ステラおばさんじゃねーよっ‼️92.白色アマリリス〜 対 プレイボーイ
👆ステラおばさんじゃねーよっ‼️91.初恋の萌(きざし)② 〜人魚のハンドは、こちら。
🍪 超・救急車
とある土曜、知波はバッチリメイクし、オシャレマックスで多塚駅から電車に飛び乗った。
予報だと、3年ぶりの木枯らし1号が吹き荒れるとのニュースがネットを賑わせている。
知波の装いは、黒のコートに灰色のミンクファーを首にあしらい、白のニットワンピースを際立たせるのにニーハイブーツを黒でキメた。
若作りしすぎ?
今日はやけに足が冷えるな…。
車窓に映る自分のいでたちに不安がよぎったが、洋服を変える物理的時間も心理的余裕もない。
いつもの開き直りで、「ヨシッ」と心で気合いを入れ、待合せの駅で下車した。
⭐︎
大人の街・邑落町駅には改札口はひとつしかない。
階段を踏み外さないように下り改札口へ向かうと、駅舎を支える柱のひとつに男が寄り掛かっている。
その男は海外ブランドのサングラスを掛け、白のロングコートが風に煽られるたびにブラックジーンズをのぞかせた。
知波の姿に気づくと年季の入ったダメージウェスタンブーツを履くその男が、知波に向かって歩いてくる。
サングラスを外しながら、
「Welcome to my town!」
と言い、知波を熱烈にハグした。
「え、若森さん?!」
人混みの中、不意に抱きしめられた知波の鼓動は急激に速くなる。
若森の挨拶(ハグ)は、世界を旅していたバッグパッカー仕込みのものだ。
彼は臆面なく、ためらいも違和感も感じていない様子。
ここ、日本だよね?
ちょいと恥ずかしい…。
と知波は内心思った。
けれど抱きすくめられた若森の服越しに感じる胸板の厚みには、まんざらでもなかった。
数秒のハグが永遠に感じられた頃、若森は知波の身体をゆっくりはがし、
「さ、ランチへ行きましょう」
と知波の右側から手をつないだ。
エスコートぶりがあまりに自然で手馴れているものだから若森はプレイボーイなのかもしれないと女の勘とやらが働く。
イヤだわ…これって、昔彼が付き合っていた見知らぬ女性(ひと)への嫉妬?
それか、今とこれからの彼を独占したいって気持の表れ?
単に永年してこなかった、恋そのものへの不安?
知波は、《実在する人間との恋》が久々のあまり、あらゆる感情がないまぜになりひどく戸惑っている。
それにこの歳で、不用意に傷つきたくなかった。
今までド忘れしていた心のどこかが激しく揺れ動いては、冷静ではいられない自分、落ち着き払おうとする自分がせわしなく交互に姿をあらわす。
あんなに恋愛本を読破し妄想しようが、子供たちから恋愛指南されて反省しようが結局、過去の経験が邪魔して、実践では何の役にも立たないのが証明されてしまった。
なりゆきにまかせるしかない…。
知波はようやく現実の恋と向き合う腹を括(くく)った。
⭐︎
店に着くまでふたりは無言だった。
その代わり互いの手から伝わるぬくもりを確め合っていた。
それはあたたかく、安心できるものだった。
知波の手は華奢でサラサラしていて、武骨でゴツゴツした若森の手は知波のそれをギュッと包み込む。
木枯らしが吹くたび、知波は若森の身体に引き寄せられた。
みずからが風の盾になるよう、背後にいる知波の手を前方からやさしく、時に烈しく若森は引っ張る。
この守られている感覚…ひさびさだわ。
逞しい大きな背中に、すぐにでも抱きつきそうになる。
身体の芯が熱くなり、淫らに火照っていた。
こうやって男性に手を引かれ歩くのはいつぶりだろう。
この守られているという感覚は、きっと歳を重ねてもわたしを熱くするシチュエーションなんだわ…。
知波は自身の恋愛観をじんわり思い出していた。
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