『SpaceExcavators』をファングッズではなく、ゲームとして評価する難しさ

※2021年1月29日に配信停止となり、現在は購入できません。

谷口悟朗監督と、スタジオ三次元が手掛けたアニメ『ID-0』。
そのファングッズとして作られ、コミケで先行販売されていた横スクロールシューティング『SpaceExcavators(スペースエスカベイターズ)』が、ついにSteamで発売されました。
 
自分も購入してプレイしたのですが……。
どうにも、モヤモヤした気持ちがたまってしょうがないので、
記憶が薄れないうちに備忘録として記すことにします。

ちなみに『ID-0』自体は評価が高いロボットアニメなので、
このゲームの評価とは切り離して考えていただければと。


レトロゲームってなんなの?


ところでみなさん、「レトロゲーム」はお好きでしょうか。 
あ、本当に古いゲームのことじゃありませんよ。最近流行りのレトロ風なゲームのことです。往年のようなBGM、ドットによるグラフィック。苛烈なゲームバランスなど、当時のゲームの良さをうたって出てくるゲームのことですね。今まで秘密にしていましたが、私も大好きなんですよ。

とくに、どう見ても当時のレトロゲームじゃないものが!
ファミコンの色数じゃ難しいドット絵!
特殊音源積んでも出ないようなBGM!
難しさと不親切をはき違えたゲームバランス!
雑&雑が織りなす「どの時代にも存在しないオーパーツ」的な存在!
ゲーム時空の狭間に落ちてしまったこの世のどこにもない「レトロな時代」を切り取った、そんなゲームが好きで好きでたまらないのです!!!!

ああ、すみません。いきなり取り乱してしまいました。
意外なところをお見せしてしまったかもしれません。
さて、話を『SpaceExcavators』に戻しますが、そんな「レトロゲーム」好きな私は、よくSteamなどを覗いてレトロゲームを探すわけです。すると、どうでしょう。目に飛び込んできたじゃないですか。レトロゲームの文字が!

いつの時代のレトロゲームなのかよくわかりませんが、公式がそういうのだから仕方ない。ゲーム画面はPCゲームの雑誌についてきそうな感じですし、調べてみるとコミケで売られていたパッケージは「ファミコンカセット風」。さまざまな時代の迷い子となったオーパーツが寄り集まった超好みのゲームじゃないですか。こんなの買わないわけがない……!


遊んでみたら予想以上にきびしかった


8月16日。配信日に2160円という予想外の値段にビビりつつも購入。なぜ、こんな値段なのかといえば、コミケで売っていたパッケージ版と同じ値段だからですね。Steamだとパッケージイラストも同梱されていないので、ファングッズとしては微妙かもしれませんが、ゲームとして気になっていたので問題なし。公式が、配信日に空のフォルダを配信して2日間ほど遊べないというポカをやらかしたものの、そこはそれ。遊べればいい。公式が告知しなかったのはどうかと思ったけど、終わったことなので忘れよう。そんな気持ちでプレイを始めたら20分で終わりました。調べ物を含めて28分。短い。

いや、短くても面白ければいいんですよ。
事実、20分の短いステージでも「私が求めるレトロゲーム成分」は濃厚にありました。世の中が求めているかどうかはわかりませんが。

というか、かなりチグハグなんです。『ID-0』の公式ゲームなので、ちゃんとステージ開始時に原作のキャラクターが掛け合いをするし、主人公やヒロインはもちろん、一瞬しかしゃべらない人もちゃんと会話に入ります。

ラスボスも一瞬しかしゃべらないですし、倒しても無言で爆発。
原作を知らない人にもネタバレをしない優しさ! 記憶がどうのとか突然言い出すのは原作を見ようという配慮です。レトロなキャラゲーっぽい!
顔グラフィックも頑張ってるというか公式だから当たり前なんですけど、ちゃんと原作っぽくなっていると思います。公式だから当たり前なんだけど。

かと思いきや、ゲーム部分ではペイントで描いたような敵が襲ってくるので初めて遊んだ人はビックリするのではないでしょうか。

スタッフロールを見るとプログラムとグラフィックが同じ人で、ほぼ1人で作ったようなゲームだから仕方ないのかもしれませんが、このチグハグ感がたまりません。公式ゲームとしてSteamで配信されている事実もよい。

自分は、右上にあるペイントで描いたような「砲台」と、その下にあるパワーアップアイテムの銃器か何かと思って取りに行ったらただの障害物だった「残骸」が好きですね。


ゲームの難易度は、シューティングにしては簡単。敵の弾の飛び方も適当ですし、攻撃も激しくありません。自分はそこまで得意なジャンルではないですが、弾幕もラスボスが最後の最後に撃ってくるくらいなので、コントローラーで遊んでいればサクサク進めてしまうと思います。

そんなわけで、20分でクリアできました。

じつのところ、最初は滅茶苦茶楽しんでいたんですよ。
全然レトロじゃない部分も含めて。
でも、我に帰ったらこのクオリティのゲームをアニメ会社が2160円で売るのかと思ってしまったんですね。で、ちょっとクリア後に怒ってしまったのです。ゲームとしてぼろくそに貶そうかとも考えたくらいだったのですが、しかしよく考えるとファングッズとしてはアリなのではないかと。

このゲームを単純に「シューティングゲーム」として評価していいのかなと、悩んでしまったんですよ。これはファングッズなのではと。

当たり前ですが、このゲームは味方や敵の見た目も再現されてます。
ステージ1のボス戦は、縦に噴き出してくるミゲルストーム(マグマみたいなもの)を避けながら(避けなくてもだいたい中央にいれば安全)オリハルト鉱石の周囲を攻撃しながら採掘するというもので、これはちゃんと原作を意識したボス戦なんだな、と気づきました。面白いかどうかはともかく。

 相棒のIマシンも切り替えられるし、使い分ける意味があんまりないということを除けばちゃんとキャラクターゲームではあるんですよね。アリスがどうのこうの言ってるのにアリスがいっさい出てこないとか、ステージ開始時の会話が短すぎて、いきなり最終決戦しだす辺りもファングッズ。

このゲームは障害物を壊すとボムや相棒が手に入るのですが、相棒の攻撃が強いのもいいですね。一度手に入れればオプションのようについてきて、プレイヤーが攻撃しなくても勝手に敵を倒してくれます。ボス戦で試したら攻撃を避けているだけでボスを倒してくれたので、シューティングが苦手な人も安心です。回避に専念すればいい。まあ、自分も攻撃したほうがより安全ですが、こういう縛りプレイもできるということです。面白(以下略)。

なんの説明もなかったので、今スクショを貼ってはじめて3面のボスがアマンザ機だったことに気が付きましたが、一応原作のキャラやメカがちゃんと出てくるので、コミックマーケットでパッケージイラスト付きのファングッズとして販売しているなら、その場の空気やノリで買うものとしては許されるものなんじゃないかなとも思えるんですよね。ファングッズとしての価値が2000円くらいで、ゲームが160円(Steamにはこういう感じのゲームが100円で売られているので)とすると、適正価格なのかもしれません。ファン以外がSteamで買った場合の価値の保証はできませんが。『ID-0』のファングッズとして考えるなら、これはそういうものとしてアリなのでは?

ちなみにハイスコアも記録されますが、ステージごとにリセットされますし、クリアするたびにステージを選択するシステムなので周回稼ぎなどはありません。そもそも、出現する敵も少ないから1つのステージでスコアを稼ぐにも限界がありますね。なぜなの。意味なくない?

でもこれをレトロゲームって言っていいの?

なんだかいろいろ雑なところもあるけどファン向けのミニゲームなら100歩も1000歩も譲れるのですが、問題はSteamに出てきてしまったことなんですね。Steamのゲーマーたちに対して(海外にも)これを売る時点で、ファングッズだけではなくゲームとしても評価せざるを得ないわけです。で、ID-0要素を抜いてゲームとして評価すると……。

公式でうたっている「レトロゲーム」としても、正直私が大好きな方向の「レトロゲーム風」なので、これを「レトロゲームとしてのシューティングを求める層」に投げるのは、いささか危険球かなと……。

私はジキル博士とハイド氏みたいな二重人格でゲームを楽しんでいるので、ジキル博士の意見を言うと「コミックマーケットで出すだけなら、アニメ会社がこれを「レトロゲーム」と言って出してきても問題(ありそうだけど)ない」と思います。ただ、ちゃんと売るならば、インディーゲームを作っている個人と手を組んでもいいので、本格的とは言わないまでも「レトロゲーム」を作ったほうがよかったのではないでしょうか。ガワ(パッケージ)だけレトロ風にするより、アニメ会社とゲームがもっと歩み寄れるチャンスだった気がするので、ちょっともったいないと思います。低予算でも、そういうところをいい加減にしちゃうのよくないですし、ID-0という気合の入ったアニメを作ったなら、なおのことグッズでも気合を入れるべきではないでしょうか。そこまでの予算が出ない、軽い企画だとは思うのですが……。

なお、ハイド氏側の意見としては、こういうレトロゲーム大好きですね!
よく考えたら、自分の大好きなタイプじゃないですか。

というわけで、このゲーム。冷静にゲーム単体として評価するのはすごく難しいものでした。自分はファングッズとして2000円、ゲームとして160円という評価に落ち着きましたが、やはり短すぎることと、敵の攻撃が激しくないこと。ボスがほぼいないことなど、シューティングとしては雑な部分があることがネックですね。現状の価格でオススメするのは難しいです。

仮にオススメしても、30分か1時間でクリアできてしまうので返金されてしまう可能性がありますし……。Steamは、2時間以内のプレイで2週間以内に返金を申請すれば全額かえってきますから、そういう意味でもパッケージイラストをつけるなどの付加価値が必要だったと思います。

というか、自分もクリア直後は流石に返金を考えたくらいでした。「ファンなら買い」と言いたいところなのですが、イラストもついてないので……。

しかし、今は違います。

冒頭でモヤモヤした気持ちがたまったと書きましたが、備忘録として記すうちにハイド氏の気持ちが勝ってきました。今は返金できないように2時間以上楽しむ方法を探すつもりです。つい先ほども、飼い猫にコントローラーを押させて猫に遊ばせる縛りプレイをしていました。

逆に考えてください。アニメ会社じゃなければ、今時こういう「レトロゲーム」を出してくるメーカーは希少ですし、非常に貴重だと思います。そうだ! もっと! もっと! こういうレトロゲームがボコボコ出てくる状況を楽しみたい!! 私の幸福のために、みんなゲームをバリバリ出すべきなんです! 続編もお待ちしています!! というわけで以上です!


次回のテーマは、みんなが知らない「プレゼントでベンツがもらえた(という話だった)アプリゲームのその後。じつは存在していた2作目」の話をする予定ですが、日和ったらしません。ごめんね。(追記:いろいろ調べて日和ったのでしませんでした)

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