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ステラおばさんじゃねーよっ‼️84.海洋散骨旅〜月夜の人魚-3

👆ステラおばさんじゃねーよっ‼️84.海洋散骨旅〜月夜の人魚-2 は、こちら。



🍪 超・救急車



「あの、もしも悠一朗が夏男さんのほんとうの子だとしたら、僕はあなたの孫にあたります。今となれば、悠一朗の父親が誰だったのかもはっきりとはわかりませんが…」

カイワレは、率直に感想を述べた。

夏男は苦虫を噛み潰したような顔でカイワレを睨み言い放った。

「太士朗さん、申し訳ありません。私はずっと喜久榮と悠一朗を手放したあの日に囚われ、あの日の残像とともにこの50年間生きてまいりました。私がこの島への移住を決めた最大の理由は、《人魚》の異名を持ち、島の皆に愛された喜久榮の死を悼み、弔うためでした。実はこの白鳥居、私の発案で建て直されたもので、彼女への慰霊碑でもあるのです」

夏男はうつむき、さらに頭を垂れた。

「今ではこの島の観光スポットのひとつとなり、白鳥居の存在はますます異彩を放っている。けれど私にとってあの鳥居は、あの日から掛けられた宿業の枷(かせ)でもあるのです!…ひかり様からあなたのお父様である、大根 悠一朗と言う名をうかがい、私は耳を疑いながらも数奇な巡り合せを感じました。しかし悠一朗も若くして亡くなってしまったのを聞くと、なぜか安堵し枷の一部が外れた気がした。彼を探し出せなかった自分への言い訳から解放された気持になった。…どこまでいっても私は最低…」

夏男は情けなさと悔しさで言葉が詰まり、頭を上げられずにいる。

カイワレは首を横に振り、夏男の告白に感謝した。

「この島で出逢った夏男さんと喜久榮さんとの恋があって、父が生まれたと僕は信じたい。夏男さんのふたりへの深い愛情は、充分僕には伝わりました。それに父が内地の親戚に引き取られた事は、わたしも母も知らなかった事実です。思い出すのもつらい話をしていただき、ありがとうございます!」

それから夏男の背中を軽くたたき、

「帰りましょう、夏男さん」

と耳元で囁いた。

先ほどまでにぎやかに空を往来きしていた海鳥たちは、いつの間にか何処かへいなくなっている。

空はいっそう暗雲垂れ込め今にも落水してきそうな勢いだ。

石段を一歩ずつゆっくりと上る夏男の背中が、一段と小さく見えた。

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