す~さんという私

それまで苗字で呼ばれていたのが、

ある人が突然、「す~さん」と呼んだ。

あんまり突然呼んだことの意外さ面白さと、

田舎のスナックのカウンターの奥に居座ってそうな呼び方が馴染んだのか、

すぐにみんな私のことを「す~さん」と呼ぶようになった。

私は当時、父親との関係が悪化していった頃だった。

分籍しようか苗字も変えようか、などとまで考えていたので、

苗字ではなく通り名で呼ばれるのは心地良く受け入れた。

犬の散歩で知り合った人が、

「ウーゴくんのママ」などと私のことを呼ぶ。

率直に言うと、ゲボ出そうなくらい不快である。

ママ?

産んでねえし。

ママ?

育ててもいないし。

百歩譲って、

前の犬は仔犬の時から育てたので、

親心のようなものが無くもなかった。

しかし、犬は、犬だ。

飼い主は、飼い主である。

犬と飼い主という関係であること、

犬と人という異なる動物であることを

忘れてはいけない。

犬を飼うということは、人間社会の中で犬が生きていけるように

飼い主が責任を負う、ということだ。

犬を飼育して、手懐けて、教育する必要が有る。

ママ♪ワンちゃんは家族♪

じゃない。

だから、

「ウーゴくんのママ」と呼ばれると気持ちが悪いのだ。

加えて、私は性自認が身体的な性と違っている。

傍目にはおばちゃんに見えるかもしれないが、

中身はなんでもない。

女性の身体に激しい違和感を抱きながら生きている。

だから、「ママ」と明らかに女性のジェンダーである呼び方をされると

反吐が出るのだ。

歯に衣着せぬように心掛けて書きました。

やはり人前では服を着たほうがいいですね。

そんなわけで、

「す~さんと呼んでください。」

と言うようにしている。

英語の人にも憶えてもらいやすいのはいいのだが、

あいにく、「Oh, Susan!」と

女性の名前だと認識されてしまって一長一短。

おおスザンナじゃないんであるよ。

SNSのアカウント名も、

本名の苗字と、通称名の名前と、す~さんという呼び名を

組み合わせて使っている。

私のことを「す~さん」としか知らない人も多いからだ。

鈴木さんなのか須崎さんなのか須藤さんなのか

そんなこと介さずに私は「す~さん」なのだ。

東大仏教青年会のオンライン講座でサンスクリットを学んでいる。

日本の仏教研究者の名高い一人、斎藤明先生の講座を

毎年楽しみに受講している。

先生は、ZOOMの社会人講座でも、指す。

輪読の形を取る。

いやー、胃に悪い。緊張する。

と思っていたが、

次第に、積極的に参加する一部の参加者のみを

繰り返し当てるようになった。

ホッ。

しかし、私の向上心がちょいと鎌首をもたげた。

ある日、私は挙手して、訳に挑戦した。

しまった。

それ以来、先生は私を毎回当てる人リストの中に入れてしまったのだ。

うぇー。毎回、念入りな予習が必要になった。

毎回予習はしているのだけれど、それを更に更に念入りにし、

且つ、講座の中で挙手せねばならない。

緊張で胃袋がひっくり返りそうだ。

ある時、先生が私を指名した。

「では次、須山さん」

私はちょっともたついて、ミュートを外すタイミングが遅れた。

「須山さん、いらっしゃいませんか、

す~さーん」

わーい!

日本屈指の仏教学者に、す~さんて呼んでもらえた!

ゲラゲラ!

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