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「まちづくり」の原動力とは?〜街をつくるのは、そこにいる人々の"気持ち"であり"欲"だ

「まちづくり」という言葉を聞くと、どのようなイメージを持つでしょうか。行政が先導するもの、ディベロッパーによる開発、商店街の人たちが頑張るもの…。

多くの人たちにとって、まちづくりは自分とは関係のないもの、だと思われているかもしれません。しかし、まちづくりの源は、大層な設計図でも、行政の予算でも、立派な建物でもありません。

そこにいる人々の、”気持ち”であり、”欲”こそが、まちを動かすのです。

今いるまちを、今よりもっと好きになるきっかけを見つけてほしい。今回のnoteはそんな想いで書いています。

大きな絵を描くところから始める、これまでの「まちづくり」

「まちづくり」という言葉が使われはじめて、すでに40年近くが経過しています。当たり前ですが、その間に日本の社会も、まちの在り方も、私たちの価値観も大きく変わってきました。

同じまちづくりという言葉でも、今と昔ではその取り組み方が大きく変わってきています。

これまでは行政や、大手ディベロッパーが主導していた都市計画としての「まちづくり」が主流でした。

この場合、先に大きな計画があり、利害関係者との合意、大規模な予算を獲得し、具体的な場所を決めて、誰がやるかを選び、最終的にプロジェクトが実施されます。

つまり、実際にその場所を使う人が関わるのは一番最後です。むしろ、できた後にその使い方を考えるといっても大げさではないくらいです。

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このあり方が間違っていると言いたいわけではありません。そのように都市開発が進められてきたおかげで、私たちは日本のどこにいってもそれなりに便利な生活をすることができています。

しかし、こうしたまちづくりは、
・そこに住む人自身がまちづくりの当事者になれない
・関われる人が限定される(土地や資金がないとできない)
・そのまちらしさが活かしづらい

という側面を持っています。

私は積極的に田舎のまちづくりに関わっていますが、田舎ではそもそも経営資源が限られており都市のように大規模な投資をすることは不可能です。

そのため、スローディベロップメント(小規模で連鎖型の開発)を信条として、小さく始める「まちづくり」を行っています。

その土地が大好きな人たちが行う「まちづくり」

私や私が代表を務める株式会社SUMUSのまちづくりのプロセスは、先に紹介したこれまでのまちづくりとは真逆です。

「この場所で〇〇したい」
「ここでこんなことやったら面白そう」

そんな、その場にいるからこそ生じる小さなニーズやアイデアが起点です。

この場所でやりたいこと、がまず一番先にあり、そこから誰がやるのかを決め、仲間を集め、プロジェクトを発足し、実現のための予算を獲得し、最終的に利害関係者と合意をとります。

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弱者の戦略ともいえる方法ですが、結果として、そこにしかないとても面白いまちづくりが可能になります。

この考え方は、今私たちだけではなく、日本全国の様々なところで取り入れられており、これまでは無名だったまちが取り組みをきっかけに人気のまちとなる事例は数多く生まれています。

きっかけは、ベンチ一台でもいい

「まちづくり」という言葉だけをきくと、なんだか大きなことを成し遂げなければいけない、という印象を抱くかもしれません。しかし必ずしも大きな夢や目標、仲間が必要なわけではないのです。

都市デザインには「アクティビティーファースト」という考え方があります。半径200メートルほどの狭いエリアの中に、人が集まる仕掛け=アクティビティを10個作ろう、というものです。

アクティビティとは、専門的には、食事や買い物、スポーツなどが挙げられますが、SUMUSでは、このアクティビティを「豊かな暮らしのシーンがつながる場所」と定義しています。

「どんな仕掛けをしたら人が集まってくれるだろうか?」と頭を悩ます前に、まず自分自身の感情や欲求に素直になって考えてみてほしいと思います。

この場所で、どんな暮らしをしたいか。

と想像してみるのです。

例えば、夕日が沈む綺麗な海辺にいるとします。

「あぁ、ここで恋人と座って夕日を眺めながら語り合いたいな」と思った人が、ベンチを一台置きました。

そう、この時点で、もうまちづくりは始まっているのです。

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しばらくベンチに座っていると

「お酒を買える場所が近くにあったらいいな」
「音楽を聴きたいな」
「友達を呼んでBBQしたいな」
「ハンモックに寝そべりながら本でも読みたいな」
「この思い出を写真に残したいな」

と、次にやりたいことがきっと浮かんできます。そして一つひとつ実現していくうちに、気づけば小さなまちができています。

楽しく過ごしていたら、そのうちに「何か面白そうなことやってるね」とそこにまた人が集まってきます。

これが、これからのまちづくりの一つのプロセスです。

星空を売りだした阿智村

実際にベンチ一台からスタートして、人気を呼び、まちの価値が変わった(=私はこれを、「まち上場」と呼んでいます)地域があります。

「何にもないこと」を逆手に取る手法で有名になった、長野県阿智村を知っていますか?

もともと何も観光資源がないと悩んでいた阿智村は、いまでは「スタービレッジ阿智村」として日本一の星空ツアーを行っています。

実際に阿智村を訪れてみると、車で坂道を登っているときに、突然目の前に輝く星空が出現します。この美しい光景には、訪れた人たちはだれもが目を奪われることでしょう。

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画像引用:「スタービレッジ阿智観光促進協議会」ウェブサイト

この阿智村のプロジェクトは、「星空を見せたい」というまちの人の素朴な思いがきっかけです。星空を見るためのベンチを置いたことがきっかけで、たくさんの人が訪れるようになった、まち上場の分かりやすい事例です。

まちづくりの主役は、そこにいる一人ひとり

私は事業として「まちづくり」を行っていますが、ひとつひとつのまちづくりは、このように、ほんの些細な「この場所でこうしたいな」という思いつきでも良いと思うのです。

まちづくりをやりましょう、と言うとまず真っ先に「お金がいくらかかるのか」や「誰に話を通すか」、「集客目標はどうするか」ということばかりが気にされるのですが、そんなことは後からでも構いません。

なによりも大切なのは、「ここで何をやりたいか」「どう暮らしたいか」というそこにいる人、そこを訪れた人の気持ちです。

その段階では、1人ひとりは、まちづくりに参加している意識はないことのほうが多いかもしれません。しかしそうした”気持ち”や”欲”こそが、まちを作る原動力になるのです。

先日、noteの中で代官山という街の成り立ちを紹介しました。

そこでも書いたのですが、代官山が独自のコンセプトで大きな街へと進化した背景には、開発者である朝倉家の人々自身がそこに住み続け、時代の変化や新たに訪れる人のニーズに合わせて小さく、連鎖的に開発をし続けていったことがあります。

まちづくりの成功の秘訣は「そこに暮らしている人」「そのまちが大好きな人」「そのまちを訪れた人」の存在です。

机の上だけで描かれた設計図よりも、そこにいる一人ひとり、つまりあなた自身の「あったらいいな」や「やってみたいな」というアイデアを集めたまちのほうが、きっとワクワクするまちづくりができると思うのです。

「ここで何をしたら楽しいかな?」そんなことを考えながら周囲を見渡してみてください。見慣れたまちに様々な可能性が見えて、とてもワクワクするはずです。

株式会社SUMUS 代表取締役
小林 大輔

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