短編小説「肛門紳士」


夜も更けた。

グースカ眠りこけた毛むくじゃらで欲太り、
酒浸りであろう独身男、その肛門からするりと私は身を引きだした。

畳の上でだらしなく横たわる、中年男のその隣、
私は姿勢よく直立したままじっくりと手鏡で髭を整え終わると、
いびきがうるさい彼のその肛門へ再び腕を差し入れる。

(ふむ・・)

汚く黒ずむ窄まりから引き抜いたのは私のお気に入り、樫のステッキ。
いつだってピカピカに磨かれたまま、クソの欠片も付くことはない。
しばらくその光沢を眺めたのち、そこから私は踵を返す。

(さて、深夜の散歩へと洒落こもう)

冬眠中の熊の男をしり目に、音も立てずにドアから出れば、
ほんのり月明かりがアスファルトの夜道を照らす。

踊るような足取りのまま、道なりに進むと、
やがて青白い街灯の下、数匹の猫の集会に出くわした。

(猫どの、ごきげんうるわしゅう)

おや?
ふと気づけば、困った表情の一匹が目に止まる。
体の具合が悪そうだ。

(便の調子はいかがかな?)

さりげなくそう言うと、猫は黙って私へ肛門を突き上げる。
私はうながされるまま、そこへすっと手を差し込んだ。

(ふむ、これか・・)

ずるりと大きな毛玉を抜き出すと、猫はニャンと喜んだ。
ゴロゴロいいつつすり寄ってくる。

おやおや、あまり毛をつけないでおくれ?
あとあと取るのが面倒だ。

(それでは諸君、ごきげんよう)

そういいながら会釈をすると不意に夜風が髭をくすぐった。
名残惜し気な視線の中、そして私は散歩を再開する。

小脇へお気に入りのステッキ抱え、踊るようにステップ踏めば、
いつのまにやら大きな公園、噴水広場へ足は向かう。

広場に並んだ丸い照明、照らしだされたいくつかのベンチ。
そこにはちらほら、カップルの影が見える。

おやおや、あちらのふたりはご遠慮しよう。
男性同士じゃ厄介だ。

私はしばらく思惑ののちに若い男女の前へと歩みをすすめ、
軽い会釈をすませると、そこでぱちんと指をならす。

男はするりとズボンを脱いで、私に尻をつきだした。

(ふむ、これはなかなか良い部屋だ)

今宵はここに泊まるとしよう。

それでは諸君、よい夢を。



※短編小説「肛門紳士」終わり。

■他の作品
「肛門」
「肛門ズ」
「肛門の虎」
「ボクは肛門」
「ボクはガンダム」
「オナニスター卿」
「猫は人」
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「塩辛(双子物語)」
「シジミ汁」
賽の河原


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