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杖つきパパの仕上がらない作文

脳梗塞の後遺症で杖をついて歩くようになった父は、リハビリ以外に決まった日課はなくて、ほとんどソファでテレビの毎日だ。
そんな父が「原稿用紙が欲しい。」と言ったのは、かれこれ2ヶ月くらい前だろうか。

何に使うのか聞くと、地方新聞のコラム欄に投稿をしようと思っているのだそうだ。文字数制限があるので、原稿用紙で文章の長さ調整をすると。

それは素晴らしい!自主的に何かをはじめようとする、その姿勢だけでも娘としては大歓迎。「いいことだね!頑張って!」と、早速、原稿用紙を買って手渡した。

しかし、未だ、原稿用紙のビニール封は開かれる気配がない。

あんまり急かすのも、なんだかなぁ。と思いつつも、時々、その話題を取り出してみる。

「何を書く予定なの?」
テーマはリハビリ施設に通うときの服装についてで、書きたい趣旨は決まっているのだそうだ。どうも下書きは何度かトライしている模様。
「いいテーマだね。頑張って」

また別の日に。「その後、執筆はどう?」
「なかなかねぇ。」
歯切れが悪い。
書いては直しを繰り返しているそうだ。その理由は読み手がどう感じるかを想像するから。読み手というのが、父の場合、新聞読者一般を言うのではなくて、自分を知っている知人友人なのであって、それぞれの顔を思い浮かべて、どう思われるかを考えてしまう。すると、全然上手くいかない。
ということだ。

そりゃそうだよね。

確かに、わたしが買い物に出ても、「お父さん、最近お元気?」と声をかけられることも多い、そんな小さな街だし、格好良い年寄りでいたい父には、難問だ。

自分が伝えたいと思う事と、他人の評価を心配する気持ちのせめぎ合い。
これを人生の中の課題と捉えるならば、乗り越えるには価値あるテーマじゃない?
本人の苦悩をよそに、娘としては「いいねぇ。ナイスチャレンジ!」と内心思う。

これからも「その後、執筆進んでる?」と忘れた頃に質問を投げかけるつもり。
それは、父がギブアップしてしまわないように、応援の気持ちを込めた娘のおっきな愛だからね。


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