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ステラおばさんじゃねーよっ‼️84.海洋散骨旅〜それぞれの旅立ち② お祖父(じい)ちゃん

👆ステラおばさんじゃねーよっ‼️84.海洋散骨旅〜それぞれの旅立ち① 許されざる行為 は、こちら。




🍪 超・救急車


夏男は苦渋の色を浮かべた顔つきで、うつむいたまま動かない。

いや、動けなかった。

カイワレは不遇な生い立ちでも前向きに生きてきた。

そしてこれからもそう生きていくんだと、たった今私に宣誓したのだ。

私は喜久榮と悠一朗の遺恨を晴らすために、人生を捧げた気になっていた。

けれど被害者意識ばかりが先行し、卑屈に生きてしまっていたのかもしれない。

カイワレの生き方をまぶしく感じるごとに自分がひどくみすぼらしく情けなく思えて、身動きができずにいる。

ひと呼吸置き、カイワレは夏男へまっすぐに思いの丈を告げた。

「夏男さん!悠一朗、そして喜久榮をずっと想い慈しみ、毎日供養していただき心より御礼を申し上げます。今回来島できなかった妹も次回は必ず連れて来たいと思ってます!!今後とも、よろしくお願いいたします」

挨拶しお辞儀すると、夏男は憑き物が取れたかのような満面の笑顔で、

「太士朗さんにはかなわないな…。また是非皆で遊びにきてくだされ。わたしもここで、もう少しふんばって生きてみますので…お元気で」

そう言うと夏男の眼にはみるみるうちに涙があふれた。

「あら、やだ…」

とハンカチを差し出す知波の目からも涙がこぼれ頬をつたった。

するとカイワレは夏男を包み込み、

「お祖父(じい)ちゃん、ありがとう!またね」

と耳許でささやいた。

夏男は思いがけぬ言葉に泣き崩れ、カイワレの体温に、うん、うんと頷きこたえた。

カイワレは小柄な夏男の身体と想いを一身に受け止め、むせび泣いた。

⭐︎

間もなくして午前の定期船が港に到着した。

乗船するのはカイワレと知波だけだった。

穏やかな海と風と燦燦と照りつける太陽が、3人への餞(はなむけ)に感じられた。

海鳥たちは餌を欲しがり船上を忙(せわ)しなく飛び交う。

「またのぉー!」

船が出航すると、夏男はふたりが見えなくなるまで手を振った。

乗船し甲板に立つふたりも、夏男の姿が見えなくなるまで手を振りつづけた。

「手紙、書きますねー!」

知波は手を振りながら夏男に向かって叫んだ。

「じいちゃん、またねー!!」

大声で叫ぶカイワレはギラつく太陽のようで、エネルギッシュに輝いていた。

船は一直線に、雨美島を目指した。

ふたりは甲板で船のスクリューから出る航走波を眺めながら、すでに夏男に会いたくなっていた。

もう少し滞在を延ばせば良かったねと笑い合い、ふたりはペットボトルの天然水に口を付け、喉を鳴らし飲んだ。

それから歩が待つ自宅へ、カイワレは想いを馳せた。

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