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キル・ビル(老朽化による取り壊しの意)

都会の風は生暖かく、ビルのエアコンの漏れた冷やっこい空気が隙間風として機能する。ここはビルディング・ジャングル、東京。

学生は季節感もなく黒っぽい服を着、黒っぽいバックを下げ、汗で湿った中途半端に長い毛を櫛で梳かす。

女々である。

ある者は詐欺師が着るような薄いジャケットの形を模した何かを羽織り、過剰な量の整髪料と浅黒い肌の奥に半端な貴金属をちらつかせている。

これもまた女々である。

このビルディング・ジャングルでは途方もない女々や詐欺であふれかえっている。彼らはアグリーとディスアグリーの二言しか喋らない。

新渡戸稲造はこんな未来を期待していただろうか?こんな武士道は彼は望んでいなかっただろう。
え?新渡戸も米人と結婚しただって?であれば彼も女々である。

こんなビルディング・ジャングルでも、まだ雄々しいことができるのではないか。私はここでできる最もクールで野性的で雄々しいことを考えた。

殺しである。

私は殺しに関してのライセンスは持っていないが、殺しについては人一倍知っている。田舎の橋の下に住んでいた朴さんは殺しが得意だった。
だからクニに帰れなくなった。

早速私は準備に取り掛かった。朴さんの経験に則ると殺しはきっかけが大切らしい。現代人におけるきっかけの演出は容易である。マッチングアプリがあるから。すぐさまWITHだかTINDERだかをダウンロードした。成功。情報登録。失敗。

身分証明書が必要らしい。私には戸籍がない。

私はすぐさま朴さんの形見である運転免許証(もちろん本名ではない)をカバンから取り出し、使用した。成功。これできっかけは作ることができるはずだ。

それから20日待った。マッチしない。ビルディング・ジャングルには余るほどのメスやゲイがいるのに私は目にも止まらないのか。

やはり自由恋愛に則った殺しは良くない。というか自由恋愛自体とても野蛮な行為と感じてきた。やはり政略婚や見合い婚の方が一層文化的で人類史的に優れた仕組みなのではないかと考える。人類が真に文化的で文明的な生き物ならば、セックスに快楽は求めないと思うのだ。

こうして、私はアグリーであることにディスアグリーしながらも、TINDERを見つめて他責的に人を殺し続けているのである。

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