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金木犀の香水

とっくに落ちてしまったあのオレンジは、その色と香りにそぐうようないっぱいの秋をお知らせしてくれた。

必要以上に、そして贅沢に。何かのキャッチコピーかのように自然と鼻いっぱいにこれでもかと秋の匂いを誘う。

その季節に終わりの合図はきっとない。

探偵っぽくあの秋の匂いがするオレンジを探す。夏も冬もそっと佇んでいたであろうに、その存在は色ずくまでは控えめにしている。

季節の始まりは静かで、落ちたオレンジもまた静かで、近所のおばあさんちに散ったオレンジはおばあさんに静かに片付けられていた。

秋にこの匂いを思い出したのは幾人か。

いや、「思い出す」なんて一方的なものではない。この匂いに「誘われた」くらいの、少しの強引さがある。

そんな匂いを纏ったような人とは、一生出会いたくない。

金木犀と一緒にあなたに誘われた気になって、終わりの合図もないその季節をどうやってのうのうと過ごすことができるだろうか。

何が良くて、金木犀の香水なんだ。


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