2019年の発売日からVer1.25まで遊んだ当時の『YIIK』旧バージョンレビュー

すでに、こちらで最新のレビューを書いてはいるのだが、あらためて当時の自分が『YIIK』に感じたこととして、こちらのレビューも残しておこう。
現在の『YIIK』とはまったく違っているのだが、あくまでも当時、とくに海外ユーザーが、どんな雰囲気で荒れていたのか参考になるかもしれない。

なお、このレビューは、当時でも自分が3つ目のエンディングを探して周回するなか「人が楽しんでいるのに、SNSでの考察などがKOTY(クソゲーオブザイヤー)の動画に引用されていた」のでガックリ来て消した経緯がある代物だ。くれぐれも叩くためや、今更こちらの古くなったバージョンを引用しないで欲しい。昔のレビューなので、口調もですます調で丁寧なのだが、これは単に今の自分が「ゲームの記事を仕事でしないと決めてから、個人を強調するためにだ、である調にしてる」という理由に過ぎない。知ってた?

『YIIK』を発売日に買って3周した時の感想

海外でも有名な日本製RPG『MOTHER』シリーズ。昨今ではインディーゲームのなかでも『MOTHER』に影響を受けたRPGがリリースされて好評だったり、好評じゃなかったり、まあいろいろあるのですが、なんだかかんだで、『MOTHER』に影響された作品が結構出ています。

海外では『MOTHER』シリーズをはじめ、日本のRPG(JRPG)に影響を受けた人々がそうしたリスペクト作品を作り、今やJRPGは1つのジャンルとして成立している時代になりました。ただ、海外と日本人の感性の違いなのか。見えている物が根本的に違うのか。「どこがJRPGなの?」と思ってしまう作品もあり、異文化コミュニケーションの難しさを感じますが……。

というわけで今回は、そんなJRPGや村上春樹作品が大好きなAckk Studiosが開発し、2016年のBitsummit展示からゲーマーの間で待ち望まれていたRPG
『YIIK: A Postmodern RPG』の話です。ちなみに、プレイしたのはSwitch版。現状でも一番バグが残ってるやつですね。Ackkスタジオ~……。


いやあ、自分も本当に待っていたんですよ。なにせ、この作品。インディーゲーム好きの間で有名なバーテンダーアクション『VA-11 Hall-A(ヴァルハラ)』や、サイバーパンクアドベンチャー『2064: Read Only Memories』といった別のインディーゲームスタジオが作った作品とコラボしており、キャラクターが作中に登場するのです。そして、発売前から『YIIK』は作中の名作として扱われ、やたらと期待を煽ってくるんですよ。

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▲『VA-11 Hall-A』世界だとやたらと売れている『YIIK』
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▲『VA-11 Hall-A』に登場するヴェラのコスプレイヤーと、本作のヴェラ
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▲『YIIK』のほうには、逆に『Va-11 Hall-A』の主人公が登場するコラボも。

しかも、コラボした2作品はどちらも日本で高評価。アドベンチャーとしてきちんと面白く、当然ながら最後のコラボ作品である『YIIK』にも期待がかかるというものです。自分も、発売まで楽しみに待っていました。

『MOTHER』に影響を受けたような世界観やグラフィック! 
村上春樹に影響を受けた(と開発が言ってる)テキスト!
ついでにテーマはポストモダン!
『Undertale』のToby Fox氏や菊田裕樹氏が音楽を提供!
翻訳は有名どころの作品を手掛けた架け橋ゲームズ!

スタッフに関しても盤石な布陣。こんなの楽しみに決まってますよ。自分の場合はポストモダンと聞くと、周囲のブンガク、テツガク的な雰囲気をかじりつつ、カップルばかり成立する出会いの場みたいになっていた文芸サークルからバックれた記憶がよみがえ……やめよう。そういう話は!

とにもかくにも、スタッフは豪華でグラフィックも独特。いい感じだったので、海外の『MOTHER』リスペクトRPGとして楽しみにしていたんです。

楽しみにしていたんですよ……。

時は流れて2019年。発売日にストアから購入し、期待に胸を躍らせてプレイした私の前に出てきたのは、なんというか、口うるさいオタクの友人が『RPGツクール』で作ったような予想外すぎるゲームだったのです。こう、ポストモダンとしか言いようがないというか、う~んオタク!

オタクの友人が作った「独りよがり」なゲーム

最初にぶっちゃけちゃいますが、このゲームをひと言で表現するなら、まさに「独りよがり」。戦闘バランスはグッダグダ。UIは使いづらく、機種依存からハードを超えたものまで、バグでいっぱいです。

村上春樹と糸井重里の脳を摘出してから放置し、肉体のほうに書かせたようなテキストは、回りくどくてアチラコチラに話が飛びまくり、それを完璧に翻訳した架け橋ゲームズのすごさが感じとれます。あまりにもゲームの中身とテキストが自由奔放過ぎたので、途中から「もしかして、架け橋ゲームズは家族を人質に取られて翻訳したのでは?」と思ってしまうほどでした。

オリジナリティのある雰囲気や作り手のこだわり。後半の展開など悪くない部分はあるものの、正直に言ってしまうとRPGとしてはかなり厳しい完成度。JRPGを誤解しているような気もしてきます。たぶん、この形式で長いテキストを読ませるなら、テキストアドベンチャーのほうがあっていたのではないでしょうか。それくらい、普通のRPGじゃありません。

さらに、全方位へリスペクトという名の喧嘩を売るスタイルは、海外を中心に賛否両論。たとえば、さびれた町の墓場に唐突に立つ故・岩田元社長の墓。これは海外で軽く炎上しました。

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▲開発者はリスペクトしているつもりで悪意はない模様。

『ファイナルファンタジー』のエアリスが(勝手に無許可で)出演し、Ⅶと書いている墓を墓参りしているシーンなんて、もうリスペクトが雑!

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なんでエアリスが(著作権を無視して)勝手に登場しているのかというと、一応開発者いわくリスペクトです。ちゃんと物語的な理由もあります。

だから、リスペクトが雑! ゲームだけやっててもわからん!!

さらに『FF』みたいに数が多いという話から、ともすると『FF』批判にも読める演出を持ってきちゃう始末です。しかし、これも開発者に悪意はありません。好きなものを詰め込んだだけ。好きな物を詰め込んだ結果、ちょっと空気が読めてないんです。つまり、我々と同じゲームオタクなんですよ。

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▲英語版だとそのまんまだったので翻訳のナイスアシストが光る
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悪意がないほうが問題もあるような気もしますが、とにかくアレです。オタクの友人が好き放題『RPGツクール』で作ったような中身なんですよ。

だから、これだけいろいろ言ってるんですけど、このゲームが嫌いかというとそうじゃありません。オタクの友人が、早口で自慢しながらプレイさせてきた『RPGツクール』作品のような「独りよがりなんだけど好きなものを詰め込んだ」ゲームを遊ばされて、自分は最終的に「も~しょうがねえな~こいつは~」と言いながら、最後まで遊んでしまいました。ゲームとしてオススメできるかと言われれば、そうですね。その話はまた今度しましょう。

ミニゲームの欠点に一切目を向けていない戦闘

問題はいろいろとあるゲームなのですが、とくに困るのが戦闘なんですよね。RPGの大半は戦闘なので、戦闘が面白いRPGは印象に残るものです。このゲームの場合も、戦闘を楽しくさせようと攻撃や防御、逃走に至るまですべてミニゲームが挟まるという工夫が凝らされています。やりすぎ。

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その結果どうなったかというと、攻撃するときにミニゲームを成功させないと、まともなダメージが通らなくなりました。敵の攻撃時もミニゲームを成功させないと大ダメージを受けてしまいます。全体攻撃を受けたときは人数分のミニゲームを行い、逃走するときもミニゲームを成功させないといけません。とにかく、常にミニゲーム。何をするにもミニゲーム。

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最初は良かったものの、あまりにミニゲームばかりやらされるので段々嫌気がさしてくるという本末転倒なバトルになっています。

もちろん、ミニゲームが入ること自体は悪くないんですよ。このゲームの場合は、ダメージのバランスがおかしいから飽きてくるのです。成功したら1発で倒せるわけじゃない。完全に成功した状態で、初めてまともなダメージが通るのです。さらに、現在は改善されたものの、初期のSwitch版では戦闘に入る前のロード時間も長く、本当に戦闘自体がイヤになってきます。

シンボルエンカウントで章ごとに出現する敵の数が決まっているので、敵を避けることにはメリットがなく、戦うべきなのですが戦いたくない。

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▲主人公のアレックスとエッセンシアだけで戦う第4章では、ほぼ同じミニゲームをやることに
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▲Switchの初期バージョンでは後述するLPスローが役にたたず、戦闘に時間がかかりました

ゲーム中盤から、アイテムの木刀を投げると敵を即死させるほどのダメージが出たり、LPスローという技を使うと敵を一瞬で倒せるくらいのダメージが出たりするのですが、戦闘バランスはグダグダ。LPスローも、アップデートが入るまではSwitch版だと碌なダメージが出ませんでした。酷い。

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基本的に鍛えても2ケタのしょぼいダメージしか出ないのに、木刀投げだけ常に3ケタ超えます。なんなの。なお、敵にヒットしたときに出る数値も最終的な合計ダメージと連動していないので、画面に出る数値は謎です。テキストウインドウ内のダメージ表記だけを信じましょう。なんなの。

その反面、音楽は最高に素晴らしいです。戦闘曲のバリエーションも多く、そういう意味では毎回ワクワクしてきます。しかし、使い方が雑。曲が流れる法則性がよくわかりません。同じ敵と同じ場所で戦っても、敵パーティの並び方で曲が変わっちゃったりするし、せっかくのToby Fox曲を汚いウンコとかの戦闘に使うので、すごくもったいない。もったいなさすぎる。

なんでそんなに流れる場面が適当なんだ!

リズムゲームっぽいミニゲームも、別に曲のリズムとは全然関係ないですし、なんというか『マリオ&ルイージRPG』とか『シャドウハーツ』みたいなミニゲーム戦闘を、試しにやってみたかっただけ……という感じがしてきます。あまりにも、もったいない。う~ん、ポストモダン。

謎のレベルアップシステム「マインドダンジョン」

RPGと言えば成長もお楽しみ。本作の場合は、経験値をためたらセーブポイントから「マインドダンジョン」と呼ばれるダンジョンに潜って、各パラメータに対応した扉を開けていくことでレベルアップします。

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ある程度経験値をためてから行ってもいいのですが、基本的には1~2レベルあげるために、毎回マインドダンジョンへ潜るわけです。扉を開けてパラメータを上げてカラスに話して下の階に降りて、扉を開けて降りて……物語的な意味はあるのですが、これを繰り返さないとレベルが上がらないのが、じつに面倒。遊ぶ人のストレスとかまったく考えていません。

も~ポストモダンすぎるんだから~。

う~んポストモダンとしか言いようのない物語

ストーリーは賛否両論あるのですが、とにかく人を選びます。ナチュラルに差別的な発言が飛び出す主人公アレックス。最終的に成長するとはいえ、彼自身の性格についていけない人もいるでしょう。とにかくブツブツブツブツ独り言が激しい。物語として意味があることはあるのですが、モノローグが多すぎる。RPGというよりはアドベンチャーのテキスト量です。いらんテキストが本当に多い。ここら辺もオタクでう~ん、ポストモダンって感じ。今回の記事は、困ったら全部オタクかポストモダンって言おう。

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▲しれっと差別表現が出てくるのですが、1999年の雰囲気を再現しただけで差別的意図はないはず

物語はヘンな所で現実的な描写を挟みつつ、仲間集めをしながら世界が崩壊するのを食い止めるためなんとかがんばる感じです。もっとグダグダしてるのですが、まあそんな感じだと思ってください。村上春樹っぽい会話をしながら糸井重里風な世界で、女神転生みたいな世紀末な話をしてます。面白くなりそうなところもあって嫌いじゃない場面も多いのですが、思いつきで入れて投げ捨てたような展開も多く、なんか全体的に散漫なんですよね。

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ここらへんのマインドダンジョンをめぐる展開とか、これからどうなっていくのかワクワクするんですよ。結果的に、あんまり物語として意味がなかったというか、もうちょっと意味がある展開にできなかったのかな……?

ちなみに、ストーリーを進めていくと世界崩壊までのカウントダウンが始まり、いきなり『ペルソナ3』のようなカレンダー進行のゲームになるのですが、これは開発者が『ペルソナ3』に影響を受けたのかもしれません。ただの思いつきを詰め込みすぎている! なんでもかんでも入れないで捨てろ!!

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▲仲間との交流かレベルアップ、イベントをこなすと1日が経過。突然『ペルソナ』っぽくなった

このカレンダーシステム。期日までに鍛えまくってレベルを上げるのが目標なのですが、現在2つあるマルチエンディングのうち、片方では最後のボスに勝つ必要がなく、もう片方は戦闘すらないので鍛える意味はありません。

思 い つ き で つ く る な !

う~ん、もうポストモダンなんだから~。

ゲームは芸術なのかそうじゃないのか

このゲーム。本当にゲームとして考えるといろいろ困るんですよ。何をするにもワンテンポ遅いUIや、翻訳漏れにバグ。あちこちがガッタガタで、雨漏りしているようなゲームです。好きな物を取捨選択しないで詰め込んだ結果パンクしてます。リスペクトの雑さで炎上し、海外で論争となり、とにかくムチャクチャなゲームです。どう考えても普通のJRPGではありません。

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▲グラフィックや世界崩壊の日の演出など、すごく好きな場面もあります

普通ではないのですが、自分は最後まで遊んでしまいました。なぜなら、本作は「製作者がやりたいことを詰め込んだ結果、ガッタガタになった」ことがわかったからです。わかったというか、製作者がTwitterのDMを通して日本のユーザーに直接語りかけてきたり、ポッドキャストで誤解を解くためにメッセージを発信していました。作者の主張が激しい! 強すぎる……。

取捨選択できていないし、ユーザーが快適に遊べるか考えてない。製作者がしたいことだけ詰め込んだ。ついてこれるやつだけついてこい。低評価されてもいい。でも低評価にしたら怒る。そんなパワーに満ちています。

その結果、なんだかよくわからない怪作が生まれてしまいました。うん、いいじゃないですか。そういうオタクは嫌いじゃないですよ。ただ、ゲームとしてオススメできるかと言えば、そうですね。ポストモダンだと思います

このゲームの良くない評価を聞いた開発者が「ビデオゲームは芸術だと思っていた」とユーザーに対して反論しているなど、やたらとゲームの外で燃えているタイトルではあるのですが、何てことはありません。ようはカッコいいことを詰め込みたいオタクのゲームなんですよ。ポストモダンですね。

芸術なのかゲームなのか、そんなことよりも、やっぱりこれはオタクの友人が作って「明日の朝、登校するときに感想を教えてよ?」と無邪気に言ってくるタイプのゲームだと思います。そこに悪意はないのでしょう。

私も最初は、いろいろとこのゲームのテーマとかメッセージを試行錯誤して考えていました。マルチエンディングに対する考察などもしています。

でも、今の結論は「オタクが好き放題作ったゲーム」ですね。ここら辺で考察したメタフィクションや過去作キャラの発言などは全部入れたかっただけで、そこまで深い意味はないと思っています。いや、芸術的な意味があるとは思うんですけど、うまく機能しているかというとポストモダンですね。

オマケ:第3のエンディングについて

このゲーム。2つのエンディングがあるのですが、開発者いわく3つ目のエンディングがあるそうです。現時点では誰も見つけられず、PC版を解析した海外のユーザーは「そもそも入ってないんじゃない?」と言っていたりする非常にうさんくさいものなのですが、先日のアップデートでPC版には10%の確率で見つかるヒントが追加されたようです。Switch版で確かめた人は自分も含めてほかにもいますが、Switchの日本語版ではまだヒントすら出てきませんでした。スイッチ版……入ってないでしょ? 入れてないんでしょ? 

そもそも、おそらくPC版もヒントだけ入れていて第3エンディングなんて現時点では存在していないと思います。この時代にあるかもしれないものを探させる……という昔のゲームみたいなことをしたかっただけなのでしょう。

それはそれでおもしろい……って言うと思ったか! 開発の人たち、たぶん中学校のときに「すいちゅうこきゅうのマテリアを使えばエアリスが生き返る」って友人にデマを流したタイプでしょ! ないんだろ!!

そういうところも含めて、今現在もリアルタイムで楽しめる。
とてもポストモダンでオタクなRPG。それが『YIIK』なのです。おわり。

でも、ありもしない第3エンディングを探させるのはやめてください!

【追記】

そして、時は流れて2021年。じつは『YIIK』の開発者はゲームを良くすることを諦めてはいませんでした。なんと、ファンコミュニティ(Discord)で意見を募集し、改良されたVer1.25のアップデートが入ったのです。ミニゲームの簡略化や追加イベント。「アレックスのモノローグが減る」モードなどが入り、尖っていた部分がだいぶマイルドに近づいている感じを受けます。

スクリーンショット (2979)

ちなみに、どうやら一番下の???は「アレックスがまったくしゃべらなくなるモード」みたいです。サイレントモード。一生黙っちゃう。極端から極端。

戦闘バランスも変わり、インチキ技だったパンダバリアやLPスローも弱体化しました。ほかにもいろいろ変わっているのですが、まだver1.25。本格的なアップデートはVer1.5らしく、第3エンディングの有無も含めて本番はそこから。どうやら、まだまだ『YIIK』は我々を楽しませてくれそうです。

一応Ver1.25の次点でもいろいろと変わっているのですが、まだ途中経過のアップデート。やはり、本番はVer1.5みたいですね。だから、本来ならすぐに遊ぶ必要はない気もするのですが、自分は変更点を確かめたくてSwitch版の配信が待ちきれず、Xbox版を遊んでいました。あくまでも『YIIK』なので人を選ぶゲームなのには変わりありませんが、モノローグが減るだけでもずいぶん印象が変わりますね。だいぶ普通のRPGに近づいたんじゃないかと。ただ、気づいてしまったんですよ。『YIIK』には、普通は似合わないと……。

あれ? なんか、このゲーム。いつの間にかかなり好きになってないか!?

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