見出し画像

138億年の時間の中で ☆第34話☆「光の差す方へ⑤」       

「散歩がしたい」とボソリとつぶやく長男。「どんなことして暮らしたい?」と友人に問われたときでした。

 生業を表す職業ではないし、スポーツとか芸術活動とかでもない。もしかしたら、その時だけの刹那的な答えだったかもしれない。

 身近な公園で遊ぶことが難しかった彼は、小さい頃からとにかくさんぽをしていました。季節がいいと山にハイキング。どんぐりや落ち葉をひろって楽しんだ・・・なんてステキな思い出もエピソードはあんまりないけど、とりあえず歩く。
 学校でも近くの公園へおでかけしたみたい。階段を上るときはダッシュで先生を追い越して、「まってよ~」「速いよ~」なんて言われていい気になっていたにちがいない。

    お金と体力を消費して習い事をしたこともあったけど・・・・。
    スイミングは低学年の時にすぐにやめちゃった。だって怖がってたし。
    体操教室も低学年の時。2年頑張ったけど、送迎が大変だったな。
 創作活動?手が上手く動かせないからあんまり好きじゃないみたい。
 ピアノ教室?論外(笑)。

 でもね、歩くのは好き。何を見て聞いて、何を感じて、歩みを進めているのかは分からないけど、私より足が速いから、どんどん距離が出来ていく。

「歩くのは爽快。好きな人と一緒ならさらに。坂道を走った。誰かが何かしゃべってた気がするけど、僕は歩く。」そんなことを言ってるみたい。小さな、小さな、体験。日常に埋もれて覚えていないくらいささやかな。見えなくなるくらい小さな輝きの粒が集まって、彼の道を照らす光となった。こっちに行けばいいよ、と示してくれる灯になった。ああ、そうか。希望って言われているものは、こんなふうにできるんだ。

  気が付けば、高等部卒業まで3か月もなくなりました。感傷に浸る余裕もなく忙しい日々を過ごす私に代わって少しはしおらしくしてもいいんじゃない?なんて思うけど、全然そんな様子もない。 卒業が近いことはわかっているはずなんだけどね。
  進路先事業所の顔合わせや、お餅つきのイベントに参加したいと意欲的。もう、卒業後の生活へ第一歩を踏み出したくてうずうずしているのかもしれません。

 

 

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?