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苗場山を裏から見る

苗場というと、1980年代にスキーの聖地として君臨した場所である。ユーミンがコンサートをやるところとしても有名で、近年はロック・フェスの聖地ともなりつつある。

私はどれも縁がないが、基本的には湯沢側から苗場に向かうルートで行われているものだろう。そちらは、背後にある名峰・苗場山の表側だといっていい。

そんな苗場山にも裏がある。裏磐梯、裏妙義、裏千家(は違うか)、裏大山、裏六甲。裏には、どこか、玄人好みの印象が付きまとう。まさに、裏苗場は、枯れた大人が楽しむ場所なのだと思う。

前回、飯山市や野沢温泉村の思い出を語った。ひとりで来ることもあったが、妻子と旅行することもあった。旅行したうちの一つが、日本の秘境の一つとしても数え上げられる「秋山郷」である。

唯一残っていた秋山郷の写真

秋山郷は、長野県最北端の村「栄村」と、新潟県の豪雪地帯「津南町」にまたがる郷村である。栄村は、東日本大震災の余震において有名になってしまったが、日本古来の風情を残した村落の一つであると私は思う。

飯山から、そんな栄村を通って、津南に出る。そして、南下して、ふたたび長野県の中に入ると、秋山郷はある。ちょっと待て。長野県から秋山郷は行けないのか。そう、一度新潟県に出ないと、車での通行が難しいのが秋山郷である(中野市から道はあるようだ)。

人によっては、遠山郷と間違える人もいる。遠山郷は、南信地域の秘境であり、これも青崩峠が邪魔して、高遠側から車でアプローチするのは難しい。一度飯田を通過して、天龍村経由で行く方がいい。似たような風情なので、間違えやすい。遠山郷にも思い出はあるが、今回は秋山郷について話したい。

秋山郷にも温泉がある。野沢温泉にあれだけの熱い源泉が沸き、栄村ではおおきな地震があるほど地殻の運動が激しいのだから、当然秋山郷にも良い温泉がわく。

栄村では「北野天満温泉」、秋山郷では「小赤沢温泉」が、なかなかいい。温泉街が形成されているとは言い難いが、近隣にもぽつぽつと温泉はある。気になるのは、新潟側にある「結東温泉」であり、廃校がホテルにリニューアルされているようだ。昔、こんなのあったかなあ。

いずれにしても、野沢温泉、栄村、秋山郷は、奥志賀の北辺の山すそに沿ってある地域なので、温泉にも共通性がある。

上の子は、例外的に魚が好きで、5歳くらいだったのに、焼いたイワナを二匹食べていた(この方のブログの記事がとても印象深かったので紹介いたします)。川のせせらぎが、心地いい。登山客と観光客でにぎわっているが、基本、わざわざ人のいないところにくるのだから、皆穏やかである。

例の飯山愛に満ちた同僚に、

「飯山線の終点の駅って、森宮野原っていうんだね。ライトノベルのヒロインの名前みたいだね」

といったら、

「パッパルさん、あれ、森・宮野原なんですよ。切るところ違います。ドン・キホーテを、ドンキ・ホーテだと思っているようなもんですよ」

とたしなめられた。

確かに、ドン・キホーテの音楽は「ドンドンドンドンキ、ドンキ、ホーテ―」というから間違えそうだ。そしてダメ押しに

「飯山線の終点は森宮野原というより越後川口なんですよ」

とも言い捨てて去っていった。

それを妻に言ったら、

「まあ飯山は基本新潟の属国だから」

と、これまた郷土ナショナリズムを全開にしていた。

どーでもいいですよー

秋山郷を車で進んで行くと、だんだん狭くなるので、途中でとどまるのが吉だが、やっぱり秋がいい。ただ、紅葉の季節は、結構混むので、私は新緑の季節もいいのではないかと思っています。

奥志賀の山にはブナ林が残っていて、これまた件の飯山愛にあふれた同僚と小菅神社のブナ林を歩いていたときに、『阿弥陀堂だより』という映画のロケ地に使われたのだ、と自慢をされた。

ただ、ブナ林は、確かに歩いていると荘厳な気持ちになる。そんなブナ林は、飯山市のみならず栄村、秋山郷にも生えている。ブナ林で森林浴という贅沢は、大人でなければできない(というかつまらない)chill outだと思う。野々海池は、栄村の北辺にある池だが、ここもchill outにはもってこいである。

疑似「出家」としてのChill out

若いころは刺激を求めた。オジサンみたいなことを言うが、実際そうだった。いろいろなことを経験しようとした。

しかし、オジサンになると、新しい刺激は古い理解で解釈する癖がつくので、新しさとして受容しにくくなり、刺激に対する悪い耐性がついていく。

また、人の欲得にまみれ、しがらみは増え、そして、陰の気が増えていく。時にそれが何とも愛おしい気持ちを引き起こすこともあるが、一方で、それらを振り切って、別世界へと移動したいと思うこともあるだろう。でも、現実にそれはできない。

昔の武士が「出家」するのはなぜだろうと思っていたが、要するに、こうした欲にまみれた現世に対して、一歩引くことで、Chill outすることの快楽があったのではないかと思う。隠遁の快楽とでもいおうか。

奪い合い、競い合うのではなく、欲を遮断することの快楽とでもいおうか。これもまた一つの快楽である。いわばストア派的な幸福とでもいおうか。こんまりさんの断捨離も、まあ、そういうことなのではないかと思わせる。

野沢温泉にも、外国のスキーヤーたちが、日本のパウダースノーを求めて、割と来ているらしい。その中で、日本の里山に居住してしまう、C.W.ニコルさんのような人も、ちらほらいるらしい。例の「LIBUSHI」を創立した人も、外国の方だったようだ。ニコルさんは、黒姫高原だったが、奥信濃には、そうした魅力がないわけではないのだと思う。

私が旅行するときの目的は、見聞という刺激もないわけではないが、疑似「出家」の気分としてのChill outにあるんだと思う。

そんなChill outな空間を、もっと紹介していきたいと思った。


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