーヒーを飲んだ瞬間に眠気が醒めた気がするように、すべての悪いことを呪いが原因だと思い込ませることによって、だんだんと精神が勝手に衰弱していくのです。

 また、話は逸れますが、過去の魔術師にとって、角は魔術の強さの象徴とされていました。その強さを憑依させるための足掛かりとして、現代に近い時代では丑の刻参りなど、魔術を行使するような行事を行う際には、頭にろうそくを刺すことによって、形式的に呪術力の強化を行っていたのではないか、と言われています。

 これを含めて考えると、シリキ・ウトゥンドゥに打ち込まれた釘が身体や杖ではなく頭に打ち込まれているのは、この「角」という呪術的にかなり強い意味が込められたものを意識している可能性もありますね。

 また、ノーシーボ効果に関しては、それらの作用を証明するため、ベトナム戦争時に行われた非人道的な実験の結果が残っています。

「手首を切って血をたらし、治る前に目隠しをして血の滴る音を聞かせ続けると、傷は治っているはずなのに傷をつけられた人間は失血死する」

というものです。

 これはかなり興味深く、本来人間として生きていくのに十分な量の血液が体内に通っているにも関わらず、身体や脳内が「血が無くなっちゃったー」と勘違いしてしまうことによって失血死が起こってしまっているということなのです。

 また別の実験では、

「熱した鉄の棒を目の前で見せ、目隠しをして別の、冷えた鉄の棒を腕に押し付けると、冷えた鉄の棒が押し付けられた部分が火傷したような水膨れになる」

という結果も報告されています。

 これも同様に、目隠しをされる直前に熱せられた鉄の棒を眼前に見せられていることで、目隠しをされた後に「熱い棒が腕に押し付けられちゃったよー」と身体が勘違いしてしまい症状として実際に肉体に現れていると言うことなのです。

 これらの、ノーシーボ効果によって引き起こされる死を、「幻想死」と言います。

 それだけ、ノーシーボ効果というものは興味深く、また悪用すれば人体に多大な影響を与えるものなのです。

 ただ、すべての魔術が現代科学で示せるわけではなく、過去に発掘されたルーン文字(ゲルマン民族の表意文字)の使用された遺物が、現代の解読されたルーン文字の読み方では読むことが出来ない、というものも残っており、失われた魔術に使用されていたルーン文字の読み方が存在するとも考えられています。
 その辺りの書物や神話に関してはキリスト教の宗教破壊によって破棄されてしまった可能性が高いので、現在としては解読が困難となっているのが悲しいところです。

 多少話が逸れましたが、これだけ呪術的歴史的な要素として正しい「呪い」を扱っているのが、果たして想定されて作られたものなのかはわかりませんが、そういった、特殊な知識がないと分析できない部分にまでこだわりが見られるというのは、素直にイマジニアに驚かされますね。

☆魔術師としての「シリキ」(11/01 追記分)

公式(https://www.tokyodisneyresort.jp/tdrblog/detail/210903/)から引用

 さて、呪術が歴史的にどんなものであったかは前項の解説によってある程度理解してもらえたのではないかと思います。
 ここからは、シリキ・ウトゥンドゥの、偶像としての意味を考察していきたいと思います。

 歴史から見て、魔術師や呪術師と言われてきた人たちにとって、西洋東洋問わず、手というものは非常に魔術的に大切な物でした。
 特に左手は「魔法をかけるための腕」とされ、その腕を失うことは魔術師としての生命が断たれたも同然だったのです。
 また、左は魔術的に強い意味を持っているとされ、理由は心臓の位置に関係しているとも言われています。
 が、真相は定かではありません。

 腕が魔術師にとって大切であると説明しました。
 この説明として例を挙げるなら、『宇治の橋姫』伝説などがあげられるでしょうか。

橋姫は、妬む相手を取殺すため鬼神となる事を貴船神社に願った。すると、その達成の方法として(「21日(三七日、さんしちにち)の間、宇治川に漬かれ」との神託を受けた。

 この話が詳しく記されている文献は『平家物語』「剣之巻」です。
 これによれば橋姫はもとは曽我天皇の御世の人でしたが、鬼となり妬む相手の縁者を男女問わず殺して生き続けたため、後生で渡辺綱に一条戻橋にて襲い掛かった際に髭切で二の腕を切断されています。
 その後、その腕は安倍晴明によって封印されました。
 それほど、魔術師にとって腕というものは大切な物なのです。

 さて、話を魔術師に戻します。
 魔術師にとって左手が魔法をかけるための腕と言いましたが、それでは右手はどういった意味を持っていたのでしょうか。
 主に右手は「照準をつけるための腕」とされています。
 そのため、多くの魔術師は右手で照準をつけるための杖をもち、左手で魔法をかけるのです。
 魔術師たちは左腕を破壊されるとその能力を失ったり減衰したりすると伝えられてきたため、彼らは左腕を非常に大切にしてきました。

 この左を大切にしているという呪術的な思想は、実は身近なところでも目にすることが出来ます。
 それは「結婚指輪」です。

 左手の薬指というのは、呪術的には心臓と直結しているとされており、『結婚相手以外に心を開かないように』という呪術からこの文化が広まったとされています。

 ここまでで、魔術を使う者がどういったことに気をつけて魔術を行使していたのかがわかりました。
 ですが、魔術師は魔術をかけることだけに注意していればよい、というものでもありませんでした。

 魔術師というものは、その能力を持っている影響で、しばしば他の魔術師からの呪いの対象となることもありました。
 また、呪術を行った際に発生する負のエネルギーが自身に降りかかってきてしまうこともあったため、高位の呪術師や魔術師たちは、常に呪いを跳ね返すための護身用の呪具を持ち歩いていました。
 それが以下の五つとなります。

・刃物
→邪を祓い魔を退けるとされている
・鏡
→邪気を跳ね返したり、悪いものを封じ込めるとされている。ただし別世界と繋がるための呪具でもあるため、扱いには慎重にならなければならない
・植物
→負のエネルギーを吸収し、正のエネルギーを吐き出すとされている
・小動物
→呪いを小動物に肩代わりさせることで、自身に呪いが降りかからないようになる
・護符
→呪いを跳ね返す効果を持ったものを身につけておけば、呪いを無効化できる

 こういったもののいずれかを持つことによって、呪術師たちは自身に降りかかる呪いを跳ね返していたというわけですね。

 以上のことを踏まえてシリキ・ウトゥンドゥを見てみましょう。

 見事に右手で杖を持ち、左手でナイフを持っています。
 照準をつけるために右手に杖を持ち、呪術を執り行った際に発生する負のエネルギーを跳ね返すためのナイフを左手に持っている。
 この偶像は、しっかりと魔術関係の歴史的な流れを汲みとって制作されたものだと言えそうですね。

☆ハイタワー三世とフリーメーソンに関係が……?(11/01 追記分)

 ここまで話してきて、かなり筆者が隠秘学(オカルトと呼ばれているモノ)に詳しいことを理解していただけたと思いますが、もう少々お付き合いください。

 現代で魔術師となるためには、ローマの「エクソシスト大学(神学校)」に入る必要があります。
 ただ、19世紀ごろの魔術師は必ずしもそうではありませんでした。

 19世紀ごろ、英国の魔術師「マクレガー・メイザース」が結成した『黄金の夜明け団』などのメーソン系魔術団体には、下記のような11の位階が存在していました。

0=0 ニオファイト
1=10 ジェレーター
2=9 セオリカス
3=8 プラクティカス
4=7 フィロソファス
5=6 アデプタス マイナー
6=5 アデプタス メジャー

7=4 アデプタス イグセンプタス
8=3 マジスター テンプリ
9=2 メイガス
10=1 イプシシマス

 これらの中でも、生身の人間として到達できる位階は「7=4 アデプタス イグセンプタス」が最上位とされていました。
 それより上の位階に到達するためには霊的存在として到達しなくてはならないのです。
 日本仏教の真言密教にあるような「即身仏」は、同じような霊的存在として魔術的に上位存在となるために実践されたものだとされています。

ここで何故魔術師の位階について話したかというと、これは「ハイタワー三世」が、「シリキ・ウトゥンドゥ」によって霊的存在へと昇華されたのではないのか、と考えられるからです。

 フリーメーソンでは数世紀前からこういった考え方が継承されており、霊体として生きているものがいるということを伝えてきた事実があります。

 かつてウォルト自身はデモレー団というフリーメーソン系の団体に所属していたことを語っています。
 その思想的に、「ハイタワー三世が霊体としてステンドグラスの中で生きている」という状況は、フリーメーソンの霊体として生きている人間がいることを周知するために密かに加えたメッセージ性の可能性もあります。

 筆者の主張としては、歴史的に魔術が存在するとされていた時代は確かにあったと考えていますが、現代でそれらが存在しているかと聞かれると、それらにはかなり否定的です。
 上述した内容はあくまでも、読み物の一つとして「こんな考え方があるのか~おもろ」くらいで捉えて下さい。筆者としてもあくまで視点の一つとして書いてみただけで、実際にフリーメイソンが関わっているとは思っていません。こじつけただけです。
 ですので、「都市伝説や陰謀論の土台として本記事を引用すること」は辞めて頂きたいです。

 と、今回書いたのはあくまで筆者の一視点でしかありませんが、様々な方向から考察してみるとより面白くなることでしょう。

◇アメリカンウォーターフロント全体を巻き込んだ喧嘩

 さて、タワー・オブ・テラーだけでもこれだけのことを解説できるアメリカンウォーターフロントですが、これだけではありません。
 実はタワー・オブ・テラー経営者のハリソンハイタワー三世と、あのSSコロンビア号を作った造船会社、「U.S.スチームシップカンパニー」の社長には大きな因縁があります。

 一番最初の、因縁の始まりは「スノッディングトン校」でのいじめです。
 この学校はボンボンが通っている全寮制の学校なのですが、この学校でハイタワー三世はひとつ下の、のちのU.S.スチームシップカンパニー社長「コーネリアス・エンディコット三世」をいじめます。
 ここで、二人は犬猿の仲となる訳ですね。

 ハイタワー三世の冒険の話はまた別のセクションで語るとして、ここではこの二人の因縁が大人になった後どう影響してくるのかを説明しましょう。

 ハイタワー三世は、自身が冒険して様々なお宝を持ち帰ってきていることを、世間に公開する媒体が欲しいと考え「W・H・ピリオディカル社」という会社を立ち上げ、そこで冒険の物語を出版します。
 もちろん自社出版なので、冒険の内容にはかなりの脚色が含まれていましたが、それでもその冒険記録にかなり興味を持った人物がいました。
 それが前述した「コーネリアス・エンディコット三世」の娘、「ベアトリス・ローズ・エンディコット」です。

 彼女は、ハイタワー三世が失踪したことを知ると、どうにかその物語と偉大さを世間に広めようと、「ニューヨーク市保存協会」を立ち上げ会長となります。
 ここでなぜニューヨーク市保存協会を立ち上げることになったのかを説明しましょう。

 ハイタワー三世が失踪した後、尊敬していた人物がいなくなってしまったことを悲しんでいたベアトリスのもとに「アーチ―」と名乗る人物が現れます。
 彼は正体を隠していましたが、その正体はハイタワー三世の強奪に加担していた「アーチボルト・スメルディング」という人物でした。彼はベアトリスにホテル買収計画を持ち掛けます。
 が、彼女の父親はハイタワー三世からいじめられていた復讐の意味も込めて、ホテルハイタワーの権利書を買収し、その土地を潰して「エンディコットグランドホテル」の建設をしようと計画していました。
 既に権利書の買収まで済んでいたその計画を知ったベアトリスは、尊敬しているハイタワー三世のホテルを無くすわけにはいかないと父のもとを離れ「ニューヨーク市保存協会」を設立します。

 長くなるので一部カットしている話はありますが、大まかにはそんな感じの流れでベアトリスはニューヨーク市保存協会を設立しました。

 つまり、我々はベアトリスのツアー(推し布教活動)に参加しているということですね。

◇いかついおっさん「ハイタワー三世」

 そんなベアトリスの推しのハイタワー三世。
 彼はかなり尊大な性格だったことが知られています。
 たとえば、タワー・オブ・テラーの建築方法に関して、かなり疑問に感じたことはありませんか?
「なぜあのような上部がでかい形をしてるんだ?」という疑問を。
 これは、ハイタワー三世が「自身の権力を示す建築」を希望したものの、それを実現できなかった建築士を解雇したためにあのような形になってしまったのです。
 本人曰く「あれはハンマー型だ。権力を示す建築なのだ! あ、あえてだからね!」と話しているのですが、別にそんなことはありません。
 完成直前に「あれ? ワイの部屋小さくね?」とケチをつけ、無理やり広くしたからです。
 アンバランスな形になったのをわがままだと説明するのはカッコ悪いため、そういった説明をしたんだとか。

 また、ホテルハイタワーは大きく分けて

  • 大邸宅

  • カリフスタワー

  • インディアンタワー

  • グレートタワー

 の四つの建築方式で建てられたタワーに分けることが出来ます。

 大邸宅は、待ち列に並んで一番最初に入るエントランス部分です。
 これはもともとハイタワー三世の自宅を改装した部分となっていて、噴水の辺りからタワー・オブ・テラーを確認すると、家の形となっていることが分かります。

 カリフスタワーは、正面右側の建物の部分で、建築様式はイスラム様式が用いられています。
 外壁の材質もよく見ると他の部分よりも明るい色のものが用いられていることが分かりますね。

 インディアンタワーは、正面左側の建物の部分で、建築様式はインドのムガール様式が用いられています。
 ここにはアトランティス・ボールルームやゲストルームなどのホールが入っています。
 ちなみに屋上には「太陽の庭園」と呼ばれるものがあり、運営されていた当時はかなり綺麗だったようですが、ツアーの行われている現在では荒れ果てているため、ツアーでは唯一立ち入り禁止の場所となっているようです。
 余談ですが、待ち列で入ることが出来るもう一つの庭園として、瞑想の庭園があります。瞑想の庭園は正面向かってタワー左側にある庭の部分で、ここには九体の女神像が置かれているため、気になった人は確認してみてはいかがでしょうか。

 そして最後のグレートタワーですが、こちらは正面奥にある一際大きな建物です。
 ここにはハイタワー三世の自室とスイートルームがあり、建築様式はビクトリア様式を用いられています。

 これらのように、全ての建物で建築様式を変えることによって、「世界の全ては私のものだ」という傲慢な主張を暗に語っているとみることも出来ますね。

 こんな傲慢な性格だったからこそ、ハイタワー三世はあのような末路を辿ってしまったのかもしれません。

☆細かすぎる世界観設定

 ここまで説明をしたことを踏まえて、私がどうしてディズニーの世界観にのめりこんでいるかを説明したいと思います。
 ディズニーシーは、オタクにとって一般ゲストよりさらに楽しめる、と言った理由は、「自分が物語の世界に入り体験することが出来る」という点です。
 普段から物語を読み、見て、遊んできている皆さんは共感能力が他者と比べて高いです。
 そのため、これまでタワー・オブ・テラーで起こってきた陰謀や策略の数々を知ることで体験に密度が加わります。
 ここでは長くなるため詳細は記載してませんが、BGSを知っていると倉庫の宝を見るだけで「あれはコンゴ河遠征のときに手に入れたものかな?」「これってトトメス三世だよね」など、背景を想像しながら待つことができるようになります。
 こういったように、BGSを知ることで夢の中でありながら、現実感を持って物語の世界を楽しむことが出来るようになります。

 私が創作者として、「自身の作品でテーマパークが作れるくらいの大きな作品を残したい」と考えている理由の大きな部分として、このディズニーシーの存在が大きいです。
 パーク全体を通した作りこみには唸るレベルで、タワー・オブ・テラーのストーリーは全てを知ると映画を一本見終わったようなカタルシスさえ味わうことが出来ます。
 そして、そのシナリオを補い、リアリティを持たせるための細部の作りこみ。
 これらは全て、自分がゲームに入り込んだような感覚を味合わせてくれます。
 こういったことを徹底してやっている部分こそがディズニーの強みではないでしょうか。

 一般的な遊園地では、ここまで細かな世界観設定を行ったとしても、ストーリーにだけ注目されることは難しいでしょう。
 ディズニーというブランドを最大限に利用し、「より夢に没入できるように」というコンセプトに沿った配慮ともこだわりとも取れる作りこみが、パークに「BGSオタク」という、ショーパレヲタやグリヲタとはまたベクトルの違うジャンルの狂信者を生み出しているのではないでしょうか。

 TDRと対をなすUSJでも、それぞれのエリアで扱っている作品やジャンルは大きく違うため、ここまでパーク全体をこだわって作ることは難しいでしょう。
 ほとんどのアトラクションがTDSオリジナルだからこそ、それぞれに独自の設定を付与し、それぞれのエリアでそれぞれのストーリーが相互作用を及ぼすような大規模な物語の設定ができたのではないでしょうか?

 数年前、「ゼルダの伝説ブレスオブザワイルド」が一世を風靡した理由は、好きな場所を、好きな順番で、自分のやりたいように冒険できるオープンワールドゲームだったからではないでしょうか。
 そういった作品が売れるならば、そういった作品が好きなユーザーはぜひ一度BGSを調べてからパークに足を運んでください。
 まさにゲームのように、統一された世界観で統一された物語が、拡張現実でも仮想現実でもなく、本物の現実として自身の目の前に広がっている様子を体感できるでしょう。
 そしてその楽しみ方を覚えてからは、さらに一歩深いディズニーのこだわりを肌で感じられるようになるのではないでしょうか。

 ディズニーシーがもともと大人に向けたパークを作るというコンセプトで建設されている為、時代背景などを知るとより楽しむことが出来るのがこのパークのすごいところです。
 また上述したように、TDSのアトラクションはそのほとんどがTDSオリジナルとなっており、タワー・オブ・テラーも例に漏れず原作となったアニメーションなどはありません。
 すべてのストーリーがディズニーシーオリジナルのものとなっています。こういった点も、これまでディズニーを見てこなかった人や今更ディズニーなんて、と考えている人にもオススメできる部分ではないでしょうか。

◇まとめ

 ここでは紹介しきれなかった、SSコロンビア号の話やニューヨークグローブ通信の話など、アメリカンウォーターフロントだけでもまだBGSが残っていますが、アメリカンウォーターフロントを楽しむためのBGSについては一通り説明しました。
  今回の記事は、あくまでBGSに興味を持っている方々に向けて分かりやすく解説することを第一にしているため細部はかなり端折っていますが、ご了承ください。
 この記事でもし他のBGS等が気になった方がいれば、もっと深い部分についてご自身で調べてみるのもいいのではないでしょうか?
 希望が多ければタワテラのみを扱った記事や、アメフロについてもっと詳しくまとめた話も書いてみようかなと思います。

 ついでに、我らが風間先生の本もちょこっと紹介だけ。

 それでは、次回はロストリバーデルタ編で。
 またお会いしましょう。

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