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新技術が、ひとの代謝研究の新地平を開拓した 代謝には生涯にわたって4つの異なる段階がある

▼ 文献情報 と 抄録和訳

人間の生涯における毎日のエネルギー消費量

Pontzer, Herman, et al. "Daily energy expenditure through the human life course." Science 373.6556 (2021): 808-812.

[ハイパーリンク] DOI, PubMed, Google Scholar

[Science編集者より] 一生分の変化出生前から老年期までの大規模なコホートにおいて、総エネルギー量と基礎エネルギー量を測定したところ、人間の一生の間に起こるさまざまな変化が明らかになった。新生児のエネルギー消費量(体重調整後)は成人と同様であったが、生後1年目に大幅に増加した(RhoadsとAndersonによる展望を参照)。その後、若年者が成人の特性に達するまで徐々に減少し、その特性は20歳から60歳まで維持されました。高齢者ではエネルギー消費量が減少した。このように、組織の代謝は一定ではなく、重要な節目で移行しているようである。

[背景] 1日の総エネルギー消費量(以下、総消費量)は、1日のエネルギー必要量を反映しており、人間の健康と生理において重要な変数であるが、ライフコースにおけるその軌跡はあまり研究されていない。

[方法] 我々は、生後8日から95歳までの男女を対象に、二重標識水法で測定した総消費量の大規模かつ多様なデータベースを分析した。

[結果] 総支出は無脂肪体重の増加に伴って累乗則的に増加し,4つの異なるライフステージを示した.無脂肪体重調整後の消費量は、新生児では急速に増加し、1歳未満では成人値の約50%に達し、20歳未満では成人値までゆっくりと減少し、成人期(20歳から60歳)では妊娠中でも安定しており、その後、高齢者では減少した。

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生涯における4つのステージ pre-release
第一段階:0-1歳の新生児;新生時期、脳を含め急速に体重が成長する段階では、エネルギー代謝が上昇する
第二段階:1-20歳の若年層;5歳でピークを迎え、20歳代まで急速に低下する
第三段階:20-60歳の成年期;20歳代〜60歳代までは、エネルギー代謝は一定に維持されている
第四段階:60歳以上の老年期;60歳を過ぎると、緩やかにではあるがエネルギー代謝は低下を始める。

[結論] これらの変化は、人間の発達と加齢に光を当てており、生涯にわたる栄養・健康戦略の策定に役立つはずです。

▼ So What?:何が面白いと感じたか?

まず、言わせていただきたい、『Science』である。恐れ入ろう!
この論文は、ここ数日で、プレリリースをはじめ、論文紹介も複数、注目度が高い論文だ。
2つの面白さがあると感じた。

①大丈夫、科学・医学に終焉はない。安心してフロンティア精神を持ち続けよ!

かれは、医学の世界で多くの医家が学業に精励し、それらの人々によって各分野がすべてきわめつくされているように漠然と感じていた
冬の鷹

この言葉は、1723年ごろの医学の状況を描いた小説において描写されたものだ。未来人である僕らからすれば、「いや、そっからメッチャ進歩するから!全然極め尽くされてないから!」と思うだろうが、現在真っ只中のその時点にいる人は、このような感覚を持つものなのかもしれない。もちろん、僕にも、そんな感覚がある。「もう医学って、極め尽くされちゃってるよね、だから、学ぶことしかなくて、自分たち自身で新しいものをつくっていくことはできないんだよね。」という感じだ。だが、今回の研究において、改めて感動したことは、『いつだって新技術が新たな研究領域を創造してきたし、これからもしていくだろう』ということだ。100年前、誰が人工知能による診断精度の研究に思いを馳せただろう、皆無である、それは最新の技術が、その研究領域を生み出したからだ。今回の研究においても、『doubly labeled water』技術が、膨大なn数獲得につながり、新知見の発見につながった(詳細がわかりやすい解説)。
医科学の進歩は、技術の進歩と手を繋いでいて、技術進歩が医科学を手引くように進んでいく。だったら、技術進歩に熱い眼差しを向けておく必要があるよな、と思った。

②代謝には生涯にわたって4つの異なる段階がある
この4つの段階のうち、特に現在のリハ医学においては第四段階が重要であろう。この第四段階において、「低下する代謝を無理に捻じ上げた方がいいのか、低下する代謝に応じた生活様式の選択や食事選択を推奨するのか」という大きく2つの介入方向性があるように感じた。そのどちらも必要なのだろうが、どちらにフォルテ(強調)をつけていくのかは、今後検証されるべき内容だと思う。

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