ステラおばさんじゃねーよっ‼️68.任意同行〜お祝いムード
👆ステラおばさんじゃねーよっ‼️68.任意同行〜たい兄 は、こちら。
🍪 超・救急車
ふたりは知波が用意した手料理をすべて平らげ、カイワレの持ってきた合格祝いのアップルパイに手をつけ始めた。
「ママ、遅いね…」
「うん。でも知波さんが帰るまで一緒にいるから、大丈夫だよ」
「ありがとう、たい…兄」
歩は恥ずかしそうに、はじめて【たい兄】と、呼んだ。
カイワレも急に照れ臭くなって、
「お、おう!」
と変な声で、リアクションしてしまった。
歩は、数時間ぶりに声を出して笑った。
⭐︎
受験勉強の苦労話から合格発表を待つ日々の話などを聞き出すと、歩は熱心にその時々の心境を話してくれた。
それを聞くカイワレは、歩をねぎらい、合格のお祝いムードを高めた。
そしてソファの陰に隠し置いたものを高々と掲げ、
「ジャーン!合格おめでとう!!」
と歩に黄色い熊のぬいぐるみを手渡した。
「うっわあ、デカっ!でも、かわいい〜!!たい兄、ありがとう!!」
歩はそのぬいぐるみに顔をすり寄せ、笑顔になった。
歩が少し元気になったのを見て、カイワレはほっとし、ほほえんだ。
⭐︎
︎時間はゆっくりと過ぎたが、夕方になっていた。
カイワレと歩は、知波を待ち焦がれた。けれど、一向に帰ってくる気配がない。
時計の針の音だけが、静かな部屋に響いている。
しばらくすると、歩のスマホが鳴った。
歩はすぐに、スピーカーフォンに切り替える。
「八雄警察署の本郷と言います。お母さんの知波さんですが、今晩署に宿泊していただく事になりました」
おそるおそる電話越しの警察官に、歩は訊ねた。
「あのぉ…いつ、帰れますか?」
警察官は、よどみなく答えた。
「いつとははっきり申し上げられません。通常ならば明日、明後日にはお帰りいただけると思います。署内には居ますので、ご心配なさらずに」
電話が切れた後、ふたりはしばし沈黙した。
カイワレが、
「今日知波さんが帰らないならば、明日、仕事道具を持って早めに来るね」
と言うと歩は、
「なんか、心細いな…」
とさびしげに言う。
カイワレは歩を妹だと知っているから良いが、歩はカイワレが兄だとは知らない。
下手に近寄り過ぎても、変に誤解を与えかねない。
カイワレは女性との距離感がわからないながらも、その点については警戒をゆるめなかった。
ふたりの微妙な心のズレは、埋められる事のない深き溝のようだった。
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