見出し画像

生成AIは魔法ではない。AIと人間の協働による新しいビジネス創出の勘所を探る

ChatGPTをはじめとした生成AIが注目を集め、OpenAI社の最新のAIモデル「GPT-4」などが急速に世界中へ浸透しています。
 
AIと人間の協働が一層現実的なものになりつつあります。こうした革新的なAI(人工知能)の進化は働き方を変化させ、新たなビジネス領域が開拓されるなど、企業競争の源泉になりうるインパクトがあります。
 
こうしたなか、今回、AIと協働して事業創造に挑戦したのが福岡地所です。「福岡をもっとエキサイティングに、もっと魅力溢れる都市(まち)にしたい」という想いから、大型商業施設やオフィスビルの開発など、不動産を主軸に事業を展開し、福岡のまちづくりに取り組まれています。
 
コロナ禍でもたらされた外部環境の急激な変化に対応し、街の未来を見据えた企業価値の向上を図るため、Sun*と福岡地所が共同で行ったのが、生成AIを活用した今までの枠組みにとらわれない新規事業のアイデア創出です。


福岡地所がGPT-4を活用した新規事業開発に取り組むワケ

福岡地所は2014年に新規事業プロジェクトチームが発足し、既存の不動産事業とは異なる新たな事業創造に取り組んできました。
 
その後、テクノロジーの進化やEコマースの台頭、ライフスタイルの多様化など、さまざまな時代の変化を受け、会社として新規事業の立ち上げにより一層コミットするべく、2019年に事業創造部を創設。
 
不動産事業の周辺領域を中心に、新規事業の種を探しながら、事業化に向けて模索を繰り返してきました。
 
しかしながら、部署に関わるほとんどのメンバーが他業務と兼務していたため、推進力に欠ける状態でした。
 
「不動産開発の進め方は知っているが、新規事業の進め方は知らない」
 
このような課題を抱えつつ、どの部署からでも新規事業が生まれる会社を目指し、社内コンペを実施。その際には多くのアイデアが集まったとのことです。
 
その中からいくつかの案を採択し、事業化に向けて船出はしたものの、今度は推進者のモチベーション維持や事業創造部による効果的な伴走支援などが難しく、なかなか思い通りにいかないことが多かったそうです。
 
そのうち、2020年からコロナ禍に突入し、フードデリバリーやリモートワークの一般化、インバウンド需要が激減するなど、社会変化により、福岡地所も新規事業の創出にさらに力を入れることとなりました。そこで、担当の増員や、ステージゲート制の導入、事業を推進する上での権限移譲等、体制の大幅な見直しを進めました。
 
このような体制の強化も行いましたが、しばらくすると部署立ち上げ当初と比べてアイディエーション数が減少し、新規アイデアの件数が伸び悩んでいました。

このような背景のなか、2023年からの生成AIブームに着目し、GPT-4でアイデアを網羅的に出していくという取り組みを行うことになったのです。

本質的なことを結晶化して言語化しないと、良いアイデアは出てこない

井上(Sun*):まず最初にGPT-4を使って、新規事業のアイディエーションを行った背景についてお聞かせください。

藤村(福岡地所):GPT-4とメンバーの化学反応を期待し、今回の取り組み実施の意思決定を行いました。新しいことに挑戦しないと、そもそも何も始まらないですし、2023年の春ごろはちょうどChatGPTが注目され、非常にいいタイミングでしたので、特に抵抗感は抱かずに生成AIを使ったアイディエーションをやってみようと思ったのです。まだどこもやっていない先鋭的手法で事業機会を広く探索できることに加え、今後もこのプロジェクトを通じてAIを活用した事業創造のナレッジ蓄積にもつながる。このような背景から、Sun*と一緒に取り組んでいくことを決めました。

井上:実際のところ、GPT-4を使ったことによる仕事の仕方の変化やプロジェクトの成果にはどのようなものがありますか?

松田(福岡地所):ChatGPTというテクノロジーに触れたことで、新しいことをやるにしても、「どうしたら最適解を出せるか」という意識がチーム内にも根付いたと思っています。

今回のプロジェクトでは、GPT-4を活用して、週に新規事業のアイデアを300案以上、1ヶ月では1,000案以上を起案することができました。生成AIによって出力されたアイデアの「種」を、メンバーが課題性や革新性など優先順位をつけて深掘りすべきアイデアを精査し、その上でSun*の提供する「Value Design Syntax」(ビジネスアイデアの全体像や弱点を明確にし、対応すべき問題を定義するフレームワーク)に落とし込み、磨き上げる作業を週3日程度行いました。
 
作業効率としては、人間がアイディエーションを行うよりも、AIが持つ「網羅性」と人間の持つ「判断力」の組み合あわせによって、価値ある案の厳選ができたと考えています。

井上:図の一番左が最も重要で、生成AIというブラックボックスに投げかけるので、福岡地所という会社が本質的に何が強いのか。狙っているマーケットの本質的な動きは何なのかというのを、すごく結晶化して言葉にしないと、良いアイデアは出てこない。つまり、何を問いとして設定し、どういう指示文を書くかが肝になってくるわけです。生成AIは魔法ではなく、本気で指示文を考えていくことが大事になります。

生成AIで起案されたアイデアも「やりたい」という思いは変わらなかった

井上:次にこれまでの起案との対比を伺いたいのですが、以前から取り組まれてきた事業創造と比べ、今回の生成AIを活用した新規事業のアイディエーションはどうでしたか?

松田:最終的に「この事業をやりたい」という思い自体は変わりませんでした。GPT-4によって、アイデア探索時には網羅性を出すことができたと思っています。これが従来だと、メンバー個々の経験や知見に委ねられ、マンパワーでの限界を感じてしまうこともありました。今回は生成AIで1000案を出し、一定のアイデアを網羅的に確認できたのが良かったところだと思います。その中から1案を選び出し、それを何とか形にしなくてはいけないというプレッシャーを感じながら、事業化に向けて絶賛取り組んでいる最中です。

藤村:AIによって生み出されたアイデアだからこそ、「遠慮なく議論していける」というのはこれまでにない体験だったと思います。例えば、役職者が考えた事業アイデアでは、それだけで箔が付くというか、きっといいアイデアなのではと思ってしまいがちになるわけで、人が考えたものではなくAIが考えたアイデアゆえに、フラットに向き合えるのがメリットだと感じました。

井上:まさにAIだからこそ、分け隔てなく議論ができるわけで、これが社長という主語が入った瞬間に建設的な議論ができなくなる。

遠藤(Sun*):週で300案、最終的には1000案以上に上る事業アイデアの起案につながりました。そこから、Sun*独自のValue Design Syntaxに落とし込み、人間が「アイデアの収束」と「事業可能性の高い案の厳選」を行いました。生成AIによるアイデア発想には、適切な制約条件を設定することが重要で、今回は「福岡地所、福岡の強み」、「マーケット機会」、「類似企業の新規事業リサーチ」といった3つの発想を制約条件に加えました。
 
一方で「何を問いにし、どういう指示書を書くか」ということを考えるのには結構苦労しました。生成AIを使えば、先鋭的で斬新なアイデアが生み出せると期待しがちですが、実際にはそんなことはありません。生成AIの出すアイデアが事業として成り立つかは、アイデアを収束させるにあたり適切に「人が介在できるかどうか」が鍵であると考えています。
 
そういった意味では、生成AIを活用してアイデア発散量を上げ、収束フェーズで事業機会の有望性を加味しながらも人ならではの感性や創造性なども組み合わせ、案を磨き上げていくのも非常に重要になるでしょう。生成AIで新規事業のアイディエーションを行うことで、クイックかつ幅広いアイデアの創出につながるほか、AIの活用法もクライアント企業にレクチャーするため、自社だけで応用が利くようになります。これがAI* deationの特徴になっています。

アイデアを網羅的に出すのが「AI」。その中から案を厳選して磨いていくのが「人」

井上:事業のアイデアとして、どこまで新規性を見出すかは重要な視点のひとつだと思います。とかく新規事業は、大きなセレンディピティをきっかけに生まれると思われがちで、神格化されすぎている側面もあると感じています。

遠藤:AIは人間よりより多くのアイデアの組み合わせを試せる一方、新規性を伝えるのは難しいです。そのため、アイデアを尖らせていくためには、プロンプトを工夫したりすることが重要になってくるでしょう。プロンプトを書くのは人間なので、アイディエーションはAI、出力された案にリアリティをつけて厳選していくのは人間と、うまく役割分担するといいのではないでしょうか。

井上:そんななかで、AIと人間はどのように協働していくのが良いと考えていますか?

松田:人だけの会議ではアイデアを出すだけで疲弊してしまい、1000案も出した段階で達成感を得てしまう。要はアイデアを出すことが目的になり、プレゼンがゴールになってしまうわけです。アイデアにつながる種(ベース)を出すのがAIで、それをアイデアに昇華、煮詰めていくのが本来の人の仕事だと思っていて、AI* deationでは、事業化に向けた本質的な議論に集中できるのが大きなメリットになっています。

遠藤:AIは万能ではない一方で、うまく活用すれば便利な場面はたくさんあります。AIに頼りきりでも、逆に全く使わないのもだめで、AIとどのような姿勢で向き合っていくかが、今後問われてくると思います。新規事業のアイデア出しの際には、繰り返しになりますが、アイデアを収束させていくフェーズで、人間が現実味にあるものに落とし込んでいくことが大事になると言えます。

「GPT-4と共創する新規事業戦略 〜 AIと人間の協働による新しいビジネス創出」というテーマのもとイベントを開催。
新規事業のアイデア出しにAIを活用する意義や、Sun*の提供する「AI* deation」(アイディエーション)の取り組みについて、登壇者たちが議論する場となりました。
 
▼登壇者
藤村 秀雄氏(福岡地所株式会社 執行役員 事業創造部担当)
松田 知祐氏(福岡地所株式会社 事業創造部)
井上 一鷹(株式会社Sun Asterisk Business Designer Pros. Division Manager)
遠藤 和真(株式会社Sun Asterisk Business Designer)


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?