若草色の便箋、セピアの写真。

前略、この季節になると貴方を思い出します。
夏の匂いがします。
正確には、畳の匂いかもしれません。
太腿にじわじわと汗をかかせながら、
隣で正座をして、会話をしていたことがありました。
その声は正しくそれの高さや幼さを保っています。
残り香の如く、鼓膜にこびりついたままで。
反芻できてしまうのです。今も尚。
爛々と輝く星と、月と、真っ暗な空をも思い出します。
お祭りで買ったラムネの味も、
炭酸で刺激された舌が覚えています。
瓶のそのおかしな凹凸も、
手渡したビードロ玉の冷たささえも、
未だに手の中に残っています。
茜差す、しかしながら確かに夜紛いであった
あの交差点で、私を見送った、あの瞬間、
貴方の瞳に私の後ろ姿はどう映っていたのでしょうか。
先日、紺地に花模様が入った可愛らしい浴衣を
一着、新調しました。
ラブレターの、つもりです。


『前略、この季節になると貴方を思い出します』から始まる手紙は若草色の便箋に20行、乱雑に綴られています。『ラブレターのつもりです』と締めくくられ、色あせたセピアの写真が同封されていました。

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