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ESGブランド調査の上位にランクされるのは喜ぶべきことか

サステナビリティ担当になってそろそろ1カ月半。最近は、愛読書はサステナビリティ関連全般、よく訪れるWebサイトは「日経ESG」と日経電子版、そして法律事務所のマイページという毎日を送っています。

さて今夜は、日々愛読しお世話になっているからこそ気になる日経BPさんの「ESGブランド調査」について、気がついたことを書こうと思います。



業種別ESGブランド指数1位はなぜ食品なのか


毎年秋に結果が発表される日経BP主催の「ESGブランド調査」では、業種別の「ESGブランド指数」も発表されているのですが、この業種別指数、実は4年連続で「食品」が1位になっているのだそうです。

その理由について、日経ESGでは以下のように説明しています。

業種別では、4年連続で「食品」が1位になった。この業種で上位のサントリー、キユーピー、日清食品の個別意見には、「ペットボトル」や「容器」「プラスチック」など資源の有効利用に言及するものが多い。

パッケージに使用するプラスチックを減らしたり、容器をリサイクル素材にしたりするなど、ESGの取り組みを伝えるメディアとして商品を活用できる強みは大きい。

ESGの取り組みを伝えるメディアとして商品を活用できるのが強みだから…との説明ですが、私は、もうひとつ大きな理由があると思います。
それは「広告出稿数の多さ」です。


日経ESGの記事によれば、ESGブランド調査の参加者が「ESGの情報源として活用する」と回答したメディアの第1位は、テレビ番組です。


そして、ご存じの通り、食品業界はテレビCMの出稿が多い業界です。

(参考)2023年2月8日発表 プレスリリース
株式会社エム・データ、2022年TV-CM会社ランキングを発表


ちなみに「第4回ESGブランド調査」のESGブランド指数トップ10企業は下記の通りです。上のランキングと重なり合う部分も…わりと…あるなぁという印象です…。

出典:日経BPウェブサイト



ESGブランド指数上位常連のコカ・コーラ


さてここで、「第4回ESGブランド調査」(=2023年)トップ10に、海外企業として唯一ランクインしているコカ・コーラに注目してみましょう。

日経BPのウェブサイトによれば、同社のESGブランド指数は

  • 第1回ESGブランド調査(2020年)… 記載なし(10位圏外?)

  • 第2回ESGブランド調査(2021年)… 第5位

  • 第3回ESGブランド調査(2022年)… 第10位

  • 第4回ESGブランド調査(2023年)… 第10位

と、過去3年間にわたって10位以内。ESGブランド上位常連と言って良い企業と思います。

特に環境(E)分野では

  • リサイクルに力を入れている…第2位

  • プラスチックの使用削減など資源の有効利用に努めている…第8位

  • 廃棄物削減に力を入れている…第13位(※同点4社のうちの1社)

と、3つの部門で上位を獲得するなど、高いブランド力を誇っています。


しかし”The Brand Audit Report”では…


日本ではこのように、環境(E)分野を中心とした高い「ESGブランド力」を有するコカ・コーラですが、#BreakFreeFromPlastic を掲げ活動している「Brand Audit」は異なる見解を示しているようです。

Brand Auditのランキングは、世界中の地域清掃活動で集められたプラスチック廃棄物のデータに基づいています。彼らは、収集したデータをもとに世界のトップ汚染企業を特定し、プラスチック汚染の危機の真の原動力はそもそもプラスチックを生産している企業であることを伝えてきました。
(原文は下記をご参照ください)

The mission with our brand annual audit is to identify the world’s top polluting corporations. By gathering data on plastic waste collected at community cleanups around the world, brand audits allow us to challenge the plastic industry and demand real solutions. Our reports have revealed that the true driving forces of the plastic pollution crisis are the corporations producing all this plastic in the first place.


そして、2022年11月に発表された過去5年間の「Brand Audit」の総合ランキングである「The Brand Audit Report 2018-2022」で世界のトップ(ワースト?)汚染企業群の第1位に選出されたのもまた、コカ・コーラなのです。


「言っていること」と「やっていること」の差を指摘


「The Brand Audit Report 2018-2022」では以下のように、同社が「言っていること(=掲げている環境目標等)」と「(実際に)やっていること」の差を指摘し、そこにはグリーンウォッシュがあると指摘しています。

出典:The Brand Audit Report 2018-2022 p.18


ペプシコはごみ回収データを基に訴えられた


地域清掃活動で集めたプラスチックごみの集計結果なんて、そんなの信頼に足るデータと言えるの?そんなデータでグローバル企業を糾弾したって仕方がないんじゃない?――このように思う方もおられるかもしれません。

ですが、今年(2023年)11月15日には、まさに「清掃活動で集めたプラスチックごみ」の結果をもとにして、米ニューヨーク州が米食品大手ペプシコを提訴しているのです。

【ニューヨークAFP=時事】米ニューヨーク州は15日、米食品大手ペプシコの飲料や食品のプラスチックごみが川を汚染しているとして、提訴した。同社が環境問題への取り組みについて「誤解を与える」声明を出しているとも批判している。(写真は小売店で販売されているペプシ〈資料写真〉)

ニューヨーク州は、ペプシコがバファロー川での「公的不法妨害」に寄与しているとし、制裁金や損害賠償、使い捨てプラスチックを使用した製品の販売停止を求めている。

州地裁に提訴したレティシア・ジェームズ司法長官は、「ニューヨークの全市民はきれいな水を使う基本的権利を有するにもかかわらず、ペプシコの無責任な包装とマーケティングはバファロー川の水と環境、市民の健康を危険にさらしている」と声明で批判した。

一方、ペプシコは、プラ削減に「真剣に」取り組んでおり、「透明性」を持って取り組んでいると反論した。

訴状によると、司法長官事務所が行った調査では、バッファロー川で回収されたプラごみはペプシコ製品が最も多かった。2番目に多かったファストフード大手マクドナルドの3倍の量だったという。


ちなみにペプシコは、「The Brand Audit Report 2018-2022」で第2位になった企業です。

出典:The Brand Audit Report 2018-2022 p.18


ESGブランドイメージと実態の差はリスク


以上を踏まえて私が今、改めて思うのは、消費者等の認識をあらわすESGブランド調査で高く評価されたとしても、それを単純に喜ぶわけにはいかないのではないかということです。

ブランドのサステナビリティに関する実績が人々の認識を上回っている場合は、実際の取り組みをより効果的に伝えることで、急速にブランドの価値を向上させられるチャンスだという。

逆に認識が実績を上回っている場合、ブランドの価値は危機に瀕していると言える。なぜなら、そのようなブランドは人々の反感を買いやすい状態で、サステナブルなブランドイメージの価値が低く見直されかねないためだ。

出典:サステナブル・ブランドジャパン ウェブサイト掲載記事(2023年8月1日)
世界的ブランドが抱えるリスクと機会――英ブランド評価会社調査に見るサステナブルなイメージと現実のギャップ


私も企業側の人間ですので、ESGブランド調査の結果が向上した場合、ブランドコミュニケーションがうまくいった!と喜んでしまうと思います。でも、その評価が実態よりも高く評価され過ぎた結果である場合、(訴訟にまでいかなかったとしても)ブランドの価値をかえって毀損することにもなりかねないリスクがある、そうしっかり認識しておきたいと思いました。


以上、サステナビリティ分野のnote更新1000日連続への挑戦・41日目(Day41) でした。それではまた明日。

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