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私は就職ができない03_書類通過率100%の件

【前回までのあらすじ】
フリーランスから会社員への見事な帰還を果たすためにリクルートエージェントに登録した私は、しかし営業担当者の言うことを聞かず酒ばかり飲んでいた

企業への応募は簡便である。応募ボタンを押すだけで、後はもろもろリクルートエージェントの担当者が良い感じに進行してくれる。これは便利である。しかし、同時にこの便利さが求職者の首を絞めることになるのではと思わないではいられない。

というのも、応募ボタンを押すだけならサルでもできる。となると、求職者は何も精査せず、将来についての明確なビジョンも持たず、酒を飲みながら、あるいは横目でYouTubeを見ながら、何の気なしに求人に応募できる。そして、その会社に入社してしまったら?

どんな会社なのかしらず、自分が何をするのかもわからず、ある日のこのこ初出社して、「こんなはずでは無かった」と思い悩み、うつ病で開始1分で休職願いを出さないともかぎらない。あるいは退職という可能性だって捨てきれない。「私は人間ではなく、サルなのです。サルなのでやめさせてください。ウッキー」という戯れ言が通用するほど社会は甘くない。

精査は必要である。簡単に応募できるのは一長一短がある。リクルートエージェント側からしてみたら、数打って当てろというスタンスなのだろう。実際に担当者が口を酸っぱくして言っていたのは、気になったらすぐに応募してくれという文句だ。たしか30だか40件ぐらいすぐに応募しろと言われたような気がする。

毎日スパムのようにたくさんの求人メールが送られてくる。最初のほうこそ中身を見ていたが、二日目あたりからメールを開くことをやめた。リクナビエージェントの個人サイトもほとんど開かない。たまに開くと、求人一覧なるページに未開封の求人がたまっていることに気づき、閉口する。

ある日、酒に酔った勢いで1件だけ応募ボタンを押した。SEO記事を作成している企業だという。自社メディアを運営しているらしい。微塵も興味がわかないが、これまでの経験を生かせる部分はある。これで私も履歴書上は十年以上のライター・編集経験があることになっている。しかし入社したとて、すぐにやめてしまうだろう。実際に20代の頃は2ヵ月や3ヵ月で早期退職した会社がいくつもある。

40を超えて入社後すぐ退職するのは、若いころとは違うかもしれない。途方にくれて憂鬱症になるかもしれない。幼い子を思い、妻を思い、泣きながらいいちこを飲むことになるかもしれない。

やはり精査が必要だ。フリーランスから会社員への電撃復帰を画策しているのだ。もう少し、物事を慎重に決めて行動すべきだ。幸い、書類通過率は5%とも10%とも言われている。年代が上がるほど、その通過率は下がる。応募したとて、書類選考ではじかれるはずだ。本望だ。はじかれてほしい。

後日、書類選考に通過したという連絡を受けて、私は絶望した。これが転職サイトを使った応募ならばすぐに辞退の連絡をいれただろう。しかし残念ながら企業と私の間に、エージェントが入っている。佐藤氏だか鈴木氏だか忘れたが、凡庸な名字の男性営業員だ。彼の顔に泥を塗るわけにはいかない。仕方なしに、私はこちらの都合の良い日程を3つほど提示した。

そして翌日に面接日程が決定した。入社するつもりのない企業との面談。記憶をひもとくと、実に8年ぶりぐらいの採用面接になる。どうにかドタキャンできないものか思案した。正直に「実は興味がない」というべきか、「他の企業から内定を得た」と嘘をつくか。どれも現実的ではないし、人として終わっている。そもそも面接は3日後だ。ごにょごにょしていたら1日が過ぎ、1日が消えさり、面接までの猶予がなくなった。もう逃げ出せない。受けるしかない。首尾良く内定をもらっても、100%辞退するのに。いったい、私は何をしているのだろう。

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