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絵になる美しい街並みを創造する為の粉本/市場庄(いちばしょう)/三重県松阪市市場庄町/ 大雨の対策が際立つ街並み


   屋根庇の先端に壁面の防雨対策用として幕板を取り付けた伝統的建築を我が国で最も降雨量の多い地域の一つとして知られる三重県の尾鷲で探したが、時間と事前調査の不足で、それらしき姿を見付けられず、そのまま推移していたところ、尾鷲の北東側の地域、伊勢の宇治中之切町や河崎、松阪等で発見できた。
 屋根庇の先端に幕板を付けたデザインは元来紀伊半島の太平洋沿岸に広がる年間4000mmほど降る雨量の多い地域の降雨対策として先人が考えた工夫が、全国的な行事である伊勢参りを通じて、伊勢周辺で呼ばれる幕板、「かえぎ」が、各地で活用され「幕掛け」や「板暖簾」、「尾垂れ」などと、呼ばれるほどに普及、定着したようだ。
 幕板が際立つと思われる街並は、三重県の津と松坂の間にある伊勢街道沿いに室町時代末期に発展した農家と町家の中間的性格を持つ建物が並ぶ集落、「市場庄」だろう。その街並は、南北に緩やかに蛇行するように形成され、それらを構成する建物には下見板張りの米蔵や平入り町家も存在するが、代表格は妻入りの立派な切り妻形式の主屋と木戸、「なかのや」が連なる町家で、この主屋の「せいがい庇」と呼ばれる庇屋根の軒先下に付けられた「かえぎ」によって連続感のある個性的な街並が形成され、「市場庄」独特の景観を形作っている。
 この街並み景観を見ていると建物の建つ地域の気候や風土、歴史をもっと建物デザインに取り入れても良いのではないかと思えてならなかった。


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