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「新たなオプション」20-21 PL 第31節 シェフィールド・ユナイテッド×アーセナル レビュー

前節リヴァプール戦で敗戦したことでプレミアリーグからのCL出場権獲得が厳しい状況になってしまったアーセナル。EL優勝でのCL出場権獲得に振り切った方が良さそうではあるものの、ミッドウィークのELではスラヴィア・プラハ相手にアウェイゴールを献上しての引き分けとチーム状態は非常に悪い。そんな中で対戦した今節の相手はシェフィールド・ユナイテッド。暫定順位は最下位。状態の悪いアーセナルとしては良いタイミングで対戦できた相手なのかもしれない。

プレミアリーグでの前回対戦時レビューはこちら

■ チーム概要

【HOME】
・シェフィールド・ユナイテッド(暫定監督:ポール・ヘッキンボトム)
フォーメーション:3-5-2
【AWAY】
・アーセナル(監督:ミケル・アルテタ)
フォーメーション:4-2-3-1

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シーズンも終盤に差し掛かり、重要な試合が続くこの時期に怪我人に悩まされているアーセナル。スミス=ロウ、ウーデゴールと前線の中心選手が怪我で欠場、更にオーバメヤンも風邪により今節は欠場に。ダビド・ルイス、ティアニーとDFラインの主力も怪我で不在に。そんな中でアルテタは新たな試みを行う。ティアニー不在となった左SBにCHを主戦場とするジャカを、スミス=ロウ、ウーデゴールが不在となったトップ下にサカを起用した。

■ 前半①:ジャカ左SB起用の狙い

スターティングメンバーの発表を見たほとんどの人が予想したであろうサカの左SB起用。もちろん自分もその一人。しかし蓋を開けてみると左SBに入ったのはジャカ。今までもスクランブル的に左SBや左CBで起用されることがあったものの、セドリックが出場できる状態の中で意外な人選となった。

ジャカの左SB、サカのトップ下起用でビルドアップからファイナルサードまでの仕組みは当然ながら変わる。まずビルドアップでは、右SBのチェンバースが高い位置へ、DFラインは全体的に右へスライドしてCHのトーマスと3-1の菱形を軸にショートパスでブレイズのファーストDFのラインを突破する。

特に通常と異なっていたのがミドルサードでの左サイドの仕組み。まずは大外で幅を取るのは左SHのマルティネッリ。ブレイズの右WBを引きつける。そして、ジャカがボール保持した際にセバージョスが大外へ開いてパスコース作りつつ、ハーフスペースに空間を作る。そこへ降りてくるのがラカゼット。ここへジャカから楔のパスを通して左サイドを崩すきっかけを作る狙いが見えた。また、ラカゼットが降りてきた際に裏のスペースが空けば、マルティネッリがそこを狙う。3人がハーフスペースを軸に旋回しながら崩しを狙う仕組み。

この左サイドの狙いは、ジャカのパススピードの速さやビルドアップの貢献力を活かした采配に感じた。また、左サイドが詰まればジャカから右サイドへ大きく展開する得意のロングフィードも活きる。SBであればCHよりも前を向いた状態でボールを保持できる分、ジャカの展開力はアーセナルに大きく貢献していた。

■ 前半②:らしさが垣間見えた先制点

ジャカの左SB起用と同様に驚きを生んだサカのトップ下起用。ライン間でボールを引き出す上手さのあるスミス=ロウ、ウーデゴールが不在となれば次にライン間のポジショニングの上手さをもっているのはサカ。左サイドと仕組みは異なりこちらは比較的シンプル。サカがライン間でビルドアップの出口になりつつ、状況によってペペとチェンバースが大外の幅取りとハーフスペースでライン上のポジションが被らないように位置取りする。

ビルドアップは3-1で行い、前線の左はセバージョス、マルティネッリ、ラカゼットの3人。右はサカ、チェンバース、ペペの3人。
つまり、3-1-6(3+3)の形でブレイズ陣内へ攻め込むアーセナル。ただ、左と右それぞれで攻め込むものの、なかなか決定的な崩しまでは至らない。

しかし33分、左の3人と右の3人が上手く絡み、アーセナルらしいゴールから先制に成功する。左サイドのボール保持から中央、右サイドへと展開。そこから再度中央のトーマス、そして左ハーフスペースにポジショニングしていたラカゼットへ展開。そのままラカゼットはワンタッチで中央のサカへ。サカのリターンパスを間にいたセバージョスが華麗にフリックしてラカゼットへ優しいパス。美しいパスワークで完璧に崩しきりGKと1対1になったラカゼットが落ち着いてゴールへ流し込み先制。

左サイドの軸になっていたラカゼットと、右サイドの軸になっていたサカがうまくパス交換を行うことで左右をスムーズにつなげ、ブレイズの守備陣を混乱に陥れていた。アーセナルらしさを感じさせるパスワークが光ったゴールシーンだった。

■ 後半①:ブレイズの対策

1点ビハインドとなったブレイズは、後半立ち上がりからフォーメーションを変更。左WBのオズボーンをトップ下へ移動。4-3-1-2のシステムに変更してきた。

アーセナルのビルドアップで軸になっていたトーマスに自由を与えない狙いでトップ下へ移動させたのかもしれない。後半立ち上がりは若干ブレイズペースで試合が進む。ただ、時間が経つにつれアーセナルもブレイズの変化に慣れはじめ、この采配は大きな問題とはならなかった。

オズボーンのトーマスに対してのマークが緩かったこともあるだろうが、トーマスが後ろ向きでパスを受けても落ち着いてボールを預けられるジャカが後ろに居たことも大きいだろう。

■ 後半②:試合を決める追加点

68分にサカが負傷交代でウィリアンと変わったものの、役割は大きくは変わらない。そして交代からすぐの71分、ブレイズ陣内でのボールロストに対してウィリアンがすぐにプレッシング、連動してラカゼットもプレスを行いパスミスを誘発。これでペペがボールを回収しそのままドリブルでペナルティエリア内まで持ち込みシュート。GKにシュートは弾かれたものの、マルティネッリが押し込んでアーセナルが追加点。

ネガティブトランジションですぐにウィリアンがカウンタープレスに移り、周りの連動したプレスは見事だった。ペペのファーサイドへのシュート、そして、しっかりとシュートに対してこぼれ球を狙ったマルティネッリと、チームとしてのまとまりを感じさせたゴールだった。

85分には華麗な個人技が光ったゴールから更に追加点を奪う。アーセナルのボール保持。チェンバースからトーマスへパス。後ろ向きでパスを受けたトーマスに対してマーカーのオズボーンが素早くプレス。これに対してトーマスは右側へトラップするフェイントを入れて左回りにターン。華麗にオズボーンをかわす。そして、すかさず裏抜けしたラカゼットへ絶妙なスルーパス。ラカゼットがGKとの1対1を落ち着いて決めてこの日2点目。

アーセナルが試合を決める3点目を奪い、ブレイズは万事休す。0-3でアーセナルが快勝を収めた。

■ 試合結果

Sheffield United 0 × 3 Arsenal

■ 得点
33分:ラカゼット(アシスト:セバージョス)
71分:マルティネッリ
85分:ラカゼット(アシスト:トーマス)

■ 交代
64分:バーク → マクバーニー
64分:マクゴールドリック → ブリュースター
69分:サカ → ウィリアン(負傷交代)
83分:マクバーニー → ムセ(負傷交代)
83分:マルティネッリ → エルネニー
89分:ラカゼット → エンケティア

■ 試合ハイライト

■ あとがき

ジャカの左SB起用、サカのトップ下起用と、アルテタの奇策がハマり解消となった今節。サカは少しやりにくそうにしていたところがあったものの、卒なくこなすあたりは流石。ジャカの左SB起用は、ティアニーの負傷が長引きそう(今シーズン中の復帰は厳しいとの報道)ということで、一つの新しいオプションとなりそうだ。

ジャカ左SB起用のメリットは、やはり攻撃面。特にビルドアップでの組み立て、逆サイドへの大きな展開力はチームにとって欠かせない。特にダビド・ルイスを怪我で欠く中でジャカが後ろから組み立てられるのは大きい。

ただ、デメリットもあるように感じる。それは守備面。単純に相手の右サイドにスピードのある選手を持ってこられるとジャカ個人では抑えきれないという心配がある。また、ビルドアップ時にCHの1枚(今節ではセバージョス)をサイドへ移動させることもリスクは高い。可変の最中にボールロストしてしまうと枚数が足りずに一気に大ピンチになるからだ。

そういった意味では、プレス強度の低かった今節のブレイズ相手には機能したものの、同等かもしくは格上のチーム相手だとジャカの左SB起用はデメリットの方が大きくなるのではないかという懸念がある。

とはいえ、ティアニーの離脱により枚数が足りない左SBに新しいオプションが増えたこと、また、その起用で快勝を収めたことはポジティブに捉えたい。

快勝を収めたとはいえ、プレミアリーグからのCL出場は引き続き厳しいことに変わりない。今節の勢いを活かし、中3日で行われるミッドウィークのELでも勝利に期待したい。


見出し画像 引用元:アーセナル公式HP
ハイライト動画:アーセナル公式 You Tube
フォーメーション画像作成:TACTICALista