敦賀と津と奈良を結ぶとだいたい二等辺三角形

日本の名作エンタメをあんまり読んでいないので、伊坂作品を初めて読み通したあとは、もっとエンタメを読まなきゃいけないと思って、家にある読んでない東野圭吾作品を探した。『容疑者Xの献身』があるはず、と思ってあさったけれども、あるはずのところにはなにもなく、仕方ないので途中で発掘した『パラレルワールドラブストーリー』を手に取る。

『パラレルワールドラブストーリー』という名前からしきりに松山ケンイチさんの顔が思い出されるので、あれ、『パラレルワールドラブストーリー』の主演って松山ケンイチさんだっけと錯覚していて、調べても出てこないし、映画化は2019年で玉森裕太さん主演だし、なんかパラレルワールドにでも迷い込んじゃったかな、俺、と思ったら、『ウルトラミラクルラブストーリー』という映画の主演が松山ケンイチさんでした。似すぎじゃね?タイトル。

東野さんも工学部出身の小説家で、やっぱり工学部と小説執筆の相性は結構よいということも感じる。メカニクスありきで小説をつくっていくところが、読んでて余計な自意識とかを感じさせずに、読ませるものにつながっていくのかもしれない。それはそれで賛否あろうが。

それでも東野圭吾さんと言えば、もはや日本エンタメ小説界のヒットメーカーで、私も『さまよう刃』という小説は読んだことがある。ドイツ出張の帰りの飛行機の中で、眠れもせず、トイレに行くにも座席は中央も中央だったので、暇を持て余して、「飯山」が持っていた『さまよう刃』を借りて読んでしまったのだ。

復讐劇は嫌いじゃないし、もっとやれ!みたいな感じになるんだけれども、後味の悪さが残ったエンタメだった。ふつうに面白かった。で、何度かチャレンジして挫折したような思い出のある『パラレルワールドラブストーリー』。。。

話は面白かったです。

2020年代になっちゃうと流石にこの着想はなんとなく古めかしく感じちゃうところもあるんだけど、でも、上手ですよね、やっぱり。

ただ「復讐する男」の方が、感情移入できたな!「ラブストーリー」がいまいち得意じゃないってのもあるけど。

「ラブストーリー」って言っても、もちろんこれは敢えて作者はそう名付けていると思うんだけど、ラブの成就感はなくて、崇史も智彦も、人として魅力的じゃなくね?って思っちゃった。ついでにヒロイン?の麻由子も、なんかパサついた人なんだよな。そのパサつきが、感情移入できなかったポイントかな。まあ、感情移入させることが目的じゃないだろうから、それはそれで作者の本望なんだと思うけど。

それにしても、こんなパサついた人たちが、すれ違った電車でよく見るだけの人に、運命感を感じるのかしら、というのが疑問というか、面白いなあと思った。パサついた男女の恋愛話って思えば、恋愛話としても、ある意味面白いというか、特に崇史はダメな人よね。

なんかでも、研究関係のトーク内容と、日常的なトーク内容の落差が結構デカくて、お前ら世界を変えちゃうような案件を研究してるんなら、そんな俗っぽいことに気を取られちゃダメだろ!と思ったりしながら読んでた。

あとは、もう国際的なプロジェクトである研究内容が、個人的な痴情のもつれによって、勝手に使われること、上司はもっと叱れよ!と突っ込んだ。個人的なことに使っちゃダメだよそんなこと。

崇史が腰の座らない男で、智彦が煮え切らない男だから、フワフワした三角関係になって、お前らほんとに友達だったの?と疑っちゃうね。そんなずっと友達だった男で、かつ非モテだった友人に初めてできた美人の彼女を取ろうとする崇史の「邪悪」さは、もっとこう智彦の知的優位性を際立たせないと、ホントにただの邪悪だよね。ラブというか単に友達とか言いながら何もかも奪いたいと思う「なんとかパス」だよね。だから崇史は本質的に超邪悪な人で、最後の涙も、多分邪悪な涙なんだと思うと、そこがホラーっぽくて良かったな。俺が先にこの彼女見そめたんだぞ、お前取るな、みたいな感じで、ジャイアンだよ崇史は。

そして、その崇史の「親友」の智彦がまるで『行人』の一郎だ。彼女と一緒にいても会話がもたないかもしれないから「親友」のお前にいてほしいんだ?何言ってんだよ、と思った。そんなのフラグだろう。そして、三人おんなじ職場で働いてるなら、男同士の昔話よりも、する話題には事欠かないのではないかと思うのだ。上司の愚痴とかさ。

麻由子は麻由子で、『白夜行』のヒロインもそうだったけど、何か捉えどころのない感じが、記号っぽくていいですね。性別感が薄めなところが、そもそも麻由子はなんで智彦と付き合おうと思ったのかわからない。智彦の才能ってことなら、ふわつく理由はないし、智彦と話が合うってことなら智彦が話に詰まることを気にするってこともないはずなのに、2人がする話を聞いてるのが好きって、思わせぶりというか主体性が希薄というか。

そこが面白いところですね。

設定の不備とか、人物造形のおかしさを指摘しているのではなく、こうした世界が作られて、そこから何を面白さとして享受するかってことなんですよ、私の楽しさは。

あと、新版の文庫本の表紙、あれ?麻由子ってショートカットじゃなかったっけ?

まあ、そうね、でも三角関係をなす3人、敦賀、津野=津、三輪=奈良の3都市は、ちょうど敦賀を頂点とした二等辺三角形を成すんですよ。だいたい、ですけどね。それがたぶん、一番ミステリーなのかしらん。三輪をホントの「三輪」に取ると、ちょっとだけ敦賀と三輪の辺が長いっていう。

友情の話でしたね。ラブというよりは。



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