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平和を願うテロリスト

桜舞う躍動の季節。
草木は生い茂り、水の流れが耳を刺激する。
太陽の陽が大地を照らす。

俺には家族がいる。
愛する妻と子どもたち。
豊かな生活とはいえないが、小さな幸せを抱きしめる日々を過ごしていた。
美人の妻と無邪気な子どもたちに囲まれて暮らすのが夢だった。

そう、あの日がくるまでは。

食料を調達するために出稼ぎに出た俺は、
隣町の知り合いの家に宿を借りることにした。
昔ばなしが弾み、時間が過ぎるのを忘れ、深夜まで話し込んでしまった。

翌朝、食材の買い出しをして、足早に帰路に就くことにした。
村に着いたのは、日が沈みかけていた時刻。
村全体に静けさが訪れる。

何かあったのか…?

嫌な予感が過る中、自宅へと向かう。
目を疑うような光景。
家じゅうが血の海。
子どもたちの遺体が無惨に転がる。
妻がいない。

遺体を抱きかかえ、大声を上げて泣き叫ぶ。
状況を把握できない俺は、
暗闇の中、生存者を探す。

月明かりの夜。
朦朧とする意識の中、人陰を見つける。
この村で何があった。
涙を拭いながら、枯れ果てた声で質問をする。

政府役人が、この村を自分たちの権益にするために住人を排除しにきた。
労働力になりそうな男は鉱山へ、若い女は海外へ売り飛ばすそうだ。
老人や子どもはみんな殺されてしまった。

儂はタンスの二重底に隠れていたので、
たまたま助かった。
泣き叫ぶ悲鳴、助けを呼ぶ惨劇。
それはこの世とは思えない、非道な時間だった。

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