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電子書籍と契約の話

※2017年に書かれた記事です

電子書籍市場は年々成長しており事情はめまぐるしく変化しています。マンガが電子書籍からアプリ化してから顕著に変化し、また新たなフェーズを迎えています。個人的には三年サイクルくらいで変わってると思うのでその前提でお読みください。


出版社は書籍の電子化に消極的だった

ちょっと最近、どうせ漫画が描けない状態なら創作力のいらない作業を進めておこうとてたら漫画の仕事も進むようになっていろいろこんがらかってるので小出しに整理したいと思ってるところなのですが。

まずKDP(アマゾンの個人電子出版)をやってみたくて、もともとデジタル入稿でデータがあるモチモチのキンドル販売を始めました。

※ 2019年よりはアマゾン独占のkindleではなくナンバーナイン経由で各電子書籍ストア・漫画アプリで販売しています。



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そして、将来的にKDPも視野に入れた上でクロザクロのほうも絶版をお願いしました。こちらはマンガ図書館Zで無料で読めます。

※こちらも2019年よりデジタル新装版としてナンバーナイン経由で各電子書籍ストア・漫画アプリで販売しています。


これらの経緯は契約の違いとして解説したツイートがまとめられています。


これらの説明でもいくつか不足してるところがあるので、少しここで整理しておきたいと思います。今と状況が違う時期の話だったということです。

まず、これらの連載をした当時は電子書籍の出版は当然という時代ではなく、単行本発売時に署名する印税契約に電子書籍契約は含まれていませんでした。電子化の際は新たな契約書にサインする必要があり、出版社がその作成に追われていた、電子化契約のフォーマットが固まってなかった時期です。

そしてもう一つ、単行本が出たら必ず電子化するとは限らない時代でした。まだ電子書籍市場やアマゾン一極支配に懐疑的な時期であり、電子書籍の参加はかなりの勝算が見込める作品、紙で売れた本を優先している状態でした。

その中で私の作品は優先度がかなり低いもので、実際電子化の話は全くなく、私の方から「どうせ電子化しないんだったらJコミで無料公開するから電子化権おくれ」と言ってから電子化の打診をされた状態で、言わなければ他作品を見るにさらに電子化が遅れたことは想像に難くありません。

当時のJコミ(現:マンガ図書館Z)はその状況をすでに見越しており、私のようなアクションを起こす作家に対して後押し・サポートをしてくれました。


ちなみに絶版というのは当然紙のみの時代を前提とした制度であり、絶版ではないが事実上二度と刷られない作品も出版権(書籍コード)だけは残ってるという状態(で、いいんでしたっけ?)の作品が山積みで、私もそれに当たりました。もう出ないのに扱えない、だったら版権回収したほうがいいのではないか、と。

私の場合は、今後電子書籍を出版社が展開する伸びしろも考えると雑誌のブランド力など違う可能性もあるかもしれない、なおかつ他の作品より電子化が早まるという利点があるので、絶版にするより出版社側に作品を預けつつ、電子書籍は出版社を通さず自分で認可する権利があるという利点のある契約にしてもらったのです。


ではなぜ契約内容に差が出たかと考えると、これも時期の違いが大きいと思います。もちろん出版社も違うので一概には言えませんが実感として、です。


クロザクロのときは本当に電子化の方針が決まってなかったように思うので、契約書のほうにも自由度があったように感じました。わりとスムーズに一文を追加してもらい、Jコミの法務にも確認してもらって、無料公開に問題ないであろうということになりました。

しかし実際は全く同じ作品が別版元から出るというのは電子取次が複数存在する状態ではどっちの認可か分からないことや、専属販売契約などの問題も出てきました。仮に雑誌ブランドでキャンペーンしたところで作品数が多すぎてこの程度の作品は恩恵までたどり着けないし。そこでこれ以上編集部にいろいろお願いするより絶版で権利を全部所有するほうが話が早いと判断しました。


モチモチのほうはそれより時期が遅かったので、作家全体に一斉に送る契約書のフォーマットができつつあり、例外を作ることをあまり認めたくない印象でした。担当が協力的だったからよかったのですが、人によっては無理だとつっぱねてるのではないかとも思えます。こちらも事実上絶版状態だったので版権ごと回収も考えましたが、海外翻訳版のオファーなどもあったので残すことにした上で、会社側の発注した表紙デザインや写植作業などを抜いた権利であれば作家の物という解釈で進めていただきました。

これらが140字のツイートに含まれなかった事情です。


ちなみに僕がこの程度の売り上げの作品でも積極的に動くのは以前のトガリ移籍アメコミデビューの頃の経験に遡るのでいずれまとめようと思います。



出版社や編集は雑誌であまりに忙しいのでお願いがしにくかったり人によってはないがしろにされてる印象もあると思うのですが、たいていは頼めば動いてくれるし、そういう新たな事例の積み重ねは彼ら自身の財産になることをよく分かっていると思います。


契約書には十分注意を


そもそも出版社はあくまで「作家に創作に専念してもらうために、一般的に多くの作家にとって不都合のない契約書をこちらで用意しておきます」という形を取ってる場合が大半で、騙して権利を取り上げようとかそういう作家に不利益を与える意図はないものと認識しています。これは私がそれなりに大手と仕事をしていたせいもありますが、もしおかしな契約であったらそれこそ会社を傾かせるレベルの作家さん方が黙ってないでしょう。

ですので基本的にこちらから要望を出せば対応してくれると思います。


ただし私はこれは「口約束ベースで原稿を描くおおらかさに対する作家への出版社からの善意」に近い慣習だと思ってます。もし今後作家とのトラブルを想定とした契約書を事前に交わすような形態が一般化したらこんなにやさしくないと思いますし、実際外資やIT系のコミック事業者が最初に交わすタイプの契約書は作家に不利な場合があります。逆に旧来の出版社が慣例的に原稿料を出さなかった単行本表紙や特典イラストなどもちゃんと支払うなど改善されてるところもあり一概には言えないのですが。

※追記・編集部の納得いかない言動はネットに書き込むと訴訟の恐れがあるので、漫画家協会に相談することをお勧めします。また常にメールや録音などで証拠を残しておくと後々役に立ちます。

いつもご愛読ありがとうございます。 育児系は基本的に無料公開にしています。 同じ気持ちを共感する方々の心が少しでも軽くなればと思います。 今後の活動を賛同・応援していただける方からの サポートに感謝いたします。