ショートコント「竜に滅ぼされた100年前の王国を歩くひとりの少女」

・アイドルを推している人と話した。推しという言葉、小っ恥ずかしいわりに、しばらく代わりの言葉が現れないような安定感がある。
 その人はかなり気合いの入った人で、推し(YouTubeを見ている)ではなく、『推し』(CDを数十万円分買っている)の人だった。そういう人はインターネットにいて現実にはいないと思っていた。いないと思ったらいて草。
 握手券が貰えるらしい。推しと会っている時間が全てで、他はフェイクであるというような意味のことを言っていた。名札を付けていると握手のときに名前を呼んでくれるので、格別らしい。
 握手会にはオプションが付けられるらしく、人によっては今だけ彼氏になってくださいだとか、孫になってくださいみたいなことを要求するらしい。そしてそれが通るらしい。話した人はそのような要求をした事がないらしい。
 でも、彼氏になったり孫になったりが通るなら、なんでもありな気もする。ショートコントだから。
「竜に滅ぼされた100年前の王国を歩くひとりの少女」をするので、今だけ竜になってください。も通るのか?

・一目瞭然のことだけれど、前髪を伸ばして目線を隠していた時期があるので、僕は声が小さい。普通に話していると、親は耳が遠くなってきているので、3回くらい同じ冗談を言わないといけないこともある。最近は1度で届かなかった冗談は空に放流することにしている。そうするほうが冗談を新鮮なまま死なせることができる。
 そんな僕の声をすごく聞き取ってくれる人がいる。電車の中だと、僕の声は拍車をかけて小さくなるのだけれど、聞いてくれる。ガタゴトザワザワしているのに、なぜか僕の声が聞こえている。
 だから嬉しくなって、色々話しかけている。相手から話してくることはほとんどない。
 これまでの人生、僕は話しかけられる側がほとんどで、自分から話すようなことはなかったのだけれど、今はその逆をしている。
 知らなかったけれど、一方的に話しかけていると、相手はつまんなく思っているんじゃないかと不安になってくる。
 でも、聞いてくれるからアホみたいに話しかけている。

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