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「大樹巡礼」という休日のあり方(モデルコース付)


来宮神社の大クス


西平の大カヤ
萩日吉神社の児持杉


シラヌタの大杉


概要:なぜ大樹か


大木。巨木。大樹。巨樹。
前ふたつは、なんとなく自分が見ているもののスケールを捉えきれていない気がする。とすると、大樹か、巨樹か。甲乙つけ難い。ただ、口に出してみると、「大樹」という言葉が抜群に心地いい。

休日の趣味として、たまに大樹を見て回っている。
自分の一番大きな趣味は登山なのだが、さすがに悪天候のときに登ろうとは思わない。曇り空程度なら眺望なしに楽しめる山もあるし、渓谷道歩きだっていいが、降水確率が半分に近づいてくるともう厳しいなという感じだ。
そういうときのために、大樹を見て回るコースをいくつか作って持っている。
そもそも自分にとって、山登りの最初は一本の木だった。
奥多摩の日原鍾乳洞の帰りに立ち寄った都内最大のヒノキ、『倉沢のヒノキ』を見て、山への興味を持った。

人が写ると大きさがよく分かる

だから大樹を巡るという遊びに辿り着くのも一周回ったかなという感じがある。

大樹を見ることのひとつの目的は、自然観察の楽しみだ。
突然無関係の話をするようなのだが、自分の中で、普段当たり前と捉えてスルー処理している認識の枠が外れてしまうときがある。
そうなると、「鳥、どう考えてもあんな動きで浮けないし、飛べないだろ」とか「山、巨大壁すぎるだろ」などと思ったりする。
その中に「木、生物として見たらビジュアルがグロテスクすぎるし、街中に生息してるの意味分からんすぎるだろ」というのがある。
そういう観点で見るとき、大樹は巨大生物になる。だから大樹を見るというのは、自分の中では、動物園にゾウを見に行くことやホエールウォッチングに近い。
また別方向の楽しみもある。
やや危うい言葉使いかもしれないが、「宗教的な気持ちよさ」を得ること、というのがそれだ。
普段、まったく信仰がない。特定の宗教にコミットしたことはないし、神仏も信じない。それでも、自然信仰、というのは少しある。山を登るようになってから、そういう感覚に気がつくようになった。
自然の圧倒的な光景を前にするとき、確かにそれが物理的に目の前に存在しているのと同時に、超越的なものとしても現れている、と感じる。人間の想像や思考の枠外の巨大な存在。それを五感で受け止めるというか、自分の認識をただそこに沈める、委ねる、みたいなことを通して、得も言われぬ心地よさを感じる。それが「自然信仰」の気持ちよさなのだろうと考える。
圧倒的な存在感で佇む大樹の根元に入るとき、ほぼ無意識に「失礼します」と一礼してしまうことがあって、その、「自分の世界認識が心地よく敗ける感じ」が、大樹を巡ることのひとつの楽しみになっている。
多くの大樹が神木として崇められているが、自分の思う自然の「カミ」のイメージに大樹はとても近い、というのもある。
だからこの記事を書くにあたって、「大樹を巡る」でなく「大樹巡礼」という言葉を使うことにした。


方法:大樹を巡るということの実際

普段休日に大樹を巡るというとき、事前に計画を立てて一日で六本から十本ほどを見て回る。
まずすることは、大樹マップの作成。

静岡で作るとこんな感じ

目的のエリアを定めて、見たいと思う大樹の位置をチェックしていく。
グーグルマップには「行ってみたいフラグ」を立てる機能があるので、これにどんどん突っ込んでいく。
大樹の探し方は、

こういったところから「とにかくこれが見たい」という一本を探してきて、その周囲のエリアを掘っていく、みたいな方法もあれば、「〇〇県 巨木」とかそのあたりで検索して同好の士のデータベースをあたっていく、という手もある。
そうやって上の画像のように地図上にチェックをつけていくと、何となく回るコース取りも見えてくるはずだ。

目当ての大樹を探し始めると、すぐに「大樹、めちゃくちゃ多いな」ということに気づく。
すべてを回ることはできないから、自分の見たいのはどんな樹なのか、ということを考えざるを得なくなる。
これはいろいろ見ていくうちに好みが分かり、ネット上のデータベースの情報から「多分これ好きなやつ」と判断できるようにもなってくる。
こればかりは個人の趣味の問題だと思うが、一応の私の基準としては、「樹の大きさは樹高より幹回りで見る」、「寺社などの境内でなく自然の中にあるものは、それだけで大幅加点」、「一本木ではないトリッキーな樹形のものは大抵迫力がある」などがある。

上で作った(私の好みによる)静岡大樹マップから伊豆を巡ると決めて、実際にルートを組んでみた。ルート作りはPC版のグーグルマップが便利だ。
経路タブの「目的地を追加」からどんどん「行きたい場所」フラッグをクリックして経由地を追加していけばいい。
実際にこれを巡ったときには城ヶ崎海岸など他の観光地にも寄り道したので、川津来宮神社と天城の太郎杉の間あたりで一泊し、二日の行程となった。

天城の太郎杉

ここで移動についてひとつ書いておくと、車移動というのが基本になってくる。
大樹というマイナースポットに公共交通機関で辿り着くのは至難の業だ。この記事でも複数個所を回るというのを前提に書いているので、時間という観点からも車移動が一番のように思う。
そうすると、注意すべきことがいくつか浮かんでくる。
ひとつは、自然に分け入っていく関係上、荒れた道を辿ることが多くなる点。山の中の林道を延々走らされることもある。今回の経路で言うと、『シラヌタの大杉』あたりはなかなか過酷な道行きになる。
また、気を付けるべきは駐車場所。今回の経路ではどの場所も駐車場ないし駐車スペースがあるが、過去に回った大樹の中では、駐車スペースがなく諦めざるを得ないものや、近隣のコンビニに停めさせて頂いて数十分歩く、というようなこともあった。この点ではバイクがとても有利といえる。
他には、時間をどの程度見ておくべきかということもある。一箇所あたり二十分から三十分というのが普通のところだが、時間帯による道路の混雑や、大樹の立地の関係上のタイムロスも生じる。静岡西部を回ったときに訪れた『智満寺の十本杉』では駐車場から山道を七〇〇メートルばかり登る必要があり、苦戦させられた。
計画通りに行かないこともこうしたマイナースポット巡りの面白さとも言えるが、このあたりはうまくネット上などでの情報共有が機能するといいなという思いがある。


実践:モデルコース 山梨県南アルプス市~南巨摩郡

最後に、実際に私が巡ったコースを追いながら、大樹巡礼のひとつのモデルコースを紹介していく。
このコースは私が大樹巡礼の中で最初に行ったもので、コンパクトにまとまりつつどれも見応えある大樹が揃っており、また実際に走ってみると注意すべき箇所もあって、モデルケースとして最適と判断した。

まずは地図から。
このコースを作るにあたっては、まず最終目的地の『湯島の大杉』を見たいということが先にあり、そこまでの途上で四本の大樹を経ていく、という形になった。
コースは三時間もあれば充分楽しめるもので、入門編として程よいものではないかと思う。

十日市場の大ケヤキ

南アルプスインターで高速を降りてほど近くにあるのが、『十日市場の大ケヤキ』。
衰退期にあり内部は空洞が空いてしまっているが、独特の樹形と迫力のある太い幹は見応えがある。
ここは畑に囲まれた小さな神社の境内にあって、駐車場所がないのが問題になる。周囲は一車線の狭い道だから、路肩に停めるというわけにもいかない。自分の場合は、徒歩十分ほどのローソン南アルプスインター店で少し買い物をして車を置かせてもらった。

湯沢の思い杉

車を十分ほど走らせたところから林道で山を登っていくと辿り着くのが、『湯沢の思い杉』だ。
この大樹は今までみた大樹の中でも、屋久島の『大王杉』に次いで、というくらい深く印象に残っている。二つの巨大な幹を持つとにかく圧倒的なスケールの大杉で、自然の中に位置していること、根元まで行けることなど、自分の評価軸の中では満点の樹。
道路の脇にひっそりとある案内板から百メートルばかり山の中に入ったところで、駐車スペースはその案内板前になる。二台程度しか停まらない狭いスペースなので、注意がいる。

常葉日光社の大ケヤキ

川沿いに三十分ほど車を走らせ、JR甲斐常葉駅の駐車場に車を置く。
駅前からすでによく見えている大樹が、『常葉日光社の大ケヤキ』だ。駅からは徒歩五分ほど。
二本の大ケヤキが融合したような姿で、生え方にも独特なものがある。
川に向かって張り出した大岩を包むように根が覆い、樹木自体は小さな社を抱くようにちょっとした島のような形を成している。
間近で見てから駅に戻り、再度遠目に見てみると、大きさがよく分かる。

本国寺のオハツキイチョウ

車で十分ほど行って橋を渡ったところの本国寺は、駐車場があってその場に車を停めることができる。
『本国寺のオハツキイチョウ』はいくつもの気根が伸びているのを観察することができる。気根は幹から下に向かって空気中に伸ばされた根のことで、それらが独特のフォルムを形作っている。

もし昼食休憩などを取るのであれば、ここからすぐの「道の駅みのぶ」がいい。次は少し長い行程になる。


湯島の大杉

山の谷間を抜ける険しい峠道を四十分ほど走ったところにあるのが、今回の目的地である『湯島の大杉』だ。
見つかっているものとしては県下最大であり、全国でも屈指のものとなる大杉で、幹囲十三メートル、樹高五十メートル。樹齢は千三百年ほどになるらしい。
ただただ圧倒されるような途方もない大樹であり、この樹を前にすると、上で書いたようなある種の宗教的な感覚というものを誰しもが感じるのではないかと思う。
一度は見てみてほしい大樹だ。
杉は山の斜面に立っており、登る石段の手前に駐車場あり。


といったところで、大樹巡礼という休日の過ごし方について書いてみた。
山登りほど専門的なものではなく、寺社仏閣めぐりとの合わせ技でもあり得て、移動手段さえ調達できるのであればなかなか面白い自然観察レジャーなのではないかなと思っている。
まずは近場で一本、見たいと思う大樹を見つけていただいて、訪れてみては?


付録:モデルコース二本

山梨 笛吹~都留~大月

智光寺のカヤー諏訪神社の大ケヤキ群落ー河口浅間神社の七本杉ー真福寺のカヤー瑞乃木神社の菅野のカツラー自徳寺のイチョウー矢立の杉

埼玉 秩父
1.

2.

富士浅間神社の滝ノ入タブの木ー高山不動の大イチョウー萩日吉神社の児持杉ー西平の大カヤー越沢稲荷の大杉ー姥樫ー上谷の大クスー高野倉八幡神社のイチイガシー正法寺の大銀杏ー千本カツラー一本杉峠の杉ー明ヶ指の大カツラ

十二本ときわめて多くの大樹を回るコースなので、一泊程度で回るのが適切かもしれない。
最後の大カツラそばには道の駅ちちぶと西武秩父駅があり、この駅は温泉も備えているから、最後に休憩していくのに丁度いい。ほか、時間の余裕があれば橋立鍾乳洞もおもしろい。
なお注意すべきこととして、『姥樫』はグーグルマップで検索すると全く違う場所に案内されてしまう(2022.9.1現在)。「梅川林道」から入るよう案内されると思うが、正しくは『越沢稲荷の大杉』近く、氷川沿いに椚平方面へ下る林道でアクセスする。
途中で林道は通行止めになるが、樫まではそこから歩いて五分ほど。

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