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生菓子 【短歌十五首連作】

私の生家には仏壇のすこし見えにくい位置に、エコー写真が置かれている。それに気づいたのは、仏壇を覗けるくらいに背が伸びたころだった。



『生菓子』

日向にも井戸にもやがて配られて君へしずかに降る変声期

一九九五年 心臓の台座のごとく生菓子は座す

ホールケーキを生菓子とよぶ母親のもとへ生まれてしまって真夏

つるつるの部分にふれる 兄さんの年齢の数だけ母は火を

文鳥に骨格がある寂しさよ 花垣をつらぬく滑り台

お祝いをのべれば長くなりそうにゆっくりと時間はとろけだす

訥々と母はこぼした確かめるように記憶に手を差し入れて

Echo 火はやがて消えたり消えなかったりやがて心に破片を落とす

ふたりきりで観ているんだよ心から魂へゆく火の勢いを

ふたり ふたり ふたりの声をあわせつつ発話の先に咲くゆりの花

人と話すと泡立つ場所をもちよって万策尽きたまま座ろうか

生まれても生まれなくても覚えてるわたしの喉で燃えさかる声

生菓子に銀のするどさおしこまれ配られ分けられ角度ひとしく

ささやけば祈りのような生菓子は切り分けられてなお麗しい

わたしにもあなたにもある度肝だよ 光ったらいいねって見せ合う


(初出:花梨 31文字の私に出会う)
大森静佳さんが教える短歌ワークショップの記念作品集に掲載していただいたものです。


読んでくださってありがとうございます! 短歌読んでみてください