見出し画像

プリズムの中の恋心

「そういえば、こっち来て初めての冬でしたっけ」
北国に異動してきて初めての冬、やっと雪道にも慣れてきた頃に社内でよく会話を交わす地元出身者だという後輩が思い出したようにそんな事を俺に尋ねてくる。そんな彼女の問にイエスと返せば「とっておきの景色を見せてあげますから、明日の休み、半日ください」と口端だけ上げて俺に告げた。

そしてその翌日というのが今日である。
後輩が運転する車に乗り込み、普段は行かないような場所へと連れていかれる。
少し郊外の公園の中で「どうです?」と得意気な笑みを見せる彼女の隣で「こりゃぁすげぇな」と言葉を零す。
踏み固められた細い一本道以外は誰の足跡も付けられていない白い雪原に太陽の光が輝き、青い影がその白に模様を描いていた。
雲ひとつ無い真っ青な空と、真っ白な大地のコントラストが目に痛いくらいで、今まで写真でしか見た事のなかった光景に俺は息を呑んだ。
「サングラス掛けた方がわかりやすいですよ」
隣からそっとサングラスを差し出てきた彼女の言われるままに、それを掛ければ白い雪の表面は無数の氷の粒なのだろうか、白い中に光が反射してキラキラと輝いていた。

「ココ、お気に入りなんですよね。あ、雪に倒れ込みたいとかあれば止めませんよ?」
けらけらと笑いながらそんな事を俺に告げてくる彼女に「何で連れてきてくれたんだ?」と尋ねれば、「さてね。ま、好きだからでしょうね」とあっけらかんとした答えが帰ってくる。

告白と言うには素っ気なさすぎる彼女の言葉に俺は固まる事しか出来なかった。


#写真 #SS

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?