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映画を観た「波紋(2023)」

どう表現すればよいのか難しいところなのだが、据わりが悪いというか、気持ちをどこに置けば落ち着くのかがわからない作品だった。
荻上直子監督の作品では「彼らが本気で編むときは、」は大好きな作品なのだが、「川っぺりムコリッタ」も本作と同じようにどことなく気持ちが落ち着かない感覚を鑑賞後に持った。

筒井真理子さん演じる主人公の主婦は寝たきりの義父の介護をしているが、ある日夫が失踪する。夫は光石研さんだ。

数年後、花壇をしつらえていた庭は一掃され、枯山水の庭へと作り変えられていた。
失踪した夫の代わりに義父を看取り、近所のスーパーでレジのパートをしながら生活をしている筒井さんの日課はその庭の手入れをすることだ。
そして筒井さんは新興宗教にのめり込み、疑うことなくその活動に一生懸命だ。

自宅にはその宗教の教えである水のボトルが自宅のそこかしこに整然と並べられている。
高価そうな水晶なのかガラスなのかはたまたアクリルなのかわからないが大きな玉も自宅の祭壇に鎮座している。
庭を整え、水を祀った祭壇で熱心に祈り、パートに向かう。

パート先のスーパーではワザと傷つけたらしき商品を半額にしろと騒ぐお爺がいる。厄介だ。
整えた庭に入り込んでくる近所のネコの飼い主とのやり取りや、スーパー半額ねだりお爺や自身の更年期の症状など、日々些細なトラブルが起こる中、それでも平穏に過ごしている筒井さんの元へ失踪した夫が突然帰ってくる。癌を患っているという。挙句、治療費を出して欲しい、なんて、なんじゃそら?!
勝手にいなくなったのに困ったら戻ってくるなんて、ひどすぎるじゃないか、光石さん!自分の父親を最後まで見てもらっておいて都合のよすぎる話だ。

筒井さんは、おそらく周りの信者の目を気にしてか、教祖の気を惹こうとしてかそんな打算的な感情も見せつつ夫をその宗教の集まりに連れていくのだが、夫もまた治療費をせしめるために一生懸命だ。両者のよこしまな思いが透けて見えるのに、他の信者たちは表面上の称賛を送るのだ。

最初に据わりが悪いと表現したが、二カ所ほど好きなシーンがある。

一つ目は夫が宗教の集まりに同行したシーン。信者たちが歌を歌いながら踊るのだが、いきなり始まったその行為に光石さんは目を白黒させる。そして慌ててその振りをマネするのだが、テンポがずれたり間違えたりする。周りの信者の動きの完璧さと、光石さんのあたふたっぷりがとても面白く、一人で声を出して笑ってしまった。
もう一カ所は光石さんが治療のための点滴を受けるシーン。
隣についている筒井さんが、その薬剤1滴1滴が落ちるたびに「5万円、10万円、はい15万・・・」とつぶやくのだ。かなり高額まで映画でも表現されていたのであれは最後まで言い切ったに違いない。確か150万円だったと思う。怖すぎる。怖すぎるが光石さん、そりゃー仕方ないですぜ。

エンドロールでムロツヨシさんが出演されていたことに初めて気づいた。え?どこに???
調べてびっくり!あの役の方だったの?!

東日本大震災や宗教の問題、介護や障がい者についてなどいろんなテーマがちりばめられている。バラつくことなく1本のストーリーにまとめ上げられている点はかなり良かった。

据わりは悪い映画だったが気持ちの中に残る映画だった。
良い俳優さんが多数出ておられる映画で演技については申し分なし。

これはこれで良い映画だった。

#波紋   #WOWOW
#W座からの招待状

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