石田仁(編著)/斉藤巧弥・鹿野由行・三橋順子(著)『躍動するゲイ・ムーブメント』の嘘

今後、正式に抗議文を送ることも検討しているが、とりあえずここで記しておく。

『躍動するゲイ・ムーブメント』石田仁(編著)/斉藤巧弥・鹿野由行・三橋順子(著)の小倉東氏のインタビューで、嘘や曲解、勝手な憶測に基づき、私も中心となって関わった、2000年代の東京レズビアン&ゲイパレード(のちの東京プライドパレード)が中傷されている件についてだ。

石田氏から、小倉東氏を含んだ三人をインタビューした本がでること、それを献本したい旨のメールが届いたときに、悪い予感はした。なぜなら、小倉東氏は、以前から私が実行委員長として開催したパレードに関して嘘を言いふらし続けてきたからだ(→ 東京パレードに「女装排除はあったか」)。

そして、案の定。

正直、もう小倉氏にあれこれ言う気は起きない。地縁、血縁、アイデンティティ縁、関心縁など、どんな縁で結びつくどんなコミュニティにも嘘を言いふらす人はいるし、高飛車な悪口を言うことで自分の立場を高く見せる人はいる。

私が憤ったのは、その嘘を研究者が書籍として出版したことだ。

本が届いてすぐに礼を送った石田氏からは、「私たちの本での誤解や事実誤認などありましたら教えていただけますと幸いに存じます」という返信をもらったが、出版した後に「誤解」「事実誤認」(というより嘘をそのまま掲載したこと)を指摘することにどれだけの意味があるのか。元を正せば、なぜ、小倉氏のインタビュー内容に嘘がないと思えたのか?

その理由はわかる。彼らが小倉氏と近しい関係にあるからだ。近しい関係にある人の言うことを掲載した出版物を出しても問題ないと判断したわけだ。

小倉氏が2000年代のパレードに関して言ってることは、明らかな嘘があるし(2000年にパレードが始まったときに3年間の実行委員長が決まっていた、など)、ドラァグクィーンの排除は直接彼が経験したことではなく伝聞を語っているに過ぎない。具体的にどういうことがあったのか、実際に直接小倉氏が言われたのか、経験したのか、そのことも質問せずに掲載されている。

2000年にパレードが始まったときに3年間の実行委員長が決まっていたというのは、完全な嘘なので、それを小倉氏がパレードに参加しなかった理由としていることも嘘となる。しかし、この本ではまるでそれが事実であったかのようだ。

2000年のパレードで私は文字通りバーンアウトした。一年で終わればいいと思った。しかし、親友だった春日亮二(がんすけ)が、「せっかく砂川が大変な思いして始めたパレードだから継続したい」と言って、その後の実行委員長になる人を探して、ようやく2001年、2002年のパレードが継続されたのだ。

そうしてパレードの実行委員が決まったことを、小倉氏が語るように、「民主的ではない」と思う人もいるかもしれない。しかし、当時、パレードの実行委員長はやりたい人などいない、とても大変な苦労の多い役割だった。だいたい、どうやって決めれば民主的な決定と言えたのか? 今でこそ一般化した言い方で言うところのLGBTの人たちで選挙でもやればよかったのか? 「民主的ではない」というのは、当時の文脈を完全に無視した今からの意味づけに過ぎない。

この本の著者たちは、史料に基づいた研究もしている人たちだが、たかだか20数年前にあったことの時代的文脈も読めないなら、いったい、さらに昔の歴史の文脈をどう読みといているのだろうか? 

ドラァグクィーン排除については、一応、注をつける形で私の「東京パレードに『女装排除はあったか』」に触れて、「なかったとする見解もある」と書かれている。

デマの最大の効果は、何が事実がわからないと思わせることにある。まさにこのデマ発言は、その効果を果たしたわけだ。私のnoteの記事では、なぜ「女装排除」のデマが広がったのか、自身への反省も含めて詳細に書いている。そのことも顧みれないまま、伝聞で具体的な証言もない印象を語る小倉氏の証言(?)が書き残されたわけだ。

こんないい加減な語りを出版する研究者の研究倫理も疑う。

オーラルヒストリーは、その人の内的経験を記すものであるから、彼が語ったものを、真偽はさておき彼の経験として書く判断したかもしれない。しかし、それは、中傷されることになる人がからむ問題の内容でもそのまま掲載されるべきか?

私のように、ある程度発言できる人なら、そうした中傷を出版してもいいと判断したのだろうか。

2000年代のパレードは、私だけでなく、実行委員長となった人、実行委員となった人、ボランティアスタッフを務めた人、それぞれにいろんな立場がありながらも、社会的意義を考えて、まさに奉仕のように尽力して開催された(もちろん、常にそうであるように問題もあったと思うし、奉仕精神が、問題の言い訳にならないとは思っている)。

それを嘘まじりのいい加減な証言で中傷されたことのショック。何よりそれが研究者により出版され、残ることの衝撃。

私は、あまりのショックで、体調も悪くし仕事も休み、誇張でなく自殺念慮が高まり、一時期危うかった(もともとメンタルが弱いせいではあるが)。今も読み返すと調子が悪くなる。ともにがんばった人たち、もうこの世を去った2000年代のパレードへの貢献者たちに何といえばいいいのだろう? そう思うと胸が苦しくなる

当初は、自身の傷つきの問題としてとらえたが、これは、コミュニティの中で、派手な人間の嘘が力を持ってしまうこと、そして、研究者がそれを喧伝してしまうことの問題だと思う。私のことを知ってる人たちなら、私のTwitterなどを読んでくれている人たちなら、私がこんなに厳しい言葉で誰かを断じるこが珍しいことはわかってくれるだろう。

それほど、これは、私自身にとってはもちろんのこと、コミュニティにおいても、研究においてもひどいできごとなのだ。


このことについてツイキャスでもしゃべっています。
すなひでラジオ(2023年4月15日)『『躍動するゲイ・ムーブメント』の嘘』

追記:憤りに任せて書いてしまったが、著者となっている研究者、それぞれに優れた研究業績があることは記しておきたい(それゆえに、今回の件は非常に残念だ)。

追記2:2023年6月20日付で編著者の石田仁氏と、この章の担当の鹿野由行氏、出版社宛に抗議文を送りました。あえてどこがどうと細かくは指摘せず。

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