ステラおばさんじゃねーよっ‼️85.情念〜人魚の慟哭(どうこく)② カツカレーライス
👆ステラおばさんじゃねーよっ‼️ 85.情念〜人魚の慟哭(どうこく)① 意識の海 は、こちら。
🍪 超・救急車
気づけばふたりは気を失っていた。
目をあけ正気に戻ると、鳴りやまなかった動力の轟音は聞こえない。
代わりに錨とタラップが下ろされ鎖がきしみ、ギギギギギィという反復音が波止場に響いていた。
どうやら船が雨美島に着いたようだ。
得体の知れぬ生命体の意識の海からどうにか現実世界に浮揚できたふたりの心は、いっきに身体とコネクトし動けるようになった。
重い荷物らとともにタラップの上をよろよろと歩き、ふたりは雨美港へと降り立った。
なんとか助かった…。
父さん、ばあちゃん、俺らを守ってくれてありがとう!
とカイワレは感謝した。
雨美港は一定期間だけ人が集まる港ではなく、つねに船舶も人も行き交う大規模な海港だった。
海鳥の群れもまばらにいて、陸と空からこちらの様子をうかがっている。
そこから徒歩圏内に、雨美空港はあった。
出航してから約3時間は経過していたし、狂気の奇声に取り憑かれ、体力も気力も奪われていたせいか腹の虫が鳴りやまない。
「なんかお腹、すごく空いたね」
今にも倒れそうでフラフラなカイワレは、呂律が廻らない。
「そうね。食べたいものある?」
同じく言葉を絞り出す知波にカイワレは首を横に振り、
「特には」
と力なく呟き、知波の提案を待つような仕草をした。
知波は水筒に入った麦茶を口に含み、深呼吸してからゆっくり話を続けた。
「わたしね、空港の帰りしなにかならず食べたくなるものがあるの。それは、カツカレーよ」
海鮮料理の和食続きだったので、それ以外の味にカイワレも飢えていた。
ペットボトルに残った水に口を付けて、カイワレも知波同様深呼吸し、ゆっくりと話し始めた。
「いいね〜!俺、コロッケのせにしてもらおう」
いくつかのスーツケースのハンドルを操り、空港内にあるカレー専門店へふらふらと歩き出した。
知波は立っているのもしんどくて本当はどこかに座りたかったが、息子の後に喰らいつくように歩いた。
いつしか外は、烈しい雨が降り始めていた。
蒸し暑さが、空港へ向かう通路に充満していた。
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