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逃げ続ける夢 #シロクマ文芸部

タッタッタッタッター。 タッタッタッタッター。
どこまでも追いかけてくる。
走りに自信がある俺にぴったりついてくる奴は、相当なもんだ。

「こいつ、どこまでついてくるんだ。
地の果てまで、俺を追い詰める気か?」

タッタッター。 タッタッター。
暗闇に、あいつの足音だけがやけに響く。
さすがの俺も、だんだん疲れてきた。

「もう逃げるのは、こりごりだ。」
「もうたくさんだ!! 人生から逃げ続けるのは!」
俺は大声で叫んでいた。

そして勇気を振り絞って振り返り、いきなり止まった。
「いい加減、やめろ!」
予想外の出来事に相手はたじろぎ、風船から空気が抜けるように
しぼんで後方に飛んでいく。飛び去るとき、ちらっとあいつの顔を
みたら、ひよこの人形で、とぼけたような表情をしていた。
おまけにまつげがくるんとカールしている。怪物とはおおよそ
縁遠い、間抜けでラブリーな顔だ。

「何だ。俺はあんな弱々しいものを、恐れて逃げ続けていたのか。」

そのとき思い出した。俺は伊賀忍者の末裔であることを。

ご先祖様、申し訳ございません。
ビールの飲みすぎで、たるんでしまったお腹も問題ですが、
心まですっかりひ弱になっておりました。

これからは、会社勤めの合間に、坂道上がり、吹き矢などの修業をして
心身の鍛錬に励みますゆえ、どうかお許しください。

また今後追いかけてくるのもがおりましたら、決してひるまず
手裏剣を投げながら、真っ向から戦う所存にございます。


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