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【選択的夫婦別姓】夫婦同姓は「人格的利益の侵害」か、それとも日本の「麗しき慣習」か?

現在の戸籍制度は夫婦別姓の選択肢を設けていないので、夫婦同姓を受け入れることに同意しない限り、婚姻が法的に認められることはない。
戸籍制度を見直して選択的夫婦別姓を実現させることへの賛否を問うイシュー
12月5日現在、「戸籍制度に対する議論が足りないので、もっと議論すべき」が76%、「戸籍制度を見直し、選択的夫婦別姓を認めるべきである」が24%となっている。

そもそも氏名とは何か

「氏名は、人が個人として尊重される基礎であり、その個人の人格の象徴であつて、憲法13条で保障する人格権の一内容を構成する」(韓国籍を有する在日外国人の牧師が、テレビ放送のニュース番組において自分の氏名を日本語読みしたのは人格権の侵害にあたるとしてNHKを相手取り、1円の損害賠償と謝罪広告などを求めた事件(『最高裁判所刑事判例集』事件番号「昭和58(オ)1311」)。

これを踏まえれば、現在の戸籍制度は、生来の氏名に関する人格的利益が侵害されることを前提に婚姻の意思決定をせよというに等しい、という意見がある一方で、姓が同一であることは家族としての一体感を生み、社会に定着しているという意見もあり、また夫婦同姓を日本の「麗しき慣習」として残したいと感じている人々もいる。
さらに、夫婦別姓制度を導入した場合の子の姓に関する課題も指摘されている。

最高裁判所は夫婦同姓が違憲ではないと判断

2021年6月、最高裁判所大法廷は、夫婦同姓を強制する民法750条及び戸籍法74条1号について憲法24条に違反するものではないと判断したが、同時に「戸籍制度の在り方は、国会で論ぜられ、判断されるべき事柄である」と指摘した。
法務大臣の諮問機関である法制審議会が1996年に、選択的夫婦別姓制度を導入する民法改正要綱試案を答申してから既に25年が経過したが、国会による議論の促進や民法改正はまだされていない。

なお、厚生労働省人口動態統計特殊報告「婚姻に関する統計」によれば、2015年で婚姻後に改姓をしたのは96.0%が妻、即ち女性である。つまり、同姓強制による不利益は、それが存在する場合、ほとんどの場合女性が受けることとなる。

最高裁判所裁判官からは反対意見も

【夫婦同姓は合憲と判断した深山卓也裁判官、岡村和美裁判官、長嶺安政裁判官の補足意見】
法制度の合理性に関わる国民の意識の変化や社会の変化などは、立法機関である国会が不断に目を配り、対応すべきである。
夫婦の姓に関しても、憲法24条1項をどう解釈し、どう立法するかは、国会が決めるべき。
民法や戸籍法で「夫婦同姓」と定めるのは、憲法24条1項についての国会の立法裁量の範囲内であり、違反しているとは言えない。

【夫婦同姓は違憲と判断した三浦守裁判官の意見】
民法や戸籍法が夫婦別姓の選択肢を設けていないことは憲法24条の規定に違反する。
立法機関である国会が、夫婦別姓の選択肢を設けていない戸籍制度を見直す措置をとっていないことは、憲法24条の規定に違反する。
性別にかかわりなく、その個性と能力を十分に発揮することができる社会を実現することは、緊要な課題である。

【夫婦同姓は違憲と判断した宮崎裕子裁判官、宇賀克也裁判官の意見】
当事者の意思に反して夫婦同姓を受け入れることに同意しない限り、婚姻が法的に認められないというのでは、婚姻の意思決定が自由で平等なものとは到底いえない。憲法24条1項の趣旨に反する。
日本が1980年に女子差別撤廃条約を締結し、夫と妻が個人的権利を確保するための適当な措置をとる義務が定められたにもかかわらず、数十年間も民法や戸籍法を改正しなかったのは国会の立法裁量の範囲を超えており、憲法24条2項にも違反する。

【夫婦同姓は違憲と判断した草野耕一裁判官の意見】
人生で慣れ親しんだ姓に強い愛着を抱く多くの人たちにとって、婚姻のためでも姓の変更を強制されるのは福利の減少であり、選択的夫婦別姓は確実かつ顕著に国民の福利を向上させる。
夫婦同姓を日本の「麗しき慣習」として残したいと感じている人々にとっては、選択的夫婦別姓は福利が減少するが、結婚する当事者の福利の実現を阻むに値する理由と見ることはできない。
よって、選択的夫婦別姓制度を導入しないことは、あまりにも個人の尊厳をないがしろにするもので、立法裁量の範囲を超えるほどに合理性を欠いており、憲法24条に違反する。

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【2021年6月 夫婦同姓は合憲 最高裁判所大法廷】
東京都内在住の3組の事実婚の夫婦が婚姻届を提出する際、婚姻届の「婚姻後の夫婦の氏」欄に「夫の氏」「妻の氏」両方のチェックを入れて届け出たところ、いずれも不受理扱いとされたため、届出を受理するよう命じる審判を求めた。
家裁は訴えを退け、東京高裁も即時抗告を棄却したため、最高裁に特別抗告されたが、最高裁判所大法廷は、夫婦同姓を強制する民法750条及び戸籍法74条1号について憲法24条に違反するものではないと判断した。

【民法750条(夫婦の氏)】
夫婦は、婚姻の際に定めるところに従い、夫又は妻の氏を称する。

【戸籍法74条1号(婚姻)】
婚姻をしようとする者は、以下の事項を届書に記載して、その旨を届け出なければならない。
1. 夫婦が称する氏
2. その他法務省令で定める事項

【女性差別撤廃条約16条1項】
締約国は、婚姻及び家族関係に係るすべての事項について女子に対する差別を撤廃するためのすべての適当な措置をとるものとし、特に、男女の平等を基礎として次のことを確保する。
(b) 自由に配偶者を選択し及び自由かつ完全な合意のみにより婚姻をする同一の権利
(g) 夫及び妻の同一の個人的権利(姓及び職業を選択する権利を含む。)

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