短編『六歳』
結婚十年目で待望の子宝に恵まれた。私は、生まれてきた男の子に溢れんばかりの愛情を注ぎ、大切に育てている。
息子は五歳になった頃から、身の回りの物や触れる物、全てに好奇心を持つようになり、私に、何故?どうして?と質問を投げかけることが多くなった。
ある休日の午前中。息子と二人で、近所の神社に併設された小さな公園に散歩に出た。
「ねぇねぇ、パパ。どうしてツバメは、木じゃなくて、人間のお家に巣を作るの?」
神社の軒先に巣を作り、忙しそうに出入りしているツバメを見て息子が言った。
「ツバメの巣かぁ。えっとねぇ‥‥」
ちょっと待っててね。と息子に言い、スマホで検索する。息子の好奇心を少しでも満たしてやりたい。
「あのね。人の近くに巣を作れば、ヘビやカラスとか、敵が近付いて来ないからで、」
私が説明を始めると、どうやらツバメの巣への好奇心は失われたようで、息子は「どうして、お空は青いのー」と言いながら、公園をぐるぐると走り回っていた。
息子が疑問を持った時に、すぐに答えを返してあげたい。しかし、情けないが、それだけの知識と頭の回転の早さを私は持ち合わせていない。
ブランコを漕ぎ始めた息子の元へ歩き出した時、神社の本殿の方でツバメの鳴き声が騒がしくなった。何気なく鳴き声の方を見ると、巣からヒナが一羽落ち、その周りを親ツバメが心配そうに飛び回っていた。
「パパ、ツバメさんの赤ちゃんが!」
息子の呼び掛けに頷いて、二人でヒナに駆け寄った。
「ヒナを巣に戻すだけだからね」
心配そうに飛び回わる親ツバメに言い、社務所の横に立て掛けてあった梯子を使って、ヒナをなんとか巣に戻すことができた。
「ツバメの親子、嬉しそうに鳴いてるね」
笑顔の息子に「そうだね。良かったね」と私も笑顔で返した。息子の笑顔は本当に素晴らしい。出来ることなら、息子の好奇心を全て満たしてあげて、たくさん笑顔にしてあげたい。神社を眺めながら、息子の質問に何でも答えられるようになりたいなと、つぶやいた。
「承知した」
耳元で誰かの声がした。息子は私と言葉を交わした後、すぐに滑り台に走って行っており、私の傍には居なかった。気のせいかな。周りの様子を伺いながら、ジャングルジムのてっぺんで空を指差す息子のところに歩いていった。
「ねぇ、パパ!どうして飛行機は空を飛べるの?」
「えっと、それは‥‥飛行機はなぜ空を飛ぶことができるのか? それはね、飛行機が飛んでいるとき、翼の周りの空気から、その飛行機の重さ以上の力を上向きにもらっているからだよ」
「へぇ〜、そうなんだ!」
息子は飛行機を見上げながら、感心していた。
今のは何だ?あんなに素早く簡単に答えを返してあげたのは初めてだった。この日から、同じようなことが何度もあった。息子に質問されると、答えが頭に浮かぶのだった。時には、「オバケって居るの?」なんて、答えが無さそうな質問をされることもあったが、息子を感心させる答えを出してあげることができた。息子限定だが、どんな質問にでも答えてあげられるようだ。
そんなことが続いていた、ある日。ふと頭に一つの考えが浮かんだ。息子に質問されたことは、何でも答えられるんだよな。それじゃあ。私は息子を呼んで、ある質問をするように言った。そして、息子はその質問を私にした。
「明日抽選のロト6、当選番号は何?」
私は目をまん丸にした。六つの数字が頭に浮かんだのだ。いや、流石にこんなのは当たるはずがない。しかし、翌日の発表を見て、驚いた。
「当たってるんだけど」
私は慌てて息子呼んで、次の宝くじの当選番号を質問させようとした。来月は息子の六歳の誕生日。盛大に祝ってあげられそうだ。奥の部屋から走って来た息子は、私の元に来ると、私が話す前に間髪入れずに聞いてきた。
「ねぇ、パパ。人間っていつか死んじゃうんでしょ?僕は何歳まで生きられるかな?」
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