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曲に込めた想い②:「Hydrocity」(アルバム)編

初めましての方は初めまして、こんにちは。すなじろと申します。
CD制作の雑記を書きましたし、せっかくなのでそのアルバムに込めた想いや裏話などを書いていきたいと思います。
筆者は音楽理論に精通した人間ではないため、独自解釈によるコードの表記や選択が多々あります、というかあまり論理的ではないです。叩かないでください。お願いします。
なお、文中に出てくるコードや音の表記はすべてmajor scaleを基準に書いています。大文字ローマ数字はコードの表記で、小文字ローマ数字は単音表記になります(例:B minorにおけるⅵはB音のこと。ⅣはG, B, Dを構成音とするコードのこと)。
詳しい人に怒られるかもしれませんが、これで慣れてしまったので許してください。そもそもmajorと平行minorの区別付いてませんなんとなくです適当です


これから紹介する曲たち

12曲あります。全部詳細に説明すると長すぎるので各曲少しだけ書きます。
曲聴いてから読んでも、読んでから聴いても面白いかもしれません。文章力は無いので保証しません。
また、音楽の受け取り方や感じ方は人それぞれです。決して楽しみ方を限定するものではないし、読む人によっては蛇足となり得ることをご理解の上お読みください。


01. Hydrocity

D major / 180 BPM

アルバム表題曲で、アルバム全体の構想はこの曲からスタートしました。
出来るだけ自分色のハードコアになるようにしましたが、出来るだけ海の青さを感じるような音使いを目指し、全体的にハードではありつつもすっきりとした質感にしています。
「Hydrocity」という言葉には「海の上の入道雲」という意味を込めています。「Hydro」が海なのはもちろん、「city」はそれの上に佇む街≒入道雲……ということにならないですかね……?

cloud使ってHydrocloudでいいじゃん

今記事を書いている俺の中のナニカが囁く

うるせえ! ただの雨雲っぽいだろ! あとSoundcloudに音が似すぎだしそれは嫌だ

ここすき

ハーフテンポ地帯後の不安定なBメロだと思います。
入道雲って積乱雲のことですし、要は強い雨雲ってことですよね。大気が不安定なんです。なのでコードも1週目とは異なり非常に発達した不安定なコード進行にしています。

一週目のコード進行が
ⅣM7|Ⅳ6  Ⅴ6sus4|Ⅵm7|Ⅵ7sus4|
Ⅵm7/Ⅱ|Ⅱsus4  Ⅴ6sus4|Ⅵm7 |Ⅵ7sus4|
という、45662566系の比較的シンプル(?)なコード進行なのに対し、
二週目のコード進行では、
Ⅳ♯M7-5Ⅳm7|Ⅲm7|Ⅵm7
Ⅱm7|Ⅱ♭7  Ⅴ6sus4|Ⅵm7  Ⅵ♭aug|Ⅴ  Ⅰ|
というひねくれ気味のコード進行から急に51のようなギャップを見せる進行になっています。しかもこの後ではさらにⅣdim7をぶち込んだりしますが、そこは長くなるので割愛。
夏の夕立の強い雨と、それが急にやんだり強くなったりする不安定な感じを表現しているつもりです。


02. あの夏の日、空の景色

D major / 90 BPM

リワーク楽曲になります。この曲だけ、完全書き下ろしというわけではないんですよね。アコギが大活躍の、ハイコントラストな夏の山をイメージしたバラード(?)です。
初出は2021年に作ったこの曲で、実はけっこうまんまです。ミックスはやり直しましたし、ストリングスのパートとかは変えましたけど。

この曲にはかなり思い入れがあります。
自分の思う「望郷の夏」ってこれなんですよ。歌詞も昔からあって、後はそれを歌わせるだけ……でしたが、機会が無く。テーマにぴったりだということもあり、この曲だけは書きおろしというルールを破り、ミクちゃんに歌わせて収録することにしました。

ここすき

蝉の声と4516……と言いたいところですが、この曲の一番うまくいったところは調声だと思っています。

雰囲気に合わせるためかなり甘い声で歌わせているのですが、サビでどう盛り上げるかが課題でした。というのも、そのまま音量を上げるとめちゃくちゃ浮いたんですよね。ハモリがあるとはいえ、それだけだとまだやや重量感が足りない……。
試行錯誤の末、1オク上でうっすら違う声を流したり、ハモリをサイドに広げたりすることで解決しました。甘い声としっかり感を両立させたいい具合に仕上がったと思います。調声というよりミックスじゃね?


03. Aquarium

D major / 186 BPM

何処が水族館(Aquarium)やねん!!! と突っ込まれそうなハイテンポの生音多めのドラムンベースです。
広大で透き通ったライトブルーの海の中を泳ぎ抜けていくようなイメージで制作し、それを水族館に見立てています。アコギとピアノ、そしてストリングスの組み合わせが大好きで、これにドラムンビートを載せたら最高になると相場が決まってるんですよ。ミックスは苦手だし本当に地獄なんですけど。
拙作「Aquamarine」にはあえて似せました。表現したいものが透き通った海ということで近いので楽器構成や音の名残を残し、これが自分のスタイルであるということを改めて示したいと思ったからですね。「Aqua」を共通のタイトルとしているのもこういう側面があります。

ここすき

間違いなく2回目のサビのフェイクです。これは音楽的にやりたかったのもあるのですが、前述の「Aquamarine」とのつながりを示すものでもあります。
Aquamarineが海の上だとするなら、Aquariumは海の中です。水面を境に逆の世界なんです。
Aquamarine:サビに入らないと見せかけてサビに入る、みたいなフェイクパートがあります(2:41~)。
Aquarium:サビに入ると見せかけてサビには入らない、というフェイクパートを入れました。
それぞれのパートは曲を印象付ける重要な部分ですが、その表現を真逆にすることで、似ているけれども逆の世界だということを表したかったんですよね。自分の曲を普段から聴いてくださる方に届けばいいなと思って作っています。

他にはサビのコード進行ですかね。詳細には示さないのですが、456ベースの進行に挟み込むように短くノンダイアトニックのコードを入れ、進行を滑らかにしています。流動性のある水の表現をしたいと思い、こういった進行にしてみました。


04. Turquoise Blue

E major / 174 BPM

ここで初めてD major以外のキーを入れました。ここでいうターコイズブルーとは、海の方角に見える、日が少し沈み始めて、真っ青ではなく、なんとなく色の霞み始めた空の色のことです。海っぽいけど海の色とはなんとなく違うな、と思った方もいらっしゃったのではないかと思います。
焼け付いたようなSuper Sawのリードとピアノ、そしてドラムンベース。夕方にならないくらいの空のイメージってこんな感じじゃないか、と思って制作しました。

ここすき

個人的には2回目のビルドアップ(サビ前)のコード進行です。
サビ以外のコード進行はずっと41564136をベースにしているのですが、最後のビルドアップのところのコード進行(もとは4136)を抜き出すと、
ⅣM7|ⅣM7  Ⅰ|Ⅲm7|Ⅳ♯m7
になってるんですよね。このⅣ♯m7の響き自体かなり好きでよく使うのですが、Ⅲm7から接続したのは初めてな気がします。
自分はこのⅣ♯m7のことを脳内で「怪しい夜コード」と呼んでいて、名前の通り怪しげな夜みたいな響きがします。456系のコードの中で使ってあげると特にそんな感じです。
なんとな~くふんわりと夜が迫っている感じですかね。そんな雰囲気を表現したくて、サビ前の強烈な位置に置いて響かせてみました。


05. テンキアメ

D major / 160 BPM

タイトル通り、天気雨です。

黄色の空の下、雨の気配。自転車に乗って大急ぎで帰路につく。ぽつぽつと空から垂れ始めた雫はその勢いをだんだんと強め、一度止んだかと思えばまた強まり、降り注ぐ雨を全身に受けながら夏の一日が終わろうとしている。

天気雨ってこんな感じ

軽快なドラム隊とアコギ、ピアノの掛け合いで大急ぎの帰り道と雨を表現しました。長く響くストリングスとクワイアで空の広がりも表現し、陰鬱な雨ではなく天気雨だ、ということが曲からも感じられるようにしています。


ここすき

この曲本当に全部好きなんですが、強いて言えばドラム隊のリズムかなと思います。
作曲するうえでまずは疾走感を出すためにどうしようか、という課題があったのですが、ただテンポを上げるだけではピアノやアコギが付いてこれずちぐはぐな感じになってしまいました。ただ単に4つ打ちドラムを倍速にするというのも考えたんですが、ちょっとアホっぽくなってしまって世界観に合わないなと。
ただ、倍速のリズムをベースに、スネアのリズムにタメを入れたり、キックのリズムを少しずらしたりすることでアホっぽくない疾走感を得ることができました。こうしていい感じに曲自体が纏まり、自分の考える天気雨の表現にぴったりな曲が完成しました。
ドラムのリズムを抜くとやっぱりゆっくりに聴こえる(イントロがそんな感じです)のでドラム隊のリズムの働きが重要なんでしょう。


06. 夜のとばり

D♭ major → A major / 174 BPM

アルバム内では転調のある唯一の曲です。ピコピコ系の音を多く用いてノスタルジーを感じられるような構成にしてみました。
夜の帳だという割には元気な曲調だな~と違和感を抱いた人もいるかもしれません。
夜の帳とは、

夜の闇を、帳にたとえていう語。「―が下りる」

小学館「デジタル大辞泉」より

とのことですので、夜の闇というにはちょっとハイテンポでしょう。
表現したかったものは、夕暮れから夜に移り変わっていく空の様子です。そのためにゆっくりと転調させるパートを挟み、夜に向かっていくんだという雰囲気づくりをしました。

ここすき

この曲メロディがめちゃくちゃ良い(自画自賛)のですが、その中でも最初のサビのメロディを二回目のサビ前に流用した点が印象に残っていますね。
明るいメロディではありつつもブルーノート(ⅲ♭)などがあり少ししっとりとした質感の1サビのメロディですが、これを思い切って二回目のサビでは使わずその前に据えました。
これは夕方から夜に移り変わっていくというバトンパスの役割であり、時間によっていろんな顔を見せる夏の一日の表現の一つです。転調も挟んでいるので、またちょっと印象の違ったメロディに聴こえるかと思います。


07. Daybreaker

B minor / 168 BPM

Daybreak、つまりは夜明け。夏の夜が終わってだんだんと明るくなっていく空の様子を、D majorの平行調であるB minorを用いて演出したつもりです。メロディがⅵで終始するので456系のコードでも底抜けに明るくなるわけではなく、ちょっとした暗さを感じますね。
ハードコアをベースとしているので全体的には硬い響きの曲ですが、オーソドックスな構成で割と聴きやすいかな~と思っています。

er付けずにDaybreakでいいじゃん

今記事を書いている俺の中のナニカが囁く2

うるせえ! こっちの方がカッコいいだろうが! 鶏とか言うな

ここすき

サビのメロディの繰り返し方の特殊性かな、と思いますね。
1回目のサビのメロディが4小節をひとまとまりとしてAA'BB'のような作りになっているのですが、これは二回目でAA'AA''CC'CC''のような構成に変わります。Cのパートではコードも変わり、Ⅳ系のコードが持続することでふんわりと朝の香る雰囲気づくりができたのではないかと思います。
メロディを繰り返し方から変えた理由は、一回目のサビが夜を表現しているだけなのに対して、二回目は夜と朝の境目を表現しているからです。
あの時間って意外と長い。そしてだんだん明るくなっていくあの空には何とも言えない哀愁がありますよね。それを表現するため、一回目のサビを流用しながら違うメロディに接続できるようAA'の部分を繰り返すような作りにしました。
音楽的な側面から言えば、B→Cの接続がメロディの流れとして良くなかったというのも理由の一つです。


08. 曇行列車

D major / 128 BPM

アコギとエレキのバッキングが爽やかで、どこか寂しげな書き下ろしのボカロックです(ロックで良いですよね?)。スタートの列車の進行音と遮断機の音、雨の音が印象的ですね。
歌詞にもあるように、物理的に表現しているものは雨の中を走る列車と、その車窓から見える夏の景色。イメージから真に示したかったものは、目的なんてなくても自由に生きるのがええやん、というメッセージです。
音域ヤバすぎて人間が歌うことをまったく想定してないのは、ご愛敬です。

ここすき

書きたいところが多すぎてここで説明するの無理です。俺には絞れません。せっかく書き下ろしたボカロ曲で相当練ったので、近いうちに個別記事で書きたいと思います。その時にまた。


09. 海が見たくて

E♭ major / 61.7 BPM

めちゃくちゃゆったりしているBGMライクな曲です。3連符を多用しているためもう少し早く聴こえますかね。
前の曇行列車からストーリーとしては地続きになっていて、列車を降りた駅から海が見えて、その海まで歩いていく、そんな曲になっています。E♭ majorという透明感のあるスケール(個人的には、そう思っています)を使ったのも、雲間から照らす光が海面に反射してキラキラと光っているような情景を表現したかったからです。
BPMが変なことになっているのは制作の都合上、DAW上で185 BPM、つまりは3連符の1音を1ビートだとして作曲したからです。61.7 BPMと言うのが実を表していると思います。
こういう曲はアルバムじゃないとなかなか書けませんね。単曲でのインパクトは小さいですが、アルバムのストーリー作りに強く貢献している一曲です。

ここすき

ストリングスのパートやそれ以降にたびたび出てくるⅦ♭の使い方が凄く好きです。部分的にミクソリディア旋法を借用しているというのが近いでしょうか。
Ⅶ♭は接続の仕方によっていろいろな顔を見せますが、今回はその雄大さを利用する形で使いました。大海原を眼前に感じてほしいという意図です。

他には曲構成全体もストーリーがあって好きですし、アコギのメロディもとてもよくできたと思います。なかなかこういう曲書いても公開する機会が無いので……作ってよかったなと特に思った曲の一つですね。


10. Yellowish Sky

D major / 174 BPM

空も晴れて、海を背にする帰り道。見えるものは何ですか? そう、焼けた色の空と、それを背にして、もう緑にはとても見えない夏の山です。ジャケット右側に見えるオレンジ色の入道雲、あんな感じの色です。
夏の終わりも近づいてきて、今日も一日が終わる。もういくつ寝ると秋が来る、みたいなイメージをハードコアで表現しました。曲名はまんまです、「黄色の空」ですしね。

ここすき

1サビ後に存在するハーフテンポのパートがめちゃくちゃ気に入っています。焼け付いた空にふわふわと浮かぶ雄大な雲の流れが目に浮かびませんか?
その雰囲気を演出するには、ストリングスをぶわっと鳴らしてハーフテンポにするしかないと思ったわけです。やっぱり聴感上のテンポがゆっくりになるとゆったり歩いているような感覚になりますよね。
クワイアがスーッと通り抜けるように鳴って風の流れを感じさせ、サイン波で作ったシンセが沸き上がる夏の夕方の空気感を醸し出す。すごくよくできた部分だと思います。
あのパートがやりたくてこの曲を書いたまであります。もちろんサビやそのほかのパートもすごく好きなのですが、アルバムのストーリーとして重要な部分なので。


11. 月が静かに眠るなら

B minor / 75 BPM

タイトルに「月」とあるように、月明かりの森の中というイメージで制作した、これまたBGMライクな曲です。(個人的には)あまり夜というイメージの強くないB minorにした理由は二点あります。
一つは、月明りが非常に明るいことを明示したかったからです。あまり陰鬱な暗さにしたくなかった、とも言えます。月の白い光が森をふわりと照らすようなイメージです。
明るい、ということは満月です。満月と言えば、中秋の名月です。
そして夏が終われば、秋が来ます。残暑の中、夜は涼しくなってきたあの時期の空気感を、月にフォーカスを当てて表現しています。
もう一つは、アルバム通して多用したD major及びB minorというキー、456というコード進行であえて夜を表現することで、ギリギリまだ夏であるということを提示したかったからです。

ここすき

なかなか気づきづらいと思いますが、二回来るサビの部分には過去作のメロディを流用しています。裏にオルゴールでうっすらと流れているのでかなり分かりにくいかもしれません。
一回目は拙作Lunar Gravity、二回目はMoonlight Reflectionです。どちらも月をイメージに制作した自分の代表作なので、思い切って入れてしまおうと思いました。どちらもやや癖のあるメロディなのでコード進行がかなり引っ張られていますが、そういう部分からもなんとなく夜の雰囲気が出ているような気がして、好きです。
元のメロディはどちらもF# minorでB minorとはかなり雰囲気の近いキーですので、意外とすんなり入ってくれました。


12. Autumn Breeze

D♭ major / 176 BPM

アルバム締めくくりの曲として、秋の曲を最後に一つ。夜風に吹かれて肌寒さを感じるようなドラムンベースです。ピアノのメロディと壊れたベルのような音、比較的ほっそりとしたリードが特徴です。
秋風が夏をさらって行くような寂しさを感じてもらえたら嬉しいですね。アルバムを締めくくるのにふさわしい曲だと思います。

ここすき

ベースの動きやストリングスのパートなど語りたいところはたくさんあるのですが、一つ挙げるならBメロのピアノのメロディです。
メロディの頭を白玉の主音にして広がりを持たせる、というメロディ運びがドラムンベースのリズムと456系のコード進行にとても良く合うなと思っていて、このBメロはまさにそんなメロディをしています。
楽器も減って一気に静かになるタイミングでもあるので、D♭の持つ寒さや暗さというのがより際立ちますよね。この部分を聞くとなんとなく気温が低くなったような気がします。

他、サビ途中に入ってくるピアノのサブメロディもとても気に入っています。メロディのリズムなんかもとてもうまく仕上がったような気がしています。


あとがき

アルバム作った機会でもないとこういうのわざわざやらない気がしたので書きました。めちゃくちゃ楽しかったです。曇行列車の分はまたいつか書きたいと思います。
自分のアルバムを手に取っていただいた方に改めてお礼申し上げるとともに、ここまで読んでくださった皆様に感謝申し上げます。

DL版にはなりますがこのアルバムはBOOTHにて販売しているので、もしこの記事を読んで興味を持たれた方が居ましたら是非よろしくお願いします。
ありがとうございました。

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