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ステラおばさんじゃねーよっ‼️84.海洋散骨旅〜お喜久しゃん① 百貨店の老婆

👆ステラおばさんじゃねーよっ‼️84.海洋散骨旅〜おむすび は、こちら。



🍪 超・救急車




知波が頼んでおいてくれたおむすびをかじると、しっとりした海苔の隙間からはみ出す米粒の甘みと塩気が口のなかで弾けた。

おむすびの中具は、島味噌で作られた豚みそと呼ばれる郷土料理のようだ。

夏男の告白を聞いて、カイワレには腑に落ちない事があった。

それはあの騒動以来、この島人らはなぜ喜久榮の自殺動機や悠一朗の行方を夏男にはかたくなに教えなかったのか、という事だ。

こればかりは、島に長らく住む人に訊いてみるしかほかにない。

おむすびと一緒に出されたあつあつの潮汁(うしおじる)が、冷えた身体をあたためた。

けれど、それを訊いても答えてくれるのか?

自問自答を繰り返しながら、カイワレは2つめのおむすびに手をつけた。

知波は黙ってカーテンの内に隠れ、例の本に視線を落としていた。

⭐︎

暴風雨はぱたりとやみ、台風は内地に向かった。

やがて太陽がのこのこと顔を出し、大気の水分に陽光が反射するとでっかい虹の橋が架かった。

ふたりは日傘をさし、虹の橋をくぐり抜け島内を散策しに出かけた。

その間、先刻夏男から聞いたばかりの話を知波へ手短かに伝えた。

夏男と喜久榮のなれ初めやあの日起きてしまった事件の事を聞けば聞く程、知波は猫の眼のように表情をくるくる変えた。心も忙(せわ)しなくざわついたが、

「世間って、とても狭いのね」

とだけ呟いた。

⭐︎

島内の有名スポットをいくつかめぐり、ガイドマップにも掲載されている島唯一の《百貨店》と呼ばれる雑貨屋に立ち寄った。

電灯看板には、【人魚の里】と青地に白文字で書かれ、人魚の絵は文字横にあざやかに描かれていた。

「ごめんくださ〜い」

軒先入ってすぐのガラス張り引戸を開けると、そこには年の頃80をゆうに超えた老婆が店番をしていた。

「いらっしゃっちゃぁ。見かけん顔っちゃ、何処から来たっちゃぁの?」

矍鑠(かくしゃく)とした受け応えで、老婆はふたりを店へ招き入れた。

店棚には、菓子類やインスタント麺、酒類、雑誌類等が無造作に置かれている。

「はじめまして。わたし、東京から来た知波と申します。そして…」

「息子の太士朗と言います」

と頭を下げてふたりは自己紹介をした。

「はるびゃる遠けぇ来んちゃぁた。しゃしゃ、どうぞゆるうり見てくださりいゃぁ」

老婆は独り言のように言い、ずっとつけっぱなしのラジオに耳を戻した。

「あの……」

とカイワレが言葉をつなげる。

「唐突なのですが…わたし、大根 喜久榮の孫です。喜久榮をご存知でしょうか?」

老婆は一瞬、聞き間違えたようなきょとんとした顔でカイワレを見つめた。

がしかし言葉を反芻し、何かが彼女の脳内でイメージがつながった時、老婆はうつむき呟いた。

「お喜久しゃん…!すまねぇごたあしっちゃぁ。かんにんのぉ、かんにんしくだしゃぁれ」

身体をこごみ、仏様に手を合わせるように何度もカイワレに向かい拝み続けた。

⭐︎

「落ち着かれました?」

カイワレは、老婆に言った。

気まずそうに老婆は、

「もうすおくれっちゃぁ。わしゃあ、季(とき)と言いましゃぁ。お喜久しゃんちゃぁ、おさななじみでっしゃ」

島特有の昔からある方言と入れ歯のぐらつきのせいもありひどく聞き取りづらかったが、季の話をさえぎりたくなかった。

ふたりは黙って、季の話に耳を傾けた。

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