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読書ノート その1 極楽征夷大将軍

直木賞受賞作品。筆者は垣根涼介。
主要人物は3人。

足利尊氏
初名は高氏。室町幕府初代将軍。
鎌倉幕府初代の源頼朝、江戸幕府初代の徳川家康と比べ、良くも悪くも評価がブレる人物。
自己愛が薄く、カリスマ性があり、戦場では強いが、いわゆる冷酷な政治家タイプでは全くない。
後醍醐天皇に追討されると、家臣をほっといて出家しようとするが、弟の危機を聞いて先頭切って戦場に飛び出す、良くも悪くも人間性豊かな行動が多い。
幕府設立初期は、実務を弟の足利直義と、執事の高師直に任せており、初期の室町幕府の体制は、この2人が実質的に担っていた。

足利直義
尊氏の同母弟。初名は高国。
若い頃から仲の良い兄弟で、室町幕府誕生は彼の存在なしにはなかった。為政者としての能力は高く、彼を高く評価する尊氏による弟の幸せを願い寺に預けた文書が残されている。
直義は、鎌倉幕府の北条泰時(尊氏・直義兄弟は泰時の女系子孫にあたる)の時代を模範に、御家人中心の秩序ある政治を目指したとされる。
新興武士に支持される高師直との対決が、観応の擾乱を引き起こすことになったという説が一般的であった。
観応の擾乱の中で鎌倉にて死去。尊氏による毒殺説もあり、NHK大河ドラマ(1991年・太平記)では、その説を元に描かれた。
著者はその説は採用していない。

高師直。
高家は歴代、足利家の執事の家柄。
尊氏・直義兄弟を支え、幕府設立に貢献。
当初は、直義とも良好な関係であったが、軍功を上げ足利一族よりも強い立場となり、直義失脚後は、尊氏の嫡男義詮の補佐として権力を振るう。
観応の擾乱の中で敗れ、斬殺された。
女好きで人妻を奪った話など後世に伝わっており、NHK大河ドラマでも描かれていたが、現在では、彼の悪評のほとんどは創作と考えられる。

まとめ
歴史好きな方であっても、南北朝期における幕府内の抗争で全国的に展開された「観応の擾乱」は、複雑怪奇で理解が難しい。
それをわかりやすくエンタメとして描き、直木賞を受賞した。
歴史好きでなくても楽しめると思います。


その他、関連図書を挙げます。

私本太平記 吉川英治著
NHK大河ドラマの原作。
少年時代に読み、足利尊氏に興味を持つも、後半の観応の擾乱のあたりは理解できずにいました。
吉川英治の晩年、病気で後半部分は書き急いだと、後から知り、納得。

観応の擾乱 亀田俊和著
歴史学者が、一次資料などを基に、観応の擾乱を読み解いた本。
足利直義=御家人・寺社重視の保守系、高師直=新興武士の代表みたいな、単純な二分法ではないことを明らかにしています。
また、初代尊氏と三代義満の間で影の薄い、二代義詮の政治的手腕を再評価できる点が面白い。
歴史の素養がある方が読めば、この内乱の歴史的な意義を理解できると思います。

足利基氏とその時代 黒田基樹編
大河ドラマでは子役でワンシーンのみで、私本太平記でも少ししか登場しませんが、歴史的には初代鎌倉公方として、重要な存在である尊氏の四男(正室の登子との子としては次男)。
一次資料を基に、鎌倉府の関東支配の確立期を明らかにしています。
正規の値段でネットで入手するのに数年かかりました。
極楽征夷大将軍では、この基氏が、そこそこ登場していたのが嬉しかったですね。

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