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予測を外す原因の究明:母集団形成、外れ値と異常値

これまでに、チェーンストア企業向けの売上予測の重要性について、そしてその具体的な方法について解説してきました。

今回のコラムでは、データ分析の初期段階で重要な役割を果たす「母集団形成」に焦点を当てます。
特に、母集団形成における「外れ値」と「異常値」の扱い方について詳しく考察します。
これらの要素は、売上予測の精度を大きく左右する可能性があります。
しかし、適切に管理すれば、新規出店時の売上予測をより正確に、そして信頼性を持って行うことができます。


1.母集団形成とは

売上予測を行うにあたり、データの前処理として「母集団形成」が重要な役割を果たします。では、まず「母集団」とは何でしょうか。
母集団とは、売上予測の対象とするすべての個体または現象の集まりのことを指します。
例えば、店舗数や来客数などが母集団となり得ます。

母集団形成とは、この全体から必要なデータを適切に抽出し、分析のためのデータセットを作成するプロセスを指します。
このプロセスにおいては、どのデータを含め、どのデータを除外するかが非常に重要です。なぜなら、分析の結果は抽出したデータに大きく依存するからです。

特に、異常値や外れ値といった、全体の傾向から大きく逸脱するデータは、注意深く取り扱う必要があります。
これらのデータは、それが適切に管理されない場合、分析結果を大きく歪め、誤った意思決定を導く可能性があります。
しかし一方で、これらのデータは特殊な事象や新たなトレンドを示している場合もあり、その情報が非常に有用である可能性もあります。

つまり、母集団形成とは、全体像を適切に捉えつつ、必要な情報を正確に取り出すための重要なステップと言えるのです。

2.外れ値と異常値の理解

外れ値と異常値は、データ分析において非常に重要な要素であり、母集団形成の中心的な課題となります。
これらの理解が不十分であると、分析結果に大きな誤差が生じる可能性があります。

<外れ値とは>

外れ値とは、他の値から大きく離れている、つまり一般的な傾向やパターンから大きく逸脱したデータのことを指します。

例えば、ある店舗の売上が通常は20万円~40万円であるのに対し、ある日だけ突然80万円となった場合、その70万円という値は外れ値と考えられます。(図1参照)

図1 外れ値の考え方


外れ値は様々な要素により発生する可能性があります。
例えば、その地域でその日にイベントが行われていたなど、何らかの理由で特定の日だけ売上が突出する可能性があります。

外れ値は、その数値が正常なものなのか、それとも何か問題が発生したために出た数値なのかを判別しづらいという問題も抱えています。

その数値が外れ値なのかを判断する手法として、散布図などを作成し視覚化する手法が有効です。
これにより、データの特性を把握することができ、それが外れ値なのかが見えてきます。


<異常値とは>

異常値とは、データの本来のパターンからの偏差を示すもので、通常は何らかの異常な状況や問題を示しています。

これは一見、外れ値と同じように思えますが、一つ重要な違いがあります。
売上を打ち込む際の入力ミスや、システムトラブルなどにより明らかに異常な数値を示す場合です。
例えば、通常営業日にも関わらず売上が1万円となっていた場合には、なにかしらのミスやトラブルによって異常が発生していると考えられます。(図2参照)


図2 異常値の考え方

つまり、外れ値がデータ上の「珍しい」事象を表すのに対し、異常値は「問題」を示していると言えます。

これらの違いを理解し、適切に取り扱うことで、売上予測の精度を大幅に向上させることが可能となります。
次のセクションでは、これらをどのように検出し、そしてどのように取り扱うべきかを詳しく見ていきましょう。

3.外れ値と異常値の取り扱い

<外れ値と異常値の検出方法>

外れ値と異常値を適切に扱うことは、データ分析の結果を左右します。
データ内にこれらが含まれていると、モデルが歪んだ学習を行い、予測の信頼性が低下する恐れがあります。
ですから、まずはこれらの値を適切に識別し、その次にどのように取り扱うべきかを決定することが重要です。

外れ値と異常値の検出は、統計的な手法や視覚的な手法(ボックスプロットや散布図など)を用いて行われます。(図3、図4参照)

これらの方法を適用することで、データセット内の外れ値を確認し、その原因を特定することが可能です。
外れ値の取り扱い方は、その原因や、外れ値が全体のデータに与える影響によります。
外れ値がランダムなノイズや測定エラー等から生じたものであれば、それらを除外するか、補正するのが一般的です。


図3 散布図イメージ図


図4 ボックスプロットイメージ図

また、外れ値と異常値の検出では、クラスタリングもよく用いられます。
これは、母集団の中から似ている同士でグループ分けを行い、その中から外れ値や異常値を見つける手法です。
クラスタリングについては、過去の記事で詳しく解説しています。
ぜひそちらの記事もご一読ください。

精度改善の鍵:特徴量エンジニアリング

クラスタリングは、分析者の主観が入りやすく、客観的な分析には不向きという側面も持っています。

外れ値や異常値の取り扱いについては、それが何を示しているのかを理解することが重要です。
外れ値や異常値がシステムのエラーから生じたものであれば、それを修正または除外することが考えられます。
しかし、もし異常値が新たなビジネスチャンスやリスクを示している場合は、それを無視することなく、分析結果に反映させるべきです。

それぞれの外れ値と異常値に対する最善の対処法は、データの背後にあるビジネスの特性によるところが大きいです。
そのため、データ分析を行う際は、数字や統計だけでなく、それらが表すビジネス特性や状況を理解することが不可欠です。

4.チェーンストア企業における母集団形成と外れ値、異常値の管理

実際のチェーンストア企業で母集団形成と外れ値、異常値の管理がどのように行われるかを見てみましょう。

例えば、あるチェーンストア企業では、新規出店の売上予測を行う際、過去の店舗のデータを母集団として用いているとします。

各店舗の日々の売上、来客数、地域の人口統計など様々なデータを集め、それらを組み合わせて母集団を形成します。
この過程で、特定の期間に極端に売上が跳ね上がったり、落ち込んだりする店舗のデータは、外れ値として特定され、原因を探求します。

例えば、突如として売上が跳ね上がった日は、地元の大規模イベントや祭りが開催されていた可能性があります。
このような一時的な要因による外れ値は、通常の運営状況を反映していないと判断し、売上予測モデルからは除外されることが多いです。

一方で、ある店舗が特定の期間だけ異常に低い売上を記録していたとしましょう。

これは異常値と考えられ、その原因を追求することが重要になります。
例えば、その期間に店舗の近くで大規模な道路工事が行われていて、客足が遠のいたのであれば、それは特殊な事例として扱われます。
しかし、もし店舗の運営に問題があった場合は、その経験を活かして新規出店時の運営改善やリスクヘッジに役立てることができます。

このように、チェーンストア企業では、外れ値と異常値の適切な理解と取り扱いが、売上予測の精度を大きく左右します。
母集団形成の段階でこれらの点を確認し、適切に管理することで、より信頼性の高い売上予測が可能となります。

5.まとめ

このコラムを通じて、母集団形成の重要性と、外れ値および異常値の理解・取り扱いについて学びました。
これらは全て、より精度の高い売上予測を実現するための重要なステップです。
以下に、今回の内容の主要なチェックポイントを挙げておきましょう。

①母集団形成

売上予測の精度を決定するための基本的なステップ。
適切なデータの選択と整理が必要となります。

②外れ値と異常値

モデルの学習と予測に大きな影響を与える。
これらを正確に理解し、適切に取り扱うことが重要となります。

③外れ値と異常値の適切な取り扱い

その原因や背後にあるビジネスコンテクストによるところが大きいです。
その数値が運営状況によるものなのか、そうでないかは、実際の店舗状況や周辺環境を調査したうえで取り扱う必要があります。

そのため、それぞれの企業の特性や状況に応じたルールを設定することも重要です。
さらに、その外れ値や異常値を除外する、しないに問わず、外れ値や異常値と判断した理由を明確にする必要があります。

チェーンストア企業のデータ分析者やビジネスリーダーは、これらのポイントを理解し、日々の業務に取り入れることで、よりリアルな世界の状況を反映した売上予測モデルを構築できます。
そして最終的には、これらの取り組みが新規出店時のビジネス成功につながるでしょう。

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