ドキュメンタリーで観た野宿生活夫婦のこと(再録)

昔、HPに書いていた日記の再録
2003年6月17日(火)



日曜日にたまたまTVで観たドキュメンタリーが、なんだか頭から離れない。それはフジテレビのザ・ノンフィクションという枠で放送された「アルミ缶ホームレス」。横浜市でアルミ缶を集めながら生活している人たちを追ったものだった。番組欄には「夫婦愛暗転」というサブタイトルらしきものもついている。

描かれていたのは主に三組。一組は、もともと会社を経営していた人と彼がつくったグループの人たち。

彼は、自分の会社が倒産した後、駅周辺で寝泊りしているホームレスの人に声をかけてグループをつくり、共同生活を営みながらアルミ缶回収をおこなっている。その他にとりあげられていのは、刑務所を出所した人で一人でリアカーを自転車で引きながらやってる人。そして、もう一組。その二人のことが、僕の頭から離れず、今朝夢にまで見てしまった…それは、橋の下で、廃棄された木材で建てた家に住んでいた夫婦。男性がアルミ缶回収で現金収入を得て、「内縁の妻」である女性が家事をつとめながら彼を支えていた。

その男性(50代後半くらい?)は、もともと配管工事の仕事をしていたらしいが、会社の健康診断で高血圧であることがわかりクビ(<ひどい話!)。その後の経緯についてはよく覚えてないけど、数年前から、その橋の下に住んでアルミ缶回収で生活を立てている。そんな中で知り合ったのが、現在一緒に暮らしている女性。 彼女は、夫を亡くした後に、その河川敷をさまよっていたところ、彼が一緒に住もうと声をかけたらしい。

カメラが映す二人の生活は極めて厳しいながらも、とても穏やかなもので、愛情の感じられるものだった。男性は、高血圧を抱えながらも、毎日アルミ缶を自転車で回収し、月に何回か何十キロものアルミ缶を積んで業者のもとへと運んで行く。特に、後者の作業は重労働に見えた。

しかし、ある冬の朝、取材班が二人のもとを訪れたとき、家にはその女性しかおらず男性がいない…。彼女によると、彼は、前日の朝いつも通りに家を出たっきり戻っていないという。彼女の不安な様子が伝わってくる(彼女にはモザイクがかかっていて顔は映し出されないんだけど)。

取材班と彼女が一緒に警察や消防署へあたった結果、前日の朝、彼は路上で倒れていたところを救急車で運ばれたということがわかる。くも膜下出血で、意識不明のまま病院の集中治療室に入っているという。彼女は、とりあえず彼の身につけていたものを受けとり、家へ帰る(当然ながら、病院内での様子はカメラには収められていない)。

その後の彼女の、泣くでも叫ぶでもなく、ただ「自分が死ぬまで死なないって言っていたのに…」とつぶやくように、どちらかというと淡々と語る様子が印象に強く残った。

その後、カメラが映したのは、それからしばらく後、彼女が生活保護を受けることになり、そのため施設に入ることが決まって、その家を去る時の姿。まだ意識の戻らない彼への心配を言葉にして、彼女は家を後にした。この番組が描いたのは、桜の季節まで。その頃も彼がまだ意識不明のままであるということが語られる。

施設へ向かった奥さんのその後はわからない。主を失った家はすっかり崩れていた。観ている側は、彼の人の良さそうな笑顔や奥さんを気遣う言葉に触れた後、その残酷な事実をつきつけられるために、ショックを受けざるをえない。僕は、そのショックを自分の中でどう整理したらいいのかわからず、今も、その番組で観た二人のことを一日に何度も思い出しては、心がかき乱される。アルミ缶回収の仕事のあとカップ酒を飲んだ時の彼の本当に幸せそうな顔や、大晦日の夜に初詣に一人ででかけ、取材陣のインタビューに答えた後、 「あいつが心配するから帰るよ」と言った言葉が忘れられない。

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