背中にアレ
深夜になると思い出すことがあります。
私の父親は33歳で私の親になりました。私が7歳くらいの頃、最も忙しい時期を迎えていました。残業、残業、飲み会、と、昭和のサラリーマンを地で行っているように思いました。
ある夜、玄関が騒がしいので、何事!と私も起きました。私ごときが玄関に出ても賊が本気ならばひとかたもありません。要するに物見遊山だったわけです。
そこには酔った父が
「やっちゃった、やっちゃった」と、なんだか慌てていました。
背中を見ると、汚くて臭い、アレがこびりついていました。
「どうしたの!?」と母は呆れた声で聞きました。
父は随分と酔って、白タク(もぐりのタクシー)に分乗して家の近くまできたそうです。しかし、催したことで、我慢しきれなくなり、家から800メートルくらい離れた公園のトイレを目指して、タクシーを降りました。
目指すトイレは、どうやら割と遠くて、酔ってることもあって気が大きくなったのか、我慢しきれずに、茂みの中でちょっと失敬、とあいなったらしいのです。
一通り事を終えて、しゃがんだ状態から立ちあがろうとした刹那、茂みの枝が、父のスーツの一端に引っかかり、それはある意味で合気道のごとく、父のバランスを大いに崩したそうなのです。
「遺憾!」
父は中空を支えるものを探して掴みましたが、踏ん張りが効かずにそのまま後ろに倒れ込みそうになりながら、それでも粘って土俵際、数歩前に歩いたそうなんです。
しかし、虚しくもそのまま背中から尻餅をつくように倒れ込んだ父は、なまじ前進したこともあって、モロに背中でアレをマッシュしてしまいました。
そして、酔いも弾けとび、ほうほうの体で家に帰りつき、玄関先で大騒ぎするという事態になったわけです。
私は、なぜか背中の人糞よりも、「白タク」という言葉が頭に残っていました。
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