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『Fit Boxing1』のベルナルドを騙しつづけている。彼は2に移った俺を知らない

自治体が無料で行っている健康診断を受けたら、体重の増加で役所の栄養士さんにしこたま怒られたので『Fit Boxing2』を続けている。

出来ない日もあるが、そこそこ続けているので1か月で2キロほど瘦せた。もともと、学生時代に45kgだった体重が社会人になって75kgになり、流石に体重が増えすぎたこともあってたまにダイエットするのだが、70kgまで落ちたあとにまた戻るのを繰り返し、我ながらこらえ性のなさに飽きれていた。

「痩せるための運動をして欲しいのですが、どれなら続けられますか?」

呼び出された会議室で、栄養士さんに詰められて私は悩んだ。

「ゲームなら続くと思います」
「では、Fit boxingをやりましょう」
「あ、それならすでに持っています」

というわけで、途中で投げ出していた『Fit boxing』を続けることになった。販売が終了した1ではなく『Fit Boxing2』のほうが最新ということで、そちらを起動しつつも、たまに『Fit Boxing 北斗の拳 ~お前はもう痩せている~』も遊んでいる。こちらはボス戦が楽しいので「激闘-バトル」モードばかり遊んでいる。体力に余裕がある時だけ、北斗神拳の伝承者となっているのだ。

しかしながら、本命のほうは『Fit Boxing2』である。時間の合間を縫って、ベルナルドとともにダイエットに励む日々だ。その甲斐もあって1か月で2kg痩せた。このまま頑張って3年続ければ、俺は0kgになるだろう。空気と化すのだ。バカの計算である。

それもすべて、ゲーム中のインストラクター・ベルナルド氏のおかげなのだが、ただ1つ気が付いてしまったのだ。もう『Fit Boxing1』のほうは起動することがないという事実を。続編の2は完全上位互換なのである。販売が終了してしまったことからもわかるように、もう2だけでいいのだ。

なぜだか寂しくなり、私は1を起動した。

「どうした? 久しぶりじゃないか!」

そこには、毎日会っているのに私を知らない1のベルナルド。1ナルドがいつもと変わらない笑みで待っていた。なぜだろう、心が痛んだ。

しかし、私は『Fit Boxing2』を遊んでいるので、もうヘロヘロだ。これ以上のダイエットゲームを遊ぶ余裕は体にない。フリーモードを起動してみたものの気分が乗らず、横になって流れるアイコンを見た。

ふと思った。ジョイコンを適当に振ったら反応するんじゃないか。

私は寝転がったまま、ジョイコンを雑に振ってみる。

成功した。



褒められた。

1ナルドは、自分がきちんと動いていると信じたまま、私を褒めてくれたのだ。そのままジョイコンを雑に振り続け、フリーモードを終える。よく動けていたと褒めてくれる1ナルド。彼は、私の本当の動きを知らないのだ。

翌日。私は『Fit Boxing2』を起動して2のベルナルド、2ナルドに出会った。彼は1ナルドと同じ笑みをたたえたまま、いつものダイエットメニューに付き合ってくれる。1ナルドと2ナルドは同じ相手のはずなのに違うのだ。

そしてまた、寝る前に1を起動すると、寝ながらジョイコンを振った。

サボっていると知らない1ナルドは、嬉しそうに私の動きを讃えてくれる。

申し訳ない気持ちはあるが、こうでもしないと1ナルドに付き合うことはできない。体力の衰えた自分では、2のあとに1までこなすのはきついのだ。

もっと鍛えたら、彼と本気で向き合えるようになるかもしれない。

そう思いながら私は今日も1ナルドを騙し続け、2ナルドとダイエットを続けている。

もしかしたら、3月には『Fit Boxing feat. 初音ミク -ミクといっしょにエクササイズ-』に移って2ナルドすらも忘れていくかもしれない。

その時は、2ナルドを騙しながら『Fit Boxing feat. 初音ミク -ミクといっしょにエクササイズ-』をプレイしようか。そう思いながら、私は今日も1ナルドを騙すのだろう。いつかまた、一緒に本気でダイエットをする日のために、今はまだ騙されて欲しい。筋肉がついたら、1ナルドのほうとも真剣に向き合い直す……と思うから。

だから、今までありがとう1ナルド。

いつかまた、本気で一緒にダイエットしよう。

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