見出し画像

キャラの掛け合いは悪くないが、ヒロインが村人を虐殺していく逆FE展開のインパクトが絶大な『Rise Eterna(ライズ・エテルナ)』

自分はストラテジーやS・RPGが好きで、インディーゲームでもそうした作品が出るとついつい遊んでしまいます。最近は、小粒な良作も多く配信されており、Nintendo Switchなどのコンシューマーにも出ていて気軽に遊べるのがうれしいところ。たとえば、シンプルながらバランスが取れたバトルと、明るく気持ちの良いストーリーが魅力的な『PIRATES 7』は好きなタイトル。

ほかにも、横スクロールのシミュレーションRPGという一風変わったアイデアながら、しっかりまとめ上げていた『Magic Scroll Tactics』も遊んでみて良かった作品です。どちらもSwitchに移植されていてオススメしやすい。

そんな自分が前々からひそかに注目していたのが、今回紹介する『ライズ・エテルナ』。開発は、フランスのデベロッパー・Makee。販売はポーランドのパブリッシャー・Forever Entertainmentが担当している海外の日本風S・RPGです。Forever Entertainmentは『パンツァードラグーン:リメイク』も出しているメーカーですね。フランスとポーランドの会社がタッグを組んで開発された本作は、Switch版が2021年5月13日に発売されたばかりの新作。

海外のゲームではありますが、往年の日本製シミュレーションRPGに影響を受けており、『ファイアーエムブレム』『タクティクスオウガ』『ファイナルファンタジータクティクス』に敬意を表しつつ、現代的にアレンジしたという謳い文句。イラストのクオリティやドットも16ビット時代のS・RPGらしさがあり、個人的にも期待していました。東京ゲームショウ2019で少しだけプレイしたのですが、本当に少しだけでシステムや内容の細かい確認はできなかったものの、画面から感じる『ファイアーエムブレム(FE)』っぽさに期待が高まり、発売と同時に購入。フリーバトルをやらず、本筋を追いかけて一気にクリアしました。ううん、期待には応えられてないかな……。

結論から言うと、物語もシステムもまったく『FE』ではありません。

どちらかというとPS時代によくあったキャラゲーのS・RPGや、昔のアイデアファクトリーやその他の会社で出していたマイナーな方向性のS・RPGといった、1軍のゲームではない懐かしさ。主人公側が強すぎる大雑把なバランスのS・RPGなので、バランスやシステムはリスペクト元のどれにも似ていません。ストーリー上の翻訳は問題なく、キャラクターの掛け合いは良かったものの、オープニングから翻訳ミスがあり、スキルやアイテムの説明文が間違っているといった不安になるところも。システムメッセージの翻訳が今一つ怪しい。アイテムを拾うたびに「何も」と表示されるのは、なぜ……? (追記:Ver1.01アップデートで、オープニングとアイテムを拾った時などの翻訳が修正されました。ストレングスエリクサーがヘルスエリクサーと同じ説明だったり、スキルの効果が間違ってるものも一部残っています)

画像1

往年の手ごわいシミュレーションな『FE』を求める人にはオススメできませんが、PS時代のキャラゲー的な感覚で遊ぶとなんだか妙な魅力を感じてしまう。今回は、そんな『ライズ・エテルナ』について語らせてください。

主人公とヒロインが率先して村人を虐殺していく逆FE

このゲームにおける最大の魅力(と自分が感じている)部分にして、一般的には問題点として取られそうなのがシナリオ。本作では、アスラシア帝国の侵略を受けて荒れ果てたアルス・レア王国を舞台に、自らの謎を解き明かそうとするヒロイン・ルアと、盗賊に身を落とした元王国兵・ナシールの旅が描かれます。やる気をなくして「やれやれ系」なくたびれオッサンと化した凄腕の傭兵と、彼に噛みつく犬みたいな少女。キャラクターの掛け合い自体は良く、ルアに軽口をたたいたり、わざと女性口調でおどけてみたりしながらも頼れるナシールは、日本のS・RPGインスパイアな主人公らしいです。それに対して切り返すルアも面白く、キャラの立て方はなかなか好きなほう。

画像2

仲間たちも個性的です。すぐにスパイだとバレるジャグや、過去にナシールを裏切ったことで信用されず、敵の将軍と対決する場面でもすぐ寝返ろうとした挙句に、作戦だと言い張るシルフェン(親友というスキルまで持っている)などなど。加入する期間や物語は短めながら、どのキャラクターも印象に残ります。ここら辺は、日本の作品のインスパイア感ありますね。

問題は仲間が加入する中盤までの流れ。このゲームの中盤までにあるイベントが、日本のゲームだとありえない展開です。罪のない村人が殺されて旅立つのはJRPGの伝統みたいなところがありますが、このゲームは逆。罪のない村人を主人公側が虐殺していきます。ルアの姉妹(と呼ばれる4人の少女たち。それぞれ血は繋がっていない)を集めるため、彼女たちを匿う村人たちの制止を振り切り、姉妹を連れ出していくという流れなのですが、その段階で容赦なく村の老人や若者を虐殺していくんですよ。たとえば、日本のゲームだと手加減して、村人が「とほほ~、仕方ない娘を頼みますよ~」といった軽い感じで終わると思うじゃないですか。このゲームでは皆殺しです。

罪もない人々が住む村は敵に焼かれるものであって、主人公たちが焼くものではないという常識にとらわれていたので衝撃でした。いや、シナリオを書く人は、その常識のほうを持ち合わせていたほうがいいんじゃないか……?

画像4

村人を虐殺した理由自体も語られることは語られるのですが、よろよろとおぼつかない足取りで鎌を持って攻撃してくる老人や、村の女性に至るまで容赦なし。クリア目標が全滅なので、村人を虐殺するしかない。盗賊だと誤解されて「俺たちは盗賊じゃない!」と言いながら戦う場面もあるのですが、村を襲って匿われている少女を連れ出し、そのついでに(ゲームとしてのシステムに組み込まれているから)村の宝箱や落ちているアイテムを根こそぎ持っていくことになるプレイヤー。それって、むしろ盗賊以下では……?

画像4

村の皆を守るために戦った長老を悼む双子の少女・ジョアン。日本のゲームでもよくありそうな場面ですが、彼女が暮らしていた村の皆とカムリン長老を虐殺したのは左にいるヒロインなので重みが違います。でも、それは仕方のない犠牲なのです(そんな感じのことを右のオッサンから言われる)。

日本の作品にインスパイアされたはずなのですが、やっていることがあまりにも『ファイアーエムブレム』とは逆。勧誘方法の豪快さや、それに対する反応の軽さは中国の古典文学みたいなものです。目的のために容赦なく村人を虐殺していく主人公と、村の家族を皆殺しにされても復讐心を持つわけではない少女たちが織り成すシナリオは、往年の日本製S・RPGをリスペクトしたと言われても驚く強い独自性。どう考えても『ファイアーエムブレム』ではやりません。普通は、村を守るほうですよ。ゲーム中で主人公が立ち寄る村の大半を主人公が滅ぼしていく展開なんて、やれるわけがない。いわゆる昔の一般的な『FE』を求めていた人は、ここで「なんかおかしくない!?」と引いてしまうかもしれませんが、この際立つシナリオの個性は嫌いじゃありません。仲間同士の関係性も好きなので、キャラが気に入ればヘンテコな展開もあまり気にならない……かな。いや、気にはなるけど、気にするな!

システムメッセージやオープニングは間違いや翻訳漏れが散見されてボロボロですが、物語自体の翻訳や掛け合いはうまく訳されていて本筋だけ見れば王道でテキストも良好。それだけに珍妙な展開が目立って忘れられなくなります。自分はもう、これはこれで好き。『ライズ・エテルナ』らしさです。

画像5

決戦前に、戦いが終わったらどこに住みたいかという会話で故郷を自慢する流れがあるのですが、そこも中盤の展開を経たことでトンチキに。ルアの姉が故郷の村・ヘングェムの話をして「人が優しい」と褒めた後の会話のノリが軽い。「村人を皆殺しにしちゃったでしょ」「ああ、そうだった……」って、軽いギャグみたいにしていいの!? 命が軽すぎません!? こうしたツッコミどころとまともに面白い掛け合いが同居して、不思議な気持ちになるシナリオです。『FE』だとは思わずに受け入れるほうがいいんじゃないかな。

 経験値も武器もなく、適当なバランスで大味な育成

見た目が『FE』風のシミュレーションRPGなので、システム面でもそれを求めて遊ぶ人がいそうなのですが、まず気を付けたいのがこのゲームはまったく昔の『FE』でも今の『FE』でもないこと。武器の概念や経験値は存在しません。敵を倒しても、手に入るものはほぼなし。ボスを倒した時にアイテムが手に入るか、扉や宝箱の近くにいる敵を倒した時に鍵を落とすくらいで、戦闘のメリットは少な目です。メインストーリーでも、ボスを倒して脱出地点に移動すればクリアできる場合が多く、すべての敵を倒す必要はなし。レベル上げは存在しませんが、育成要素自体はあります。宝箱や採集地点から手に入れた「宝石」を装備することでパラメータが上昇。これで各キャラクターの能力を強化できます。防御を上げると被ダメージが減り、敏捷を上げると回避率と命中率が上がるので優先的に上げると楽に戦えるでしょう。

画像6

楽に戦えると言えば聞こえはいいのですが、実質的にほぼ無敵になります。ナシールの防御を上げるとザコの攻撃はノーダメージとなり、ボスだろうがいっさい攻撃が通りません。敵が隣接することによってサポートによるボーナス補正も発生するのですが、普通に宝石を装備して育成していれば補正によって攻撃が通っても雀の涙。序盤から無敵の主人公が無双していくゲームとなるので、だいたいここでゲームの底が見えてしまうんですよね……。弱い味方を出撃させるメリットも皆無で、ゲームバランスは自力で縛らない限り破綻気味。後述しますが、育成するとキャラクターによっては射程範囲も伸ばせるので、ラスボスですらノーダメージで射程範囲外から倒せます。

画像7

マップ自体は『聖戦の系譜』を参考にしたのかやたらと広く、敵の数も宝箱も採集できるアイテムも多いので、せん滅作戦になりがち。「反撃」もあることにはあるのですが、ヒロインのルアが持つスキル以外では超低確率で発動するので、基本的にはないも同然。なので、ゲームの仕組みを把握していない1周目は、非常にテンポが悪く感じられます。採集ポイントの配置が適当なのか、山に囲まれた地点(敵も味方も誰も侵入できない)に発生していたマップもあって、あまり考えられたマップ構成ではありません。

なにより不味いのは、敵は射程内に入らない限り動いてこない仕様。序盤からラストのマップに至るまで、こちらが射程内に入らない限り絶対に侵攻してこないので、待ちの戦法は不可能です。射程ギリギリに陣取ってみんなで攻めるのも良し。ノーダメージおじさんの単騎特攻でも良し。楽勝です。

この仕様により、弱い味方は射程に入らないようにしながらアイテムを採集し、攻撃が通らなくなるまで鍛えた味方がノーダメージで進行するという作業になりがち。序盤の最適解は「止血剤を持ち、防御が上がる宝石などを装備したナシールがノーダメージでぶん殴る」という雑な感じで、中盤以降は「確定反撃&クリティカルを出せるスキルを持ったヒロインがザコを狩りつつ、射程外からボスを弓使いが仕留める」という戦略も何もないゲームとなります。合成できるアイテムや、多彩なスキルがありますが、使う必要はありません。フリーマップで鍛える必要もなし。むしろ、鍛えたらもっとヌルくなってしまうと思います。しかも、隠された3人の仲間を加入させる条件がフリーマップなので、必然的にフリーマップを探索してしまうというサイクル。まかり間違っても、手ごわいシミュレーションではありません。

敵によるダメージがいっさいなくなっていくことに開発側も気づいていたのか、このゲームでは最強の敵として各種トラップが存在しています。トラップは見分けることも解除することもできず、効果をなくすには1度引っかかるしかありません。狭い通路や宝箱の隣にはだいたい仕掛けられており、最終的にはプレイヤー側がダメージを受ける要因がトラップ+それによる状態異常のコンボしかなくなります。トラップに乗ってしまうと行動がキャンセルされるのも痛い。最強の敵はトラップ。あまり細かく自由に移動ルートを選択できない系のS・RPGで、あちらこちらに配置するはやめてください!

画像8

このトラップによる状態異常が痛いので、止血剤や解毒剤などがあったほうが安心できるわけです。どうも、状態異常のダメージだけでは死なない(トラップに引っかかった時のダメージは死亡判定がある)ようなので、回復アイテムがなくても行けそうな気がしますが、あったほうが安心。正直、S・RPG部分はフレーバー。掛け合いを楽しむ昔のキャラゲーですね。

強すぎてゲームを破綻させているヒーロースキル

育成要素は、もう1つあります。それが「スキルツリー」。ステージクリアごとに1ポイント入手できるスキルポイントを使ってスキルを覚えられるシステムです。スキルは宝石の装備数などを増やせる一般スキルと、各キャラクターごとに用意されたヒーロースキルに分かれており、ヒーロースキルを育てることで戦闘中に専用コマンドが使えたり、特殊効果が発揮されます。

画像9

キャラクターによってはヒーロースキルが非道なまでに強すぎて、ゲームバランスを壊す一因に。たとえば、弓使いのソティは初期の状態で射程範囲が4もあるのですが、ヒーロースキルによって最大7の射程になります。敵の射程外どころか移動範囲の遥か外から狙い打てますし、 このゲームには「壁越しに攻撃するとこちらの攻撃は通るが、射程範囲外なら敵は気づかない」という仕様があるので壁の外から一方的に攻撃できます。ソティが最強。長射程に加え、移動力も高く、二回攻撃を覚え、確定でクリティカルを出せて、攻撃後に移動もできるようになるので、敵にやられるわけがない。間違えてトラップに引っかかったあと、1%のクリティカルが当たるとか、そういう不運でも重ならない限りは、まず敵の攻撃が届くことすらありません。このゲームは宝石を装備して敏捷を上げるだけで命中率も100%になります。

画像10

誰でも手軽にシミュレーションRPGっぽさを味わえるという意味では、往年のキャラゲー的な感覚もあって、これはこれで嫌いではありません。『FE』ファンにはオススメしませんが、大らかな目で楽しむゲームだと思います。S・RPGが元気だったころに、各社がこういう後追いでいろいろ出していたのを思い出すゲームというか……。感想を漁っていくと「FEの良いところを削ぎ落した」なんて辛辣なものもいくつか見かけますし、宣伝からもFEを求めてしまいがちなのですが、そもそもFE要素が最初から入ってないので別物。S・RPGは基本システムと数値のバランスが大切だと実感させてくれます。

UIも気になるところ。キャラクターにカーソルを合わせていないと出る全体メニューで「ターン終了」が一番上にあるのですが、押した瞬間に確認のメッセージすら表示されずにターンが終わってしまうので間違えて押すことがありました。間違えても死なない難易度なので問題はありませんが……。

画像11

「マップの最初から始める(マップの最初に戻る)」「降参(マップから脱出する)」「保存して終了(中断セーブを作って終了する)」と中断の方法が3つもありますが、これも「降参」と「保存して終了」だけで十分かな。「マップの最初から始める」は使ったことないぞ……。中断セーブは再開すると消えますし、ほかのデータをロードしても消えてしまうのですが説明はありません。セーブデータ自体も、中断セーブが一番下にあって区別しにくいです。間違えて通常データをロードしないように気を付けましょう。

1周目のクリアまでは、フリーバトルをやらなければ長くても10時間程度。今は隠された仲間を探しながらフリーバトルを満遍なく調べて2周目をプレイしているのですが、おそらく20時間かからずにクリアできると思います。ガチガチの加賀さん時代な『FE』ではなく、大らかな時代の大らかな内容とバランスのS・RPGが好きな人。システム面はどうでもいいので、上で紹介したストーリーや少女とおじさんのコンビが好きな人なら、そこそこ楽しめるはず。電灯だと言われて近づいたら誘蛾灯だったと思われても保証はしませんが、作り込まれたドット絵やキャラクター。妙なストーリーが忘れられず、自分はなんだかんだと2周目も遊んじゃってるくらいには好きですね。

ゲーム代にあてます