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終末の世界を片道切符で冒険する親子の物語。『Eastward(イーストワード)』の良さは、決してドット絵だけじゃない

荒廃した世界を緻密に彩る「ピクセルアート」で話題を呼び、6年以上にわたる開発期間を経て2021年9月16日にデジタル版が配信されたアクションアドベンチャー『Eastward(イーストワード)』。本作は、ロンドンのパブリッシャー・Chucklefishが販売を担当し、上海のインディゲームデベロッパーPixpilが開発。日本語訳を架け橋ゲームズが手掛けており、日本の家庭用ハードでもプレイできる海外製のインディーゲームです。自分は9月に出たデジタル版をプレイしたのですが、本当に良かった……。とても、良かった……と1人で感動していたので、その良さをおすそわけすべくご紹介していきたいと思います。なお、11月25日にはSwitchのパッケージ版も発売。サウンドトラックが欲しい人は、こちらのコレクターズエディションがオススメです(Steam版であれば、デジタルサウンドトラックも購入できます)。

販売:Chucklefish(開発:Pixpil)
機種:Nintendo Switch、PC(Steam版)
ジャンル:RPG
価格:ダウンロード版2,680円(税込)、パッケージ通常版4,400円(税込)、コレクターズエディション8,250円(税込)

食べる。笑う。喜ぶ。細やかな描写が世界を形作っている

人や物を飲み込み、消滅させる「タタリ」と呼ばれる瘴気によって、人類の生存圏が地下に追いやられてしまった未来。ポットクロック島の地下で炭鉱労働者として働いていたジョンは、仕事中に拾った不思議な力を持つ少女・珊(サン)とともに、仲良く暮らしていました。無口だけど、サンを大切に育てている心優しいジョン。天真爛漫で、外の世界への興味津々なサン。血の繋がりはないけれど親子のような2人は、とある出来事をきっかけに危険な外の世界へ旅立つことに……。しかし、それはサンに秘められた真実を明らかにする旅であり、ジョンの運命を大きく揺るがす旅でもあったのです。

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ポストアポカリプス(終末)の世界を舞台に、無口なおじさんのジョンと元気な女の子・サンの旅を描いている本作。どうしても緻密で美しいドット絵が素晴らしく、芸術的なピクセルアートの話ばかりが話題として先行しがちですが、それはあくまでも世界観を形作るために必要なもの。作品としての一番の魅力はジョンとサンの疑似親子が冒険を繰り広げ、出会いと別れを経験する物語にあるのです。ジョンとサンが出会う場面こそオープニングの映像だけで済ませられてしまいますが、仲の良さに不自然さを感じませんでした。ジョンは無口ですが冒頭から娘に料理を作り、行方不明になれば探しに出かけ、周囲からも良い「父親」として認識されているからです。彼を操作しているこちらも、ジョンが「娘」としてサンを大切にしていること。サンも自分の「父親」としてジョンを大切にしていること。お互いがお互いを大切に思っていることが、言葉ではなく体験として伝わってきます。

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その一端を担っているのが「食事」の描写と料理。本作では、ジョンが厨房に立って料理を作り、サンや出会った人に料理を振る舞う場面がよく出てきます。料理はゲーム上のシステムにもなっており、戦闘中に使う回復アイテムとして使用するため、物語上でもゲームシステムとしてもプレイヤーが何度も作ることになります。そのため、料理を通して親子の関係がスッと入ってくるのです。レシピを組み合わせて作れる料理は、それ自体が美味しそうなものばかり。店で売っているアイテムよりも回復効果が高く、調味料でプラスの効果も発生するので作っておいて損はありません。常にアイテム欄を料理で埋めておいてもいいくらい。もう、ガンガン作っちゃいましょう。

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ゲームの本筋はタタリとサンの謎に迫る話でもありますが、本筋を常に追い続けるのではなく、新しく訪れた街で料理に関するイベントがあったり、平和な日常を描写したりするような、ともすれば寄り道と言える展開も多めです。ですが、それはいらないイベントなどではなく大切なもの。ジョンとサンの親子関係を見せるために必要な描写なのでしょう。そうした「何気ないイベント」を細かいドット絵の動きで表現しているのも特徴です。モブですら見た目も名前も違いますし、一回こっきりの使い捨てモーションも多め。

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喜怒哀楽。食べること。誰かと出会って何かをすること。本筋や世界の謎からすればどうでもいいような日常やイベント。1つ1つの要素に手を抜かず、必要であればドット絵で動きを見せる。せっかく作った素材なので何度も使いたくなりそうなものですが、使いまわしはほぼありません。アイテムを入手した時の喜ぶモーションなど、お約束的な描写くらい。なんと、息を吞むほど美しい背景や町ですら使い捨てです。確か、開発当初に公開されたのが下の画像と同じ街の風景で、その緻密なドット絵に驚かされた記憶がありますが、これも使い捨て。旅立ってその場から離れたら、二度と戻りません。

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そうなのです。本作は、以前訪れた場所へ戻ることはない1本道のアクションアドベンチャー。片道切符で次の場所へ、次の場所へと冒険していく作品なので、どんなに細かい絵作りがされた街でも、その場を離れたら二度と訪れることはないのです。執念を感じるほどに描き込まれた街、暗さのなかに驚異的な描き込みのあるダンジョン。美しくも郷愁を感じる世界を渡り歩いていく……。本作は、そんな父と娘のロードムービー。地下から始まる冒険の世界はスケールがどんどん広がり、プレイ時間としても平均的なインディーゲームのアクションアドベンチャー並かそれ以上。最短で何もやり込まずにクリアしたとしても、最低で15時間はかかるのではないでしょうか。しっかりとやり込み要素に触れていけば、軽く30時間は超えると思います。

ドット絵(ピクセルアート)だけではなく、細かな動きやモーション。表情の多さも見どころです。『ゼルダの伝説』や『MOTHER』などから影響を受けたと公言されているドット絵は、確かにそれらの雰囲気を感じさせるものがありつつも、モーションや表情の多さに関してはリスペクトした元の作品を越えているところも。ラブデリック系のゲームのようなコミカルな表情をしたキャラクターも多く、細かく変わる町人のテキストと合わせてその手間には感嘆としか言いようがありません。ドット絵を見せたいだけのゲームではないのです。ドット絵は、息づく世界を表現するための道具として徹底されており、あくまでも作りたいのはアートではなくゲームなのだと理解できます。だから、確かにドット絵自体は凄いですし素晴らしいのですが、それだけを褒めてはいけないのではないかと思うんですよね。開発者自身が90年代のアニメから影響を受けていると言うだけあり、美しいビジュアルで説得力を出し、そのうえで「お話」を見せたいゲームなのだと感じました。

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宮崎駿のパロディみたいなモブのおじさんがいるのはご愛敬。海外の人のリスペクトや愛から出てきたキャラクターだと思うので、こういうのはアリかな。本人じゃないし。ほら、世の中には無許可で『ファイナルファンタジー7』のエアリスを出すJRPGもあるので……。あれも、愛ではありましたね。

無口なおっさんのジョンと、血の繋がりはない娘の珊(サン)が冒険する設定だけでお釣がくるゲームなのですが、仲良しな親子の関係を緻密なドット絵と細かいNPCのテキストでトッピング。そこに、片道切符の後戻りできない構成が相まって、情感あふれる作品になっています。ただ、ゲームとして考えると、やり込み要素を取り返せず(強くてニューゲームもない)、トロフィーを狙うと最初からやり直しになる可能性も……。ゆっくりと、じっくりと、噛み締めるように冒険するゲームで、後戻りできないからこその良さがあるのですが、後戻りができないからこそ困ることもあるゲームでした。

と思っていたら欠点を改善するアップデートが実装。「チャプターセレクト」や「ファストトラベル」機能が追加されたことで、好きなシーンを遊びなおしたり、貴重品を引き継いでゲームをやり直せるようになりました。

やり込み要素や細かいテキストから考察していく物語

物語を見せたいゲームと書きましたが、このゲームはすべてを言葉で語ってくれるストーリーではありません。収集アイテムなどに散りばめられた情報や、何気なく見過ごしてしまいがちな道中でのテキスト。1周目ではよくわからないような初見でのイベントなどを考察することで、世界の謎や設定がおぼろげに見えてくる作りです。わかりづらいところもありますが、考察してみたい人は周回するか、やり込み要素までじっくり遊びましょう。

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ゲーム中で回せる「ガチャ」から手に入るフィギュア(ピクスボール)も、その解説を読むことで世界を考察する一助となります。ちなみに、このピクスボールは『大地の子』というゲーム内ゲームで使用できるアイテム(今でいうamiboみたいなもの)なのですが、『大地の子』自体もすさまじい凝り様。街のPCを調べることで、ゲームボーイ風のレトロなRPGを遊べます。

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どう見てもファミコンカセットなのに、何でゲームボーイ風なんだと思わなくはないものの、まったく違うゲーム内ゲームを作ってきたこと自体に感動してしまいますね。初めてプレイした時に、サンの友達が専用のグラフィックで解説してくれるのも凝り過ぎている……。わざわざ描き下ろすのか……。『大地の子』は時間制限アリでランダム要素もある高難度のRPGで、クリアするためには良いアイテムを引く「リセマラ」も必要ですが、そこで役に立つのがピクスボール。ガチャで手に入れれば手に入れるほど、ゲーム内でアイテムとして使用できるようになり、味方全員の回復やショップの割引など、さまざまな効果を発揮します。逆に言えば、ないとかなり厳しいです。

『大地の子』自体も世界観を考察するうえでの手助けになるので、1回はクリアしておきましょう。個人的には、こうしたミニゲームや収集アイテム、さりげないメッセージテキストも含めて、自分で想像できる範囲の物語だとは思うのですが、説明が足りてない性急な場面もいくつかありました。

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プレイヤーとしては体感として1日や2日しか経っていないような感覚でも、ゲーム中では何日も過ごしていたような反応でイベントが進む場面があるんですよね。そこは説明不足だと言われてしまうかもしれません。とはいえ、それもユヴァの話くらい。日数の経過も想像で補完できる範囲だと思います。ユヴァのイベントは、もう少しイベントが多ければ時間経過がわかりやすかったのですが、中だるみしてしまいかねないので悩ましいところ。

ジョンと珊(サン)を切り替えて進むアクションパート

作り込みの凄い絵作りに対して、システム部分は割とオーソドックス。ジョンとサンの2人を切り替えながら戦うアクションアドベンチャーになっています。ギミックを駆使して謎を解き、正解を見つけて先へ進む。リスペクト作品の1つである『ゼルダの伝説』の2D見下ろし方シリーズのようなアクションアドベンチャーです。フライパンや銃などで戦うジョンと、エネルギーブラストで遠くを攻撃できるサン。2人の武器は、攻撃手段に加えてギミックを解く手がかりにもなっており、適切に切り替えていくことが重要になります。ただ、自分はそこまで難しく感じなかったのですが、ヒントの少ない謎解きや時間制限のあるギミック。弱点を見つけるために苦労するボス戦など、少々ゲーム慣れを想定し過ぎている難易度は気になるところも。

ほかの部分は楽しかったのですが、時間ギリギリで仕掛けを解きながら目的地へ向かう系のパズルがイライラする! 時間の設定がどれもシビアすぎ!!

ジョンで敵を蹴散らしながら、その間にサンを移動させて、すぐにジョンへ切り替えて……みたいな制限時間付きのパズルが、結構な頻度で出てくるんですよ。これに関しては素直に良くなかったと思います。解けるけど、楽しいとは思えなかった。それ以外の道中に出てくるギミックやボス戦は楽しかっただけに、時間を制限する系のパズルは少し減らして欲しかったですね。

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敵が硬いけど入手できるものが美味しくないので、あまり戦う意味を見出せないザコ戦。説明が足りてないギミックの応用した解き方。アクションの部分は出来にムラがあり、すべてが良いとは言えません。ですが、要所、要所で盛り上がりますし、ラスボス戦も熱くなれました。街に戻れず、連続してイベントが起きる時もあるので、回復アイテムは切らさないようにしておきましょう。ゲーム慣れしている人には問題ないとは思いますが、説明や導線が不足している部分があるので、そういった意味で苦労する人はいるかも。

たとえば、お金(翻訳の関係で日本語だとお金だけど、この世界の通貨の単位はソルト=塩)を稼げるソルトバグという虫がいるのですが、この虫は1回攻撃するだけではなく、連続で攻撃することでお金をたくさんもらえます。サンのエネルギーブラストを連続で当てて金を稼ぎ、画面を切り替えて復活。エネルギーブラストで……とソルトバグで金策するのもポイント。

無口だけど、いざというときには頼りになるオジサン。正体不明だけど、年相応の元気さを持つ少女。親子のような2人が、安息の地を求めて旅を続ける。そうした設定と、美しいドット絵に心が惹かれた人にはオススメの1本です。パッケージ版も発売されるので、この機会に遊んでみてください!

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あと、アイテムを入手したときのサンのモーションがカワイイですよ!


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