砂猫

別名:七鉈まよひ  さまよえる小説書きでベース弾き。小説、映画、音楽、猫が好き。そのう…

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別名:七鉈まよひ  さまよえる小説書きでベース弾き。小説、映画、音楽、猫が好き。そのうち死ぬがとりあえず今日は生きている。 https://estar.jp/users/145767018 https://twitter.com/ladermangoma

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【小説】らせん階段(2 完結)

(1よりつづく)  見えないようにバッグに手を入れてお札を数えた。パンケーキが来るまでのつもりだったが、五十枚数えてもパンケーキはまだ来ない。大学生風のカップルが入ってきてあたしの前のテーブルに座ったので数えるのをやめた。わくわくしてきた。こんなに気分がいいなんてまるであたしがあたしでないみたい。きっと、彼の部屋を出たところで、あたしは、これまでのあたしでなくなったのだ。だってこんな大金を手にしたことなど生まれて初めてなので、今までのあたしであるはずはない。だから、らせん階

    • 【小説】らせん階段(1)

       男は美人にしか興味がない。間違っていないとは思うけれど、そうでない男もいた。少なくとも、昨夜、あたしは適当に入ったバーで彼に誘われ、その後部屋に行き、セックスをして今こうして同じベッドにいる。美人ではなく、自分に自信がなく、人にどう評価されるかが行動の指針であったこのあたしがうまれて始めてそのままの自分を評価された喜びを感じている。昨日部屋に入った時は真っ黒だった窓の外が白くなっている。 あたしがベッドから出ると彼も目を覚ました。彼はあたしにコーヒーをたててくれた後、シャワ

      • 【掌編小説】てるてる坊主

         妻の具合がいいようなので、翔太を連れて買い物に行くことにした。 明日は、小学生にあがったばかりの翔太の、初めての遠足なので、弁当やおやつを入れるリュックを買ってやるのだ。  もともとこころが不安定な妻だが、先月から特に調子がよくなかった。ほとんど食事もせず二階の部屋に閉じこもっていた。その妻が、今朝、おれたちのために久しぶりに朝食まで作ってくれた。いつもはばさばさに伸ばしたままの長い髪を、赤いゴムできれいにポニーテイルにくくっていた。気分のいいとき妻はいつもそうするのだ。遠

        • 【掌編小説】イルカのハンドタオル

          あたしは基本的に人というのは信用しないことにしているので、フリマアプリとかはしたことがない。ユカにすすめられてヒマなときにたまに見てみるけど、買ったことはない。あ、これかわいい。とか思ってけっこう安いし、欲しくなるときもあるけれど、買わない。お金を払って送ってこなかったり、送ってきても、汚れていたり、画像とは全然違っていたりするのが怖いからだ。あたしってそんなことばかりだから。 けれども、ピンク地にブルーのイルカがプリントされたそのハンドタオルだけはあたしの心を捉えて放さなか

        【小説】らせん階段(2 完結)

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          【掌編小説】すばらしい人間

           別に何の思い入れもなかった。けれども、行ってみたくなった。最後に訪れたのはいつのことだったか、覚えてもいないその街に。改札を出たところの風景は記憶と同じようにも思えたし、そうでもないような気がした。少し歩いたところに見覚えのある書店がまだ残っていた。昨今ではついぞ見かけなくなった個人経営の小さな店だ。学生時代はよくここで立ち読みをした。買おうにも買いたい本は必ずといっていいほど置いていなかった。外からのぞくと、奥のレジの店主と目が合った。当時はまだ中年といえる年だったが、す

          【掌編小説】すばらしい人間

          【小説】○と△と×と(#2 完結)

          (#1)よりつづく  その日、あたしは、クリップの時と比較にならないほどすがすがしい気分で帰途についた。 翌日、同じようにバスに揺られて草原に到着した。配られたゼッケンは昨日とは違い、「〇」だった。あたしは新鮮な気持ちで一日数え切れないほどの○を描きまくった。  翌日の最終日、ゼッケンは「×」だった。三日とも違う記号ということになる。これは偶然はなく意図的なのだろうか。美大女子を探して聞いてみた。 「全員、三日間の作業で、○△×がかぶらないようにゼッケンを配っているんですよ

          【小説】○と△と×と(#2 完結)

          【小説】○と△と×と(#1)

           あらゆるものが二重に見えるようになってきて、数をきちんと数えることができなくなってきた。私は困った。大きなビニールにぎっしりと詰まったクリップを大、中、小に分類してそれぞれきっちり100個づつ小さなビニールに分けて入れるのがあたしの仕事なのだった。あたしは職場で一番すばやくクリップを分類することができ、しかも絶対に間違えずに100個数えることができたので重宝されていた。そのあたしが、作業が遅くなった上に、大中小や数を間違えるようになったので、ある日、リーダーの人に呼び出され

          【小説】○と△と×と(#1)

          【小説】ユウ、また鍵なくしたね(part3)

          (part2より続く)  児童公園には誰もいなかった。みんな家に帰ったのだ。おれも帰らなければならない。立ち上がると足元がふらついた。思ったよりも酔っていた。帰りたいのだが、おれには帰る場所などないのだ。力が抜けて、またベンチに腰を落とした。座り心地など何も考慮していない木の座面に尾てい骨がぶつかって、痛かった。痛い。涙が出るほど痛かった。やばい。本当に痛いぞ。コンロに頭をぶつけた時もマジで痛かったのだが、おれは痛くないふりをしていた。なぜなら母親が無表情だったからこれは大

          【小説】ユウ、また鍵なくしたね(part3)

          【小説】ユウ、また鍵なくしたね(part2)

          (part 1より続く)  赤ワンピースが、ぎゃあ、と怪鳥じみた叫び声をあげ、とことことおれのいるベンチに向かって走ってきた。その前を、青いボールがころころと転がっている。ボールは、おれの足元のほんの数センチ先で小石にぶつかって止まった。ボールだけを見ていた女児は、その段になって、おれの存在に気づいたのか、少し離れたところで、見えない壁にぶつかったかのように足を止めた。子ども特有の無遠慮さで、おれをガン見する女児の顔は恐ろしいものを前にしたかのようにかたくこわばっていた。女

          【小説】ユウ、また鍵なくしたね(part2)

          【小説】ユウ、また鍵なくしたね(part1)

           腹が減ったので、目についたコンビニに入った。安くて腹がふくれそうな、賞味期限切れ間近な惣菜パンとおにぎりを数個づつと、ビールのロング缶を二本を抱えてレジに向かう。支払いはスマホの決済を利用した。いきなり家を追い出されたので、財布など持っているわけがない。近くのしょぼい児童公園のベンチで、パンをむさぼり食い、ビールを飲んだ。砂場とすべり台で、若い母親たちが子どもを遊ばせていた。昨日の夜もこのベンチで寝た。十月に入って肌寒い日が続いたが、幸いにも昨日から夏に戻ったような気温が続

          【小説】ユウ、また鍵なくしたね(part1)

          【映画】最近みてよかった映画(新旧問わず)③

          「海へ行くつもりじゃなかった」(2017・日)  (監督:磯部鉄平) アマプラで見つけてなんとなく鑑賞。三十数分の短編。 タイトルのデジャブ感は懐かしのフリッパーズ・ギターのアルバムタイトルのせいだった。 まあよくあるパターンといえばそれまでなのだが、ストーリーよりも空気感を楽しむ作品。「こういう感じ」が好きではない人には退屈かもしれない。結末もあいまいだが、そこがいい。そもそも現実に結末などない。ただ続いていくだけ。 主役の女子がいいたたずまい。

          【映画】最近みてよかった映画(新旧問わず)③

          【掌編小説】年収5円

          12月31日。大晦日。深夜。 もうすぐ日付が変わる。つまり新年を迎えようとしている。 テレビでは紅白が終わり、どこかの寺の風景が映し出されている。 それまでビールを飲んでうとうとしながら画面を眺めていたおれは、ふと、我に返った。 強烈にいやな気分が胸にわきおこった。 今年、つまり、あと数十分で終わろうとしているこの一年、 なんとおれの年収は0円だった。 つまり一円も稼いでいないない。 昨年暮れ、いやでたまらなかった仕事をやめ、 貯金を取り崩してだらだら生活しているうちに、いつ

          【掌編小説】年収5円

          【掌編小説】根雪

          子どもの頃からぼくの心は目に見えない何かに支配されている。遊んでいる時も、ご飯を食べている時も、勉強をしている時も、友達と遊んでいる時も、仕事をしている時も、テレビを見ている時も、見かけ上ぼくはその行為に専念しているようで、自分でもそのつもりでいるのだが、実はそうではないことをぼくも心の奥底でわかっていたのだ。春がきて雪が解けても、いつまでも溶けずに残っている根雪のようにぼくの心の底にはどうやっても拭いとれないものがべったりと付着して、24時間365日居座ってぼくを邪魔し続け

          【掌編小説】根雪

          【掌編小説】黒いバレエシューズ

           暑かったので、コンビニで抹茶のかき氷を買った。店の前のベンチで食べていたら、この暑いのに黒い厚手のパーカーを着たぎょろ目のぼさぼさ頭の男がやって来た。ぼくは、そいつのことを知っていた。同じ団地の真上に住んでいるやつで、確かタカノと言う名だ。大学を出て定職にもつかずに毎日映画ばかり見て過ごしているらしい。そいつは、コンビニに入りかけたところでぼくを見て、おっ、という顔をした。タカノと口をきいたことは一度もなかった。 「おまえ、たしか光峰高の二年だったな」  タカノはぼくに話し

          【掌編小説】黒いバレエシューズ

          【掌編小説】きもちがよくなるくすり

          「眠れないんです」 そう訴えると、医者は私の顔をじっと見つめて、 「なるほどね、お薬をだしましょう」 「睡眠薬ですか?」 「まあ、そんなところです」  言いながら、カルテにボールペンで何語かわからない文字を書きつけ 「きもちがよくなる薬です。寝る前に飲んで下さい」  まだ聞きたいことがあったが、看護婦が次の人を呼んでしまった。 薬局で薬をもらうとき、若い女の薬剤師が私の顔を5秒くらい凝視したので二人は見つめ合う形となった。何か言われるのかと思ったが「お大事に」とだけ言って、私

          【掌編小説】きもちがよくなるくすり

          【掌編小説】あたしの人形

          誕生日のプレゼントにパパとママが人形をくれた。金髪のさらさらした長い髪がとてもきれいで、目のぱっちりとしたかわいい女の子だ。あたしは一目でその人形を気にいった。その夜は人形と一緒にベッドに入った。その人形は瞳を自由に閉じたり開いたりできる仕掛けになっていて、電気を消す前に人形の瞳を閉じた。目を閉じると長いまつげがとてもきれいで、本当の人間みたいだった。目を閉じた人形を抱いていると、一緒に眠っているようで、あたしは朝までぐっすりと眠った。 目をさました瞬間、あたしはびっくりして

          【掌編小説】あたしの人形