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投資家がISSB基準に抱く懸念とは? ~ 2023.12.14開催JICPAサステナビリティ・ウェビナーより①


泊りがけのスクーリングに行っていた子どもが発熱し、急遽お迎えに行ってきました(疲れました…)。そんな次第で今夜も短めですが、noteを書きたいと思います。

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昨日(2023年12月14日)は、「JICPAサステナビリティ・ウェビナーシリーズ」の「サステナビリティ開示と統合報告~グローバル議論と最新実務から課題を見出し、将来を展望する~」に参加してきました。

私にとっては、特に後半のパネルディスカッション「サステナビリティ開示・統合報告の現在地と将来展望」――なかでもアセットマネジメントOneの池畑さんのお話が大変勉強になりましたので、ここにメモを残しておきたいと思います。

(ウェビナーを見ながらの走り書きメモを基に書いていますので、正確な言葉遣いやニュアンス等異なる部分があるかもしれません。また、お話があった順に記載しているため、内容が一部重複しているところ等もあるかと思います。あらかじめお詫びいたします)

以下は池畑さんの発言メモ:


Q:投資家はサステナビリティ情報をどう活用しているのか?

A:
投資家が活用するサステナビリティ情報開示には、
  ① 企業が開示する情報
  ② 企業と投資家が対話で得た情報・取材情報
  ③ データベンダーから提供される取り組み情報
の3種類があり、当社ではESGデータベンダーから取りこんだデータを独自のレーティングにし、これに加えて対話やエンゲージメントの情報も使用している。

クオンツ運用ではデータベンダーから出される情報などが重要になるのだが、私のようにボトムアップで対話をする者の場合は企業の戦略の一貫性・妥当性を知り、投資の確信度をあげたいと考えているので、そうした情報がより多く記載されている統合報告書や対話の情報がより大きなウエイトを占めてくる。

Q:ISSB開示の制度化が進む状況についてどうのように見ているか?

A:
企業が出すサステナビリティ開示のデータがバラバラだったり不足・欠如していたりしており、情報の比較可能性がないことは大きな問題だった。ISSBのような情報開示制度ができることでそれが解消されることは歓迎だ。

ただ、一方で、企業側がISSBに頼ってしまい、企業のサステナビリティの取り組みや(その結果としての)価値向上がどうなっているかといった(ことがわかるような)開示が(後退し)、形骸化してしまうとしたら問題。

当社としては、今回のISSB発表をきっかけにしながら企業との対話を深めて行きたいと考えている。


Q:企業側の開示媒体について

A:
開示目的や読者によって媒体を分けて欲しい、それが財務資本提供者としての意見。

私たちは、企業の戦略の妥当性や整合性、一貫性を見て投資の確信度を高めて行きたいし、そういう情報に期待している。サステナビリティの取り組みが企業のありたい姿にどう結びつき、短期・中期・長期の戦略、ガバナンス、リスク管理に結びつき、あるいはそれらがどうKPIとしてモニタリングされ、(最終的に)どのように企業価値が向上していくかのストーリーを知りたいと考えている。

企業にはさまざまなステークホルダーがいるということは理解しているが、ひとまず、(サステナビリティ情報が)短期・中期・長期の企業価値とどう結びつくのかという情報開示を統合報告書に記載していただきたいと思っている。

Q:ISSB基準をどう評価しているか?

A:
かなり期待している。
理由としては

  • ISSB基準はいわゆるフィナンシャルマテリアリティにフォーカスしていただいているから。(これは我々投資家にとってありがたい)

  • SASBとしてすでに多くのグローバル企業や投資家が利用しているから

  • 業種別基準があるから。企業のビジネスのリスクは業種に結びついているものが多いが、そういったことを前提にISSB、SASBに業種別基準があるのはありがたいと思っている


Q:ISSB基準の活用による企業の変化にどのような点で期待しているか?

A:
マテリアリティの特定や取り組みへのアプローチの変化に期待している。

サステナビリティ情報開示の制度化、そしてISSB S1で期待されているようにマテリアリティを特定しなさい、となれば、サステナビリティがトップマネジメントや取締役会マターになっていくのではないか。

これまではサステナビリティ担当者や役員が「サステナビリティレポートや統合報告書が出たので承認してください」というふうになっていたかもしれないが、今後は、環境・社会課題を企業価値向上施策のひとつとして取締役会で積極的に議論していただき、戦略やモニタリングに落とし込んでいただくことを期待している。

ひいては、そういった議論をするためには(そもそも)取締役会のメンバーの中にそういった知見がある人が必要になるため、外国人や女性の方も含めて取締役会の多様性が高まっていくこと、その結果、企業のガバナンスがより強化されることも期待される。


Q:サステナビリティ情報を利用する投資家の立場から特に課題と感じていることは?

A:

①マテリアリティに関する企業と投資家の認識のギャップ

投資家の立場からすると、企業のマテリアリティは事業と関連に基づいたマテリアリティの絞り込みができていないのが課題だと考えている。

せっかくISSBというグローバル開示基準ができただから、グローバルの課題認識を見て、自社の置かれている事業環境やビジネスモデルをしっかり踏まえて、投資家と企業がマテリアリティに関する議論を重ねて行くことが大事ではないだろうか。

②統合報告書に記載されているマテリアリティと戦略、リスク管理等の開示情報の「結合性」

なお、今年あった統合報告書の中に、ある企業(注:おそらく伊藤忠商事さんではないだろうか)が自分達の財務と非財務の取り組みについて、短期的利益と資本コスト、成長率にわけてそれぞれマッピング、結びつけて開示している例があった。こういうのは納得性が高まる開示と言える。

③どうやって/どの程度という開示を増やしてほしい

単にその課題に取り組んでいるという”あり/なし”の情報だけでなく「どうやって」「どの程度」という開示を増やしていただくことが課題と思う。

企業の中には「いくら開示しても投資家に評価されない」とおっしゃる方もあるが、投資家の立場から申し上げるなら、どの程度、どのようにやっているのかと言う情報を企業価値と結び付けて開示していただくと戦略に関する納得性も確信も高まる。



比較可能性が高まることは歓迎しつつも、企業独自の開示が後退してしまうことを懸念する、というご指摘は企業側の者として大変印象的でした。

また、ダブルマテリアリティではないという点で批判されることもあるISSB基準ですが、やはり投資家から見ると「フィナンシャルマテリアリティにフォーカスしている」「業種別基準がある」という点で使いやすいと考えられているのだ、ということを改めて理解しました。


明日は、こうしたご指摘に対し、ISSBの小森理事がどのように発言されていたかを中心にまとめたメモを作成しようと思います。

以上、サステナビリティ分野のnote更新1000日連続への挑戦・67日目(Day67) でした。それではまた明日。

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