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【二人のアルバム~逢瀬㉔~パークウェイジャム~】(フィクション〉短編)

§ 1.公園通り

パークウェイ開発は、公園通りパークウェイと呼ばれる彼女のアパートメントハウス前のに有る風来坂の駅近くに大きなメガビスビル、3階にオフィスを持っていた。

コンサルと言うと、都会のコンサルタントは特に営業コンサルであれば、生抜はえぬきで、一着に着き、普通のサラリーマンの給料と同じくらい高いスーツを着て鼻をツンと高くしている類だった。彼には鼻持ちならないタイプが多く、彼女のウチに同居を始めてからは、やっている仕事が地元の小さいがきちんとしたプロジェクトで稼ぐのがいいな、と思い始めていた。

そんなに大きな企業が絡まず、地元の金持ちが気まぐれで創った大きいビルの中で何をしようか、と決めるところから、アドバイスを始め、経営方針からセキュリティまで、確実な相談相手として少しずつだが確実に金を作った。小さいところから始める、と言う基本の形だろう。

この辺の地方組と呼ばれるパークウェイの営業の類には、気取りは無かった。彼女のアパートメントハウスに移ってから出逢った同業者達は、スパッと、竹を割ったようなハッキリした性格の営業が多かった。

彼は、元から泥臭いタイプでもあり、都会的なスッキリしたコンサルは出来なかった。クライアントを思い、心からの繋がりで対応してきた。

パークウェイ開発の社長は服部と言う、雇われ社長だった。恰幅が良い元新聞社の記者だった服部誠はっとり まことは、パークウェイ開発の社長の座に座らないか、と鳳に頼まれ、謂われた通りに社長の座に納まった。

服部は、事業の事は一切、口出しせず、社長として代表者が出るべき会議ではキチンと出席したとしても、およそパークウェイ開発の事業には、参画しなかった。鳳が服部の代わりに、代理で代表として説明や客先対応を心掛けていた。

事実上のオーナーは、「会長」と呼ばれる、風来坂の下にある古い日本民家に住んでいる、この鳳愛彦おおとりまなひこだった。鳳は、50代、風来坂の名の謂れである。

鳳家14代目の愛彦は風来坊で、若い頃は結構遊び、鳳家を潰すようなバカ息子だ、と近隣で言われていた。この風来坂は、元々は「報斎場」と呼ばれる葬式場の近くだったので、「報斎場通り」と呼ばれていた。元々、鳳家が位置する風来坂の坂の下方端っこに実家が建っているせいで、
「報来場通り下の風来坊」
と陰口を利かれ続け、いつの間にか、面倒な言葉をすべて落として、
「風来坂」
と呼ばれる様になった。

今では、聴こえが矢鱈格好良い、風来坂だ。
鳳家の別館が坂の下に位置していて、その家を鳳愛彦は自宅として、妻やよひと住んでいた。

鳳は自分の仕事を自由に持っていたくて、パークウェイの所謂執行役員とか、長の付く職位にはならなかった。

鳳は、駅前のメデカルセンタを建設して有名になった地元のヒーローだ。鳳の所有ビル、ショッピングセンタが立ち並ぶ風来坂通りは、開発を繰り返し、まるで駅前は都会の立派な私鉄の小さな駅の様だった。一昔前には一階のたたきがついている古い木造の平屋の建物ばかりだった街が、鉄骨の高いタワーやメデカルセンタが建っている。鳳の風来坊は、一流の地方事業開発者になった。

鳳のアイデアが沸いて来る彼が働く事務所は、実は彼と彼女が購入したオフィス物件の反対側で、向かい側の棟にあった。彼のオフィスより少し大きいくらいで、然したる違いはなかった。鳳は妻のやよひと小さいオフィスで営業の若い連中と仕事をしていた。

鳳は、何処にも属せず、やよひと一緒に小さいオフィスでアイデアを大きく発展させて、拡張させた。鳳のミューズは妻のやよひで、鳳を愛彦さん、と呼び、ピン、と何かがやよひの頭に来ると、コレが愛彦のアイデアに繋がった。やよひをミューズと呼び、愛妻家で有名だった。彼は彼女を思う時、鳳の考え方と同じに思った。

鳳は、何かと通り掛かりに彼に話しかけたりし、仕事を一緒にしないか、と誘いかけ、正式に事業コンサルで会った後は、非常に親しくしてくれていた。

鳳はオフィスを持つ物件内で彼と彼女を知ったが、パークウェイ開発チームを通じて、正式に彼を独立したばかりと知った。彼がパークウェイ開発のプロジェクトに一枚噛んだ際、バークウェイの社長、服部は、彼を鳳「会長」に紹介した。

パークウェイ開発のプロジェクトは、パークウェイ開発の上階のトゥモロートラベルの「アイテナリーシステム」を開発するプロジェクトで、彼等の基幹システムからホームページにつなげて「アイテナリー」アプリを使って、気に入る予定表を客に作らせよう、と言うトゥモロートラベル社長の発案で、開発が開始した。詳細の基幹システムの情報組込みや、アイテナリーを如何に注文に繋げるか、については、パークウェイの「会長」鳳と、彼が中心になって開発する、となっていた。組込みエンジニアは、パークウェイが連れて来たチームが中心になって、組込みを担当した。但し、鳳は、PM役を選出するのを彼に任せた。

彼は、PMを探して、知合いの人事コンサルと話をしていたが、いい候補者が見つからなかった。丁度その時に、三条が会社を辞めて、彼の目の前に転んできたのだ。

§ 2.展開模様

当初、彼はコンサルしながら管理事務を彼女にやらせ、2人で組んでPJプロジェクトをリードするつもりだったが、三条を此処に連れて来て、PMとして働かせればいいか、と思った。

パークウェイ側だって安心だろう。実際、会社が絡んで三条の取り分を減らすより、パークウェイ系の仕事は、彼が後ろですべてを管理し、直接、三条が前に出て自分の稼ぎ分を全額貰える様にしてやり、彼のオフィスがコンサル料金以外は三条の稼ぎとする事にした。よって、彼のオフィスに三条は属せずにフリーランスで彼がパークウェイ案件に雇った人材、とした。

パークウェイ側もWebで三条と面接して非常に気に入られ、パークウェイ側では三条を社員として迎えたいとさえ言ってくれたが、三条は、一つの会社から解放されたばかりなので、と断った。

パークウェイ側は、断られても全く問題なかった。三条はそのくらい、他人に好かれ、仕事をこなす男だった。問題、課題を他人に持たせなかった。

鳳は、彼にもう一つのプロジェクトが有る、と話しかけて来た。父の病院訪問後、落ち込む間もなく、鳳が彼の仕事を増やしてくれた。お蔭で、彼の手元にはあまりある現金が出来ている状態だった。

鳳は、新案件は、近くの大型美容院サロンQである、と話し、美容院のグループ社長、坂巻茂さかまき しげるが鳳の義理の弟で、ビジネス拡張のやり手で、アイデアマンであると言った。

都会での開発プロジェクトに飽き、自分の自宅の近くの本店ビルを改築し、これを機に、駅に開発中のヤンダバンダプロジェクツビルのトップ階層にに若い女性向けの美容院、ネイルサロン階層にダイエットサロンを外部テナントを入れずに自社完結させるサービスを開始予定なのだ。

トータルアセスメントプラン、と名付けて、顧客のヘアケアから爪から化粧から、フェイスパック、身体のマッサージまで、ケアの拡張を図り、自社ビルに集客し、且つ訪問客層を若い娘世代からマダム世代まで拡張するアイデアだ。

地域コンサルは、都内コンサルのストレートな業務内容だけでなく、どう事業を動かすのがベストか、どうシステム導入すべきか、から、県庁・市役所の独特な経営助成金などに至るまで、色々な物事の相談に応じる必要がある。

坂巻は、若い事業主なので、この地元に住む人間だが、一般的な地元の事業案件の事業所主とは違い、インターネットやPC系知識には長けていたが、クリエイティブな若い男なので、発想だけで、普通の事業知識や経理システムの統一化とか、深い普通の知識が欠けていた。

鳳は、瑠衣の弔い後、父を引き取り、彼女と小さい事業を細々と護っている彼を自分と坂巻の仕事に絡めてくれて、料金は弾んだが、とにかく、休む暇など、与えてはくれない程、彼に地方での事業コンサルの方法論や地方行政の事業での使い方を細かに教え込んでくれた。

(つづく)

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