「森の妖精ピコリス」第二話【オーディションと生配信】
熊本市内の流通情報会館には、沢山の観客とイベントスタッフ、主催者の関係者と参加者が集まっていた。
恵湖小学校の応募総数は、202人。
受かるのは、たった五人。
倍率、約40倍だった。
「私も、記念に参加してみたわ」
「エリ!マキ!シノ!!」
レナの他のクラスの友達も、参加している。
学年は、もちろん、一年生から六年生まで。
全校生徒は、一学年240人なので、1440人中、202名の参加で、生徒の7分の1が応募していた。
「さすがに、小さい子のパワーと魅力には、勝てない気がしてきた」
「何、おばあちゃんみたいな事言ってるのよ、レナ。レナも、ピコリスのホストファミリーになるんでしょ」
「そうだった」
「にしても、二組のガロとユウとジンが参加してくるなんて、思わなかったわ。あいつら、あんな可愛い生き物と一緒に暮らせるの??」
ミクの心配に、噂した三人組がくしゃみをしていた。
◆
「ヘックシ!!」
「郷田、お前、なんで参加したんだよ」
嫌そうに、ガロが聞く。
「そりゃあ、日本でピコリスを飼っている小学生として、有名になるためだよ。ユーチューバーになれば、金も稼げるしな」
「そんな事だろうと思った」
「お前は、なんなんだよ」
「俺は、妹が参加してくれって、うるさいから」
「じゃあ、妹が参加すれば良いじゃないか」
「妹は、まだ、幼稚園なんだよ」
「じゃあ、城戸はどうなんだ?」
「僕は、単に可愛いから、一緒に暮らしてみたくて。後は、環境保護にも興味があるからかな」
「お前が一番女子みたいな事言ってるな」
「最近は、ゆるキャラじゃなくて、ピコリスブーム来てるからなぁ。世界からも、注目されてるし」
「そりゃあ、今みたいにテレビやユーチューブで見れる前の1、2年前までは、映像にすら残ってなかったからなぁ。もはや、古文書に載ってるレベルの伝説の生き物だったのに、急にテレビに出る様になってから、一気にピコリスの人気に火が着いたんだもんなぁ」
「の割にツチノコは、まだ出てこないんだよなぁ」
「俺の父親世代みたいな事言ってるな、お前」
「とにかく、低学年の可愛さとエネルギーには、負けてられないから、もし、三人の中で誰かが合格したら、家に呼ぶ事を約束しようぜ」
「しょうがないなぁ」
「まったく」
◆
そして、最初は書類審査と当時に、自己紹介が始まった。
もちろん、ユーチューブで生配信されている。
「18番、六年生、丘本ミクです!特技は、バスケのスリーポイントシュートです。もし、ピコリスのホストファミリーになれたら、友達を沢山呼んで、みんなと交流したいです!」
「25番、六年生、城戸ユウです。特技は、裁縫です。もし、ピコリスのホストファミリーになれたら、ピコリス達に可愛い洋服を作ってあげたいです」
「38番、六年生、篠原ガロです。特技は、どこでもいつでも寝る事です。家では、猫を四匹飼っています。ピコリスとも、楽しく暮らしたいです。大切にします。家族や猫に料理をふるまうのが好きなので、是非、ピコリスにも食べて欲しいです。よろしくお願いします」
「55番、六年生、郷田ジン。特技は、スポーツテスト。帰宅部だけど、習い事で、ボクシング習ってます。ピコリスを守れる強い男になりたいです」
「98番、六年生、澄川レナです。転校生のクラスメイトが、可愛いピコリスと暮らしてるって知って、是非、私も、ピコリスのホストファミリーになりたいと思いました。特技は、掃除と整理整頓くらいですが、環境保護のためにも、役に立つ大人になりたいと思っています」
◆
レナ達の順番は、終わって、次は、何故か、謎解きイベントが始まった。
クジで一緒になったピコリスと、タッグを組み、二人三脚で、協力して、問題をクリアするゲームだった。
「何これ?!謎解きゲームなんて、聞いてないよ~(泣)」
「レナ、泣き言言っても仕方ないわ。張り切って、行きましょう!」
「そんな事言ったって~」
「やぁ、一組の丘本さん、澄川さん、こんにちは」
「城戸くん、篠原くん、郷田くん」
「君達、二人だけじゃ、心細そうだし、僕達と一緒に謎解きしない?」
「いいの?!」
「その代わり、誰か受かったら、その子の家に遊びに行って、友達として紹介するって約束しようよ」
「もちのオッケーよ!!」
「じゃあ、話は決まりだ。五人で、何とかしていこうぜ!」
◆
第一問、「森の妖精ピコリスの全種類は、光の妖精、キラノンと、樹の妖精、コノノンと、水の妖精、ミズノンですが、この三種類のピコリスの中で、夜行性なのは、どのピコリスでしょうか?正解のピコリスの種類を、次の時計の長針と短針で表現しなさい」
目の前には、一時間毎に鳴き声の違う鳥の声が鳴る、壁掛け時計がある。
ただし、24時間設定で、夜中は鳴らない仕組みになっている。
その一番初めの鳴らない時間は、夜の9時。
その設定の仕方は、説明書に書いてある。
正解は、夜の9時に設定しつつ、夜中モードにして、音を鳴らさない様にする事。
その壁掛け時計を初めて見た二人組は、ちんぷんかんぷんだった。
つまり、夜の9時から、朝の9時までは、鳴らないシステムになっていて、その夜の9時に設定しつつ、夜中は鳴らないモードに設定したら、クリアなのである。
ちなみに、キラノンが夜9時に起きる風習があるのは、ピコリスの間では、常識である。
「まずは、夜中に起きてるピコリスは、あの一族だ。そして、そのピコリスを表現する時間もわかっている。けど、ただ、その時間に設定しても、カッコウの鳴き声がするだけで、不合格。あとは、夜に関係する何かの、ヒントがあるはずなんだが」
ミクとタッグを組んだのは、コノノンのオジサン、5本角が男らしい、木乃葉コンブだった。
「壁掛け時計の箱の中に、説明書が入ってるわ」
「すごい、この時計、夜中、鳴らない設定に出来るらしい」
「なるほどな、それだ!!」
次々に正解していく二人組。
ガロ、ユウ、ミク、ジン、レナが、なんとかクリアして、次に進んで行く。
第二問、「頭の中の水槽に、カラフルな淡水魚を一匹飼っている、ミズノンですが、その魚の正体は?正解と思われる言葉を表現している食べ物を次の内から、平らげなさい」
1、おにぎり(梅干し)
2、お寿司(タマゴ、マグロ、イカ、タイ、サーモン、ウニ)
3、海老天うどん
4、親子丼
5、とんかつ定食
正解は、「魂」を表す、ソウルフード
全部和食なので、日本人のソウルフードは、お寿司で、2番が正解。
これも、レナ達は、何とかクリア。
郷田は、正解した後も何故か、他の選択肢の料理も食べていて、タッグを組んでいた、6本角のコノノンの女の子、木乃葉あずきに怒られる。
「何、してるんですの!ジン!早く次に行くですの!(怒)」
第三問、「キラノンの頭の上の玉は、それぞれ大陸の違う星が描かれていて、その正体は?正解を表現している音楽を短く演奏しなさい」
机の上には、リコーダー、メロディオン、太鼓、シンバル、ピアノ、木琴、鉄筋、ギター、メロディーベル、ハーモニカなどが置いてある。
正解は、クラシック曲のジュピター(木星)を弾くこと。
キラノンの母星は、木星と言われていて、木星の周りの衛生などの形を、キラノンの玉は、しているらしい事は、ピコリスの中では有名な話。
それを知っている4本角のコノノンの女の子、木乃葉きなこは、惑星に関する曲と言えばで、阿吽の呼吸で、相棒のユウと、余裕で、優雅に演奏してクリア。
それに続いて、レナ達もクリア。
第四問、「森の妖精ピコリスは、宇宙全体の環境保護団体に所属している宇宙人の事で、昔、地球にやって来たのだが、彼らが乗ってやって来た、乗り物の名前を三文字のアルファベットで、体で人文字を作って表現しなさい」
「二人じゃ無理じゃん!」
「他のチームとの連携プレイが試されるって事か!」
「ガロ君!」
すっかり息ビッタリの二人組になった、コノノンの女子、2本角の木乃葉あんこは、五人を総動員して、「U」をレナとミクで、「F」をユウで、「O」をガロとジン二人で作って、クリアした。
最後の第五問目は、一冊の本を読んで、その中から、森の妖精ピコリスが探している人材を突き止め、その特徴を相棒のコノノンに伝え、その答えが書かれた紙を小瓶に入れて、回転する台の上に置かれた、ビニールプールの上を流れ着いた先の、釣り針で拾ってくれた人が、見事釣り上げれば、クリア。
ただし、ビニールプールには、巨大な扇風機数台で風を起こしてあり、なかなか釣り上げられない。
実は、本の中身は、簡単な絵本として書かれているが、ピコリスの歴史が書かれており、自然環境を大切にする、思いやりの心を持っている人を探している、と言うような内容が書かれている。
さすがに、スタートしてみると、六年生の方が読むのが早い。
何の競技でもそうだが、ここまでの問題は、やはり、上級生がクリアしやすい問題になっていた。
早速、五人とも、「自然環境を大切にする、思いやりの心を持っている人」と言う言葉を抜粋し、それをコノノンに伝え、コノノンに慣れない日本語で、その言葉と番号札の番号を書いてもらい、その紙を持って、フックのついた小瓶に入れて、それを回転するビニールプールに流し、主催者に釣り上げてもらう、と言う競技だ。
早く正解を書いた紙を小瓶に入れて流しても、十人居る釣り人に釣り上げてもらって、早い方が勝ち。
参加者の人間は、小瓶を流した後、うちわであおいで、微調整。
相棒のコノノンは、ドローンを操縦し、釣り人の釣糸を微調整。
もはや、運ゲーの要素が強い、最後のゲームは、会場の雰囲気がカオスになっていた。
一つ、また、一つ。
釣り上げられる度に、拍手と歓声がわく。
そして、最後の五つ目の小瓶が釣り上げられようとした瞬間、ビニールプールが釣り針に引っ掛かり、プールが決壊してしまった。
水浸しになる会場。
最後は、話し合いの結果、残った小瓶を並べて、一人1本、自由に線を引いてもらい、あみだくじで、最後の一つが選ばれる事になった。
そのあみだくじの抽選に、挑もうと、最後まで、苦手な文字を読んで、泣きべそを書きながら、小瓶に正解を書こうとしている一年生の女の子が、会場の隅で置き去りになっていた。
本には、よみがなが振られていたが、国語が苦手な女の子は、悪戦苦闘していた。
ペアのコノノンが、一生懸命、本の1ヵ所を指差して、教えてあげる。
「んしょ、よいしょ」
「他に小瓶をあみだくじに応募する人は、いませんか??」
スタッフが、会場の参加者に呼び掛ける。
すると、ようやく答えを書き終わったその女の子とコノノンが、小瓶を抱えてやって来た。
「私達も参加します!」
返事はきちんと出来たが、転んで、小瓶を落としてしまった。
見かねたレナが、小瓶をひろってあげて、手を繋いで、スタッフまで渡す。
レナのペアのコノノン、1本角の男の子、木乃葉えだまめも、一緒に転んだ、女の子のコノノンに手を差しのべた。
「よろしくお願いします」
「ありがとうございます」
そうして、あみだくじの結果は、なんと、さっきの一年生の女の子、二年生の男の子、三年生の女の子、四年生の男の子、五年生の男の子にそれぞれ当たった。
「がっくし……」
レナは、肩を落とした。
◆
「まさか、みんな落っこちるとはな(笑)」
ジンが、笑ってしまっていた。
「でも、次は、水の妖精、ミズノンのオーディションと、光の妖精、キラノンのオーディションがあるらしいじゃん」
そう、ユウがフォローする。
「じゃあ、次に期待しましょう」
ミクが、それに乗っかる。
「残念(泣)」
落ち込んでいるレナの元に、さっきの女の子が駆け寄ってきた。
「さっきは、ありがとう、お姉ちゃん」
「いえいえ」
「これ、良かったら、もらって下さい」
女の子が持ってきたのは、森の妖精ピコリスの村に入れる、入場チケット10枚だった。
「そんなの、あったの!?」
「今回、合格した人だけの特典なんだけど、余ったから、良かったら、もらって下さい」
「いいの?!」
「もちろん」
「どうも、ありがとう!!」
こうして、五人は、そのチケットを二枚ずつ分けて、今度、森の妖精ピコリスの村に出掛けてみる事にした。
第二話、終わり。
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